女神と天才の異世界冒険譚
ともだちひゃくにん―アリス編―②
「なるほどのう……」
D校舎に入ったアリスは周囲を眺めると、そう呟く。
ここでは地球におけるディーラーと呼ばれる存在は無く、学生同士でギャンブルしているようだ。
ブラックジャックやルーレット、バカラやサイコロ。
地球でお馴染みのギャンブルもあれば、学生が考えたのかよく分からないものもある。
ディーラーがいない代わりに、ギャンブル漫画につきものの黒服がイカサマを監視しているようで、所々にその姿が見受けられる。
「何してるのよ? 私達はこっちよ!」「したいなら後で来るといーよ」「まあ、運を奪われた後では勝てるものじゃないだろうが……」
エリー達がアリスに向かって手招きをする。
彼女たちの前にはVIPルームと書かれた扉があり、そこには一人の黒服が立っていた。
「ご用件は?」
黒服が尋ねる。サングラスの裏でアリス達四人をジロリと値踏みするように目が動く。
「ラックスティーラーと戦いに来たわ!」
「場所は?」
「S校舎の食堂!」
「通れ」
黒服は横に退けるとドアを開ける。その対応に慣れているのかエリーはズンズンと進んでいく。
アリスとサオリだけはペコリと軽く頭を下げる。
「ラックスティーラーとの勝負はこの奥、一番広い部屋で行われるわ」
エリーはアリスに説明しながらどんどん進んでいく。
通路は一本道で、左右に四つずつドアがある。そして、奥に一つ。この奥の扉の先でラックスティーラーとのギャンブルを行う。
アリスはその途中で左右のドアから聞こえる悲鳴や歓声に少し興奮しつつ、エリー達の後を追った。
「やあ、始めまして。僕がラックスティーラーだよ」
扉の先に居たのは二十歳前半ぐらいの優男。くしゃくしゃの髪に柔和な笑顔を浮かべた年上に好かれるタイプだ。
部屋の中に置かれたテーブルに腰掛け、こちらに笑みを向けている。
いつからそのポーズで待っていたのだろうか。
「私は二回目よ」
エリーが少しだけ不機嫌そうに返す。
「ああ、ごめん! 確かエリーちゃんだったよね。覚えてるよ」
ラックスティーラーは慌てたように手をワタワタさせると、視線をアリス達三人に向ける。
「……っ! ……君たちは始めましてだよね?」
「?」
一瞬だがアリス達を見た瞬間、ラックスティーラーの目が見開かれた。
もちろん、アリスはそれに気付いたが深く考えず流した。
「はい! 私はマリーです!」
「私はサオリだ」
「アリスなのじゃ!」
三人が挨拶するとラックスティーラーはテーブルから立ち上がり、椅子へと座り直す。
「じゃあ、早速始めようか」
そういってどこからか剣や短刀、謎の瓶や草等の様々なアイテムをテーブルの上に並べる。
「じゃあ、まずは商品を選んで? わからないものは説明するよ」
ラックスティーラーは最後の一個、木彫りの熊を取り出すとそう告げる。
「……むむむ、これは煙火の剣……確か刃が煙のように実体を持たず、相手の武器も鎧もすり抜ける防御不能の剣ね。ただ私は炎属性の魔術は使えないから意味が無いわね」
「こ、これはブルガリアファミリーのリラとヨーグルトのセット……。まさかこの目で見れるなんて!」
「これは……伝説の職人、シンヤ氏の残した遺作……木彫り熊のツッキー……素晴らしい」
エリー、マリー、サオリが物色を続ける中、アリスは困ったようにそれを見ていた。
「えーと……アリスちゃんだっけ? もしかして欲しいものなかった?」
それに気付いたラックスティーラーが焦ったように話し掛ける。
「そういうわけではないのじゃが……とりあえずちゃん付けはやめよ。アリスで良い」
不愉快そうに顔をしかめるアリスはアイテムの中の一つ、綺麗な赤色の液体の入った小瓶を持ち上げる。
「これは何じゃ? ワシはあまりこういうのに詳しくなくての。どういうものかわからないのじゃ」
「それは……ああ。惚れ薬だね」
「何じゃと!?」
ラックスティーラーが答えると同時にアリスの目が見開かれる。
「といっても、相手の体質や体格にもよるけど効果があるのはだいたい一時間位だけどね」
「こ、効果はあるのか!? 一時間だけでも真人はワシの事を……っ! 違うのじゃ!」
一人でアタフタと突っ込むアリスにエリー達は生暖かい目を向け、ラックスティーラーは引き攣った笑みを浮かべる。
「あ、ああ。一応効果は実証されてる薬だよ。飲んで最初に見た相手の事がたまらなく好きになる……らしい」
何でもないことの様に答えたラックスティーラーは説明を続ける。
「作成者の意図は自分で飲んで好きな人に告白する勇気を出す、みたいな感じだったみたいだけど……まあ、買った殆どの人は別の使い方をしてね。今は生産も販売も禁止され、世界に何本と残ってないはずだよ」
ドヤ顔で説明を終えたラックスティーラーだが、アリスは前半しか聞いていない。彼女の頭の中ではどうやってその一時間で真人を落とすか、それだけを考えている。
「じゃあ、それぞれ決まったみたいだし……始めようか」
アリス達四人がそれぞれアイテムを手に持った所で、ラックスティーラーが手を叩く。
エリーは虹色に輝く宝石を、マリーはよく見るとたまに目が動く熊のぬいぐるみを、サオリは美しい蝶の刺繍が入った着物を、アリスは惚れ薬をそれぞれ手に持っている。
「誰からやる?」
「「私!」」
アリス以外の三人の声が重なる。
そして、顔を見合わせるとテーブルから少し下がり、無言でじゃんけんを始めた。
「君はいいの?」
ラックスティーラーが一人佇むアリスに話し掛ける。
「別に順番はどうでも良いのじゃ」
「ふーん……」
「それに最初はお主の力量を測りたいしの」
アリスはニヤリと笑い、ラックスティーラーを見る。
「な、なるほど。勝つつもりなんだ……」
その獰猛な笑みに少し引きつつも、ラックスティーラーは笑顔を崩さない。
「最初は私よ!」
エリーがチョキの形の手を掲げながら、テーブルに近づき椅子に座る。
「じゃあ……何にしようか?」
「もちろん、ポーカーよ!」
エリーが高らかに叫ぶと、ラックスティーラーはどこからか未開封のトランプを取り出す。
そして、エリーに渡す。
「ルールは?」
「チェンジ二回の、ファイブカードドローよ! ジョーカーもあり!」
ポーカーと一口に言っても、種類はいくつもある。
一番有名なのはテキサスホールデム。簡単に言えばこれは、各プレイヤー配られた二枚と、場にプレイヤー共通のカードとして置かれた三枚、この五枚で役を作る。
今回エリーが指定したのはファイブカードドロー。これは最初から五枚、各プレイヤーに渡し、二回チェンジをした後の役で勝負となる。
「じゃあ配るわ!」
エリーはトランプを取り出すと、数回シャッフルし、配り始める。
それぞれに五枚行き渡った所で、最初のチェンジ選択だ。
「……」
エリーの手札は……8のスリーカードにAとJ。フルハウスとフォーカードの役が狙えるいい手だ。
「一枚チェンジよ」
エリーはそう言うと、伏せたまま場にJを一枚だけ置き、残りの山札から一枚引く。
(二枚交換の方が確率的にはいいんじゃがの)
アリスはそう考えるが、何も言わない。人の勝負に口出しする程無粋ではない。
「……ちっ!」
舌打ちをするエリーの手札は……8のフォーカード。
とても舌打ちする役ではない。この役に勝てるのはストレートフラッシュとロイヤルストレートフラッシュ、ファイブカードしかない。
「……そちらは変えないで良いのかしら?」
「うん」
ラックスティーラーはチェンジしないようだ。相当良い役が入り、崩したくないらしい。
チェンジで崩れる役はフラッシュとストレート、それとさっきあげた三つだ。
「一枚チェンジよ」
エリーがAを場に捨てる。そして、引かれたカードは……。
「……よしっ!」
何とジョーカー。えげつない引きだ。
「相変わらず凄い引きだね」
「そうだな。これなら勝ちは決定的だろう」
小声でマリーとサオリが呟く。どうやらエリーはカードの引きが強いようだ。
「ふうむ……」
一方でアリスは難しい顔だ。
(イカサマ……か? じゃが、不審な点はなかったしのう……)
アリスがそう考えるのも無理はない。最初のスリーカードといい確率的におかしい。
「流石に今回は私の勝ちだと思うのだけれど?」
ニヤリと笑みを浮かべ、ラックスティーラーに話し掛けるエリー。
「どうだろうね?」
一方でラックスティーラーは気にしたそぶりは無い。
「じゃあ、賭けの勝負ではないし、早速勝負といこう」
「わかったわ」
そして、お互いが手に持ったトランプを場に投げ出す。
「8のファイブカード」
エリーが高らかに宣言する。その顔には勝利の確信と、喜びが溢れている。
だが、
「9のファイブカード」
ラックスティーラーは特に表情の変化もなく、そう告げたのだった。まるで決まりきった展開に飽きているかのように。
D校舎に入ったアリスは周囲を眺めると、そう呟く。
ここでは地球におけるディーラーと呼ばれる存在は無く、学生同士でギャンブルしているようだ。
ブラックジャックやルーレット、バカラやサイコロ。
地球でお馴染みのギャンブルもあれば、学生が考えたのかよく分からないものもある。
ディーラーがいない代わりに、ギャンブル漫画につきものの黒服がイカサマを監視しているようで、所々にその姿が見受けられる。
「何してるのよ? 私達はこっちよ!」「したいなら後で来るといーよ」「まあ、運を奪われた後では勝てるものじゃないだろうが……」
エリー達がアリスに向かって手招きをする。
彼女たちの前にはVIPルームと書かれた扉があり、そこには一人の黒服が立っていた。
「ご用件は?」
黒服が尋ねる。サングラスの裏でアリス達四人をジロリと値踏みするように目が動く。
「ラックスティーラーと戦いに来たわ!」
「場所は?」
「S校舎の食堂!」
「通れ」
黒服は横に退けるとドアを開ける。その対応に慣れているのかエリーはズンズンと進んでいく。
アリスとサオリだけはペコリと軽く頭を下げる。
「ラックスティーラーとの勝負はこの奥、一番広い部屋で行われるわ」
エリーはアリスに説明しながらどんどん進んでいく。
通路は一本道で、左右に四つずつドアがある。そして、奥に一つ。この奥の扉の先でラックスティーラーとのギャンブルを行う。
アリスはその途中で左右のドアから聞こえる悲鳴や歓声に少し興奮しつつ、エリー達の後を追った。
「やあ、始めまして。僕がラックスティーラーだよ」
扉の先に居たのは二十歳前半ぐらいの優男。くしゃくしゃの髪に柔和な笑顔を浮かべた年上に好かれるタイプだ。
部屋の中に置かれたテーブルに腰掛け、こちらに笑みを向けている。
いつからそのポーズで待っていたのだろうか。
「私は二回目よ」
エリーが少しだけ不機嫌そうに返す。
「ああ、ごめん! 確かエリーちゃんだったよね。覚えてるよ」
ラックスティーラーは慌てたように手をワタワタさせると、視線をアリス達三人に向ける。
「……っ! ……君たちは始めましてだよね?」
「?」
一瞬だがアリス達を見た瞬間、ラックスティーラーの目が見開かれた。
もちろん、アリスはそれに気付いたが深く考えず流した。
「はい! 私はマリーです!」
「私はサオリだ」
「アリスなのじゃ!」
三人が挨拶するとラックスティーラーはテーブルから立ち上がり、椅子へと座り直す。
「じゃあ、早速始めようか」
そういってどこからか剣や短刀、謎の瓶や草等の様々なアイテムをテーブルの上に並べる。
「じゃあ、まずは商品を選んで? わからないものは説明するよ」
ラックスティーラーは最後の一個、木彫りの熊を取り出すとそう告げる。
「……むむむ、これは煙火の剣……確か刃が煙のように実体を持たず、相手の武器も鎧もすり抜ける防御不能の剣ね。ただ私は炎属性の魔術は使えないから意味が無いわね」
「こ、これはブルガリアファミリーのリラとヨーグルトのセット……。まさかこの目で見れるなんて!」
「これは……伝説の職人、シンヤ氏の残した遺作……木彫り熊のツッキー……素晴らしい」
エリー、マリー、サオリが物色を続ける中、アリスは困ったようにそれを見ていた。
「えーと……アリスちゃんだっけ? もしかして欲しいものなかった?」
それに気付いたラックスティーラーが焦ったように話し掛ける。
「そういうわけではないのじゃが……とりあえずちゃん付けはやめよ。アリスで良い」
不愉快そうに顔をしかめるアリスはアイテムの中の一つ、綺麗な赤色の液体の入った小瓶を持ち上げる。
「これは何じゃ? ワシはあまりこういうのに詳しくなくての。どういうものかわからないのじゃ」
「それは……ああ。惚れ薬だね」
「何じゃと!?」
ラックスティーラーが答えると同時にアリスの目が見開かれる。
「といっても、相手の体質や体格にもよるけど効果があるのはだいたい一時間位だけどね」
「こ、効果はあるのか!? 一時間だけでも真人はワシの事を……っ! 違うのじゃ!」
一人でアタフタと突っ込むアリスにエリー達は生暖かい目を向け、ラックスティーラーは引き攣った笑みを浮かべる。
「あ、ああ。一応効果は実証されてる薬だよ。飲んで最初に見た相手の事がたまらなく好きになる……らしい」
何でもないことの様に答えたラックスティーラーは説明を続ける。
「作成者の意図は自分で飲んで好きな人に告白する勇気を出す、みたいな感じだったみたいだけど……まあ、買った殆どの人は別の使い方をしてね。今は生産も販売も禁止され、世界に何本と残ってないはずだよ」
ドヤ顔で説明を終えたラックスティーラーだが、アリスは前半しか聞いていない。彼女の頭の中ではどうやってその一時間で真人を落とすか、それだけを考えている。
「じゃあ、それぞれ決まったみたいだし……始めようか」
アリス達四人がそれぞれアイテムを手に持った所で、ラックスティーラーが手を叩く。
エリーは虹色に輝く宝石を、マリーはよく見るとたまに目が動く熊のぬいぐるみを、サオリは美しい蝶の刺繍が入った着物を、アリスは惚れ薬をそれぞれ手に持っている。
「誰からやる?」
「「私!」」
アリス以外の三人の声が重なる。
そして、顔を見合わせるとテーブルから少し下がり、無言でじゃんけんを始めた。
「君はいいの?」
ラックスティーラーが一人佇むアリスに話し掛ける。
「別に順番はどうでも良いのじゃ」
「ふーん……」
「それに最初はお主の力量を測りたいしの」
アリスはニヤリと笑い、ラックスティーラーを見る。
「な、なるほど。勝つつもりなんだ……」
その獰猛な笑みに少し引きつつも、ラックスティーラーは笑顔を崩さない。
「最初は私よ!」
エリーがチョキの形の手を掲げながら、テーブルに近づき椅子に座る。
「じゃあ……何にしようか?」
「もちろん、ポーカーよ!」
エリーが高らかに叫ぶと、ラックスティーラーはどこからか未開封のトランプを取り出す。
そして、エリーに渡す。
「ルールは?」
「チェンジ二回の、ファイブカードドローよ! ジョーカーもあり!」
ポーカーと一口に言っても、種類はいくつもある。
一番有名なのはテキサスホールデム。簡単に言えばこれは、各プレイヤー配られた二枚と、場にプレイヤー共通のカードとして置かれた三枚、この五枚で役を作る。
今回エリーが指定したのはファイブカードドロー。これは最初から五枚、各プレイヤーに渡し、二回チェンジをした後の役で勝負となる。
「じゃあ配るわ!」
エリーはトランプを取り出すと、数回シャッフルし、配り始める。
それぞれに五枚行き渡った所で、最初のチェンジ選択だ。
「……」
エリーの手札は……8のスリーカードにAとJ。フルハウスとフォーカードの役が狙えるいい手だ。
「一枚チェンジよ」
エリーはそう言うと、伏せたまま場にJを一枚だけ置き、残りの山札から一枚引く。
(二枚交換の方が確率的にはいいんじゃがの)
アリスはそう考えるが、何も言わない。人の勝負に口出しする程無粋ではない。
「……ちっ!」
舌打ちをするエリーの手札は……8のフォーカード。
とても舌打ちする役ではない。この役に勝てるのはストレートフラッシュとロイヤルストレートフラッシュ、ファイブカードしかない。
「……そちらは変えないで良いのかしら?」
「うん」
ラックスティーラーはチェンジしないようだ。相当良い役が入り、崩したくないらしい。
チェンジで崩れる役はフラッシュとストレート、それとさっきあげた三つだ。
「一枚チェンジよ」
エリーがAを場に捨てる。そして、引かれたカードは……。
「……よしっ!」
何とジョーカー。えげつない引きだ。
「相変わらず凄い引きだね」
「そうだな。これなら勝ちは決定的だろう」
小声でマリーとサオリが呟く。どうやらエリーはカードの引きが強いようだ。
「ふうむ……」
一方でアリスは難しい顔だ。
(イカサマ……か? じゃが、不審な点はなかったしのう……)
アリスがそう考えるのも無理はない。最初のスリーカードといい確率的におかしい。
「流石に今回は私の勝ちだと思うのだけれど?」
ニヤリと笑みを浮かべ、ラックスティーラーに話し掛けるエリー。
「どうだろうね?」
一方でラックスティーラーは気にしたそぶりは無い。
「じゃあ、賭けの勝負ではないし、早速勝負といこう」
「わかったわ」
そして、お互いが手に持ったトランプを場に投げ出す。
「8のファイブカード」
エリーが高らかに宣言する。その顔には勝利の確信と、喜びが溢れている。
だが、
「9のファイブカード」
ラックスティーラーは特に表情の変化もなく、そう告げたのだった。まるで決まりきった展開に飽きているかのように。
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