女神と天才の異世界冒険譚
ともだちひゃくにん②
「さて! やる事はわかってるな。アリス」
「友達作りじゃろ? 任せるがいい! こう見えてワシは昔から友達が多かったんじゃ! ネット上の」
「ネット上かよ!」
「なんじゃよ、ネット上だって友達は友達じゃろう?」
……まあいいか。
リアルのは? と聞きたいところだがやぶ蛇な気がする。止めておこう。
少なくともルネと言う友達が一人はいるわけだし。うん。
「そうだな。……俺は男共、アリスは女子達を頼む」
「ふむ。了解じゃ」
女子は皆十代だ。俺としてはちょっと遠慮したい。年齢差を感じると悲しくなるから。
そうこうしているうちに二階へと辿り着いた。
「よし、着いたぞ」
「うむ」
二階は食堂と商店、それとサルビアの部屋がある。食堂には思惑通り数人の生徒が集まっていた。
一応、資格試験の時に名前と見た目は把握している。大丈夫だ。
「やれやれ。サルビア先生にも困ったものだなあ」
「そうじゃなあ」
適当な会話をしながら食堂に入る。
まずはこの空間の空気を感じ、馴染むことから始めようと思ったのだが……。
入った瞬間、食堂の空気が変わった。少し聞こえていた話し声も消え、ただ、カチャカチャと食器の音が響く。
「……なんだよ、この空気」
「完全にアウェーなのじゃ……」
とりあえずトレイを取り、並んでいる料理を取っていく。正直、こればかりは見た目で判断するしかない。不味かったらアリスに回そう。
「さて……と」
銅貨を食堂のおばさんに渡し会計を済ませると、食堂を見回す。
グループは三つ。
女子三人組でコソコソと話しているのが一つ。
男二人で黙々ともぐもぐ食べているのが一つ。
そして、ぼっちが一つか。あ、これはグループじゃないか。
どこに向かおうか?
◆◇◆
「何食べてるの?」
こういうときに狙うのはぼっちだ。
何故なら二人組みは完全に親友同士だろう。そこに割って入ったとしてもその場限り。それに三人組だと二人組みに分かれるときに辛い思いをしないといけなくなる。
よって、ぼっちを仲間にし、それから二人組みと交流。四人組になる。これが正しいルートだ。
ちなみに女子のグループにはアリスが向かった。
「え、えと、僕に言ってるの?」
めちゃくちゃ警戒されているようで、落ち着き無く視線を動かすぼっち。……確かアインだったか? 見た目からして貧弱そのものだが、何を思ってこんな資格全取得なんて無茶なクラスに来たんだろうか。
「そうだよ。ええと、アイン君だったよね?」
「あ、うん。えと、マナトくん」
「あ、覚えててくれたんだ。嬉しいな。何か最初の時、全然反応無かったから……」
よしよし。アイン君はあれだな。性格が悪くてぼっちな訳じゃなく、能力的なものでぼっちなんだろうな。見た目は悪くないし。
「あ、それはサルビア先生がこんな途中で新しい人を入学させるのは珍しいから……みんな、戸惑ってたんだと思う」
「へー……」
「それにあの後、あんな事があったし……」
「あー……」
こればかりはしょうがない。あれだけ鍛え上げられた体なら全力で殴っても大丈夫と思ったんだ。……どうしたものか……。
「いや、ちょっと力加減に失敗して……サルビア先生からも怒られたよ……」
そう言って力なく笑う。本当は怒られてもいないし、力加減もする気はなかったんだが。
そして、あえて少し弱い喋り方というか雰囲気を作る事で、アインと同調していく。友達作りのためには話し方一つにも気をつけないとな。
「あはは。……サルビア先生を相手に力加減なんて初めて聞いたよ」
その甲斐あってかアインが少しだけ笑みを浮かべる。緊張も少しだけほぐれている。
ここだ。
「そんなに凄い人なんだ? 俺、ちょっと事情があって世俗に疎いというか、そういうこと知らなくて……」
「っ!!」
とりあえず話題を、と俺がそう言った瞬間、アインが勢いよく立ち上がる。
「そりゃあもう! なんたって武術資格を全て取得している上に、魔術資格も五つ持ってるなんてこの街ではサルビア先生だけだよ! 王都とか他の町から、サルビア先生目当てで来る生徒も居るぐらいだよ!」
ああ、君か。と言いたいところだが、ここは追求しないでおこう。もし、そうなら俺に恨みを持っててもおかしくない。
「そっかあ。確かに色んな武器の扱いが凄い巧みで、あれは俺も驚いたよ」
「でしょ? 格闘ではサルビア先生も女性だし、マナトくんに負けちゃったけど……武器を持ったら……」
「まって」
「え?」
聞き捨てなら無い話があった。
「え? 女性? 誰が?」
「え? サルビア先生だよ」
マジか。いや、マジか。あの体格で女だと。確かに話し方とか女性っぽい気はしないでもないけど……。顔もそういわれるとかっこいい女性に見えなくも……。いや、あの筋肉はおかしいだろ。
「ちょっと君達。衝撃のニュースがあるんだが」
俺は立ち上がると二人で食べていた男子のところに歩いていく。
一人は短髪のスポーツマンといった爽やかな少年、ライル。もう一人は汗かくの嫌いなんだ、とか言いそうな長髪のクールな少年、ケイン。
「サルビア先生って……女性なんだって」
「「……あ、はい。知ってますけど」」
二人は愛想笑いを浮かべるとそう答えた。
「マジで? え? で、でも初見ではわからなかったよね?」
「「それは……まあ」」
「何言ってるんだよ!」
二人がそう答えた瞬間、アインが勢いよくやってくる。
「あんなに女性的魅力に優れた女性はいないでしょ! 丁寧な言葉遣いも、包容力のある対応も、包み込んでくれそうな大きな体も、そして何よりあの大きな胸! 加えて攻撃してくる瞬間の膨張する筋肉!」
いや、胸はあれ絶対九割筋肉だろ。あんまり魅力感じない。そして、今アインのせいで注がれている三人組の少女達からの視線が痛い。
「何を騒いでいるのですか?」
と、そこに話題のサルビアが現れた。
「サルビア先生の魅力について語っていました」
こいつすげえな。
俺は思わず驚愕から身を引いてしまう。他の二人、ライルとケインも引きつった笑みを浮かべている。
アインはメンタルだけは最強かも知れないな。
「あいつ……あんな奴だったのか」
「いつもサルビア先生の周りにしか居ないからおかしいとは思ってたが……」
アインがぼっちなのは基本的にサルビアとしか話さない、話してもサルビアの事しか話さないからのようだ。
……そういえば、俺とも最初からサルビアの話題しか話していなかったな。
「また君ですか。アインくん。私のことばかりではなく他の事も話したらどうですか? それでは友達も出来ないですよ?」
サルビアが中々にきつい事を言う。
しかし、メンタルに自信アリのアインはへこたれず、こちらを見るとサルビアに向かって言った。
「友達なら出来ました。先生が作れと仰いましたし。……マナトくんです!」
「え?」
食堂中の視線が俺を捉える中、俺は……
「あはは……」
愛想笑いをするので精一杯だった。
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