女神と天才の異世界冒険譚
異世界へ?
「あ、もしもし。ルネ? うん。そう。アリス。前言ってた話なんじゃけど……」
「…………」
てっきり手を握れば異世界に向かうのかと思ったが、アリスは少し照れたように笑うと、もう片方の手で器用に電話を掛けだした。
……女神ならテレパシーみたいなのあってもいいと思うんだけど。
何度か掛けなおしている時に聞いた話によると、アリスはただ地球を管理しているだけで、別の世界には別の世界を管理している女神が居るらしい。
だから別の世界へ行くには別の世界の女神に話を通しておかないといけないらしい。
ややこしい。
「……あっはっは。そうなんじゃよ。あの武器が……」
つい考え事をして会話を聞いていなかったが、なにやら嫌な予感がする。……気のせいだよな。うん。
◆◇◆
「マジで? え? あれってルネちゃんだったの? ごめーん。死体撃ちまでしちゃったのじゃ……」
あれから一時間が経った。
俺は異世界へ行く事を諦めて、暇つぶしに真っ白な空間の壁を見つけようとひたすら歩いて、またアリスの所に戻ってきた。
どうやらこの空間はループしているようだ。
それもアリスに背を向け、真っ直ぐに歩いていたというのに正面にアリスがいる。俺は少しも曲がった記憶はない。
アリスが移動していないのであれば、おそらく進んだ先のどこかで逆向きに繋がる空間があるようだ。
「あはは。あ、それで前言ってた話なんじゃけど……」
聞こえてきた会話にやっと本題に入るのかと期待したが、俺のその期待は次の言葉で脆くも崩れ去る。
「そうそう。あの武器が……」
どうやらこちらもループしているようだ。というか、前言ってた話ってあの武器とやらの話かよ。どの武器だよ。
「そうじゃ! もし今日暇なら遊びにくるといいのじゃ! 久しぶりにスマ○ラやりたいのじゃ。DXの。それ以降はどうも肌に合わないというか……あ、暇? やったのじゃ! うん! うん! わかった。準備しとくのじゃ。じゃあ、切るぞーい」
そう言って電話を切ったアリスは、俺を見つけると、明らかにしまった! という表情を浮かべながら、おずおずと問いかけてくる。
「……真人もどうじゃ?」
そう言って差し出されたのは紫色のコントローラー。ふざけた話だ。全く。
俺は怒りに震えながら答えた。
「やるに決まってるだろ! だけど、自分のコントローラーを取ってくるから地球に戻してくれ!」
このスマ○ラ世界最強の俺が他人のコントローラーで出来る訳ないだろ。
使い慣れた、相棒と呼んでもいい位のあのコントローラーじゃないと本当の実力は出せない。
せっかく女神という初めての対戦相手がいるのだ、どうせなら全力てやってみたい。
「そ、そうか。じゃあ……」
そう言ってアリスはコントローラーをその場に置くと、なにやら手をごそごそやっている。
というか、コントローラーどこから……っていつの間にか周りが真っ白な空間から普通の部屋に変わっている。
いや、普通とは言えないか。
所狭しと立ち並ぶぎっしりと漫画が詰まった本棚。大きな箱に機種ごとに分けられ、並べられたゲームたち。それぞれの表紙には付箋が貼られており、AだのBだの貼られている。評価だろうか。
これは……強敵の予感に胸が高鳴る。
「はいこれ」
思わず笑みを浮かべていた俺に、後ろから声が掛けられる。
顔だけで振り返るとアリスがまたコントローラーを差し出している。こいつはまた……っと、体ごと振り返った俺の目に飛び込んできたのは見慣れたメタリックシルバーのコントローラー。
「これは……」
俺の相棒だ。この高貴な銀色でありながら、少しだけ黒ずんだ、まるで歴戦の戦士のような佇まい。ああ……久しぶり。また一緒に戦おう。
俺はアリスの手からそれを受け取ると、ゲーム機へと差し込む。既にセッティングされたそれはディスクの回転音と共にテレビ画面にキューブを映し出す。
戦いが……始まる。
「久しぶりー」
最後の参加者が空間から突然現れる。
アリスと同じぐらいの年齢の少女だ。その手にはコントローラー。Aボタンが少しへこんでいる……コイツも期待できそうだ。
「それで……期待してもいいのか? 俺が本気を出せることを」
「……何なら二人がかりでもいいんじゃよ?」
「ま、どうせ勝つのは僕なんだよねー」
三者三様の煽りの言葉と共に、素早いおっさんとピンクの化け物と電気ねずみの戦いが始まった。
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