女神と天才の異世界冒険譚

たぬきち

出会い



「もう一度言ってくれるか?」

 だだっ広い真っ白な空間で、俺は思わず聞き返してしまう。

 先程目の前の少女から聞かされた信じられない言葉を。

「しょうがないのう。えー……コホン。――ワシと一緒に、異世界冒険をしよう! 魔王が君を待ってるぞ!」

 うん、なるほど。

 どうやら俺は頭がおかしくなったようだ。

 とにかく落ち着いて状況を整理しよう。

 俺の名前は神崎真人かんざきまなと。高校の同窓会へと向かう途中、視界が一瞬揺らいだかと思ったらこの真っ白な空間に来ていた。

 そしてどこぞのヒーローショーのような宣伝文句で、異世界冒険とやらに誘って来たのが目の前の銀髪の少女。

 うん。駄目だな。全然わからん。

「まず聞きたいんだが、ここはどこだ? 君は誰だ? そして俺は誰だ?」

「ここは白の部屋なのじゃ。お話しするのに静かな部屋がいいかな、と思って。そしてワシの名前はアリス。お主は真人じゃ!」

 軽くボケたつもりだったのだが、普通に返されてしまう。というか、初対面のはずが名前が知られている。なるほど。これはあれか。

「異世界転生ってやつか」

「いや、違うのじゃ。お主は死んでないし。ただ、異世界に遊びに行かないかなあって。……簡単に言うとじゃな、その、で、デートのお誘いじゃよ!」
 
 違った。

 真っ赤な顔で俯いているアリスとやらの話を信じるなら、どうやら異世界にデートに行きましょう、というお話しらしい。

 なんだそれ。

「いやいや、俺もそれなりに忙しいし、これから高校の同窓会が……」

「だいじょぶじゃ! 今、地球の時間は止めておるから浦島太郎みたいなことにはなんないのじゃ! ぐっじょぶじゃろ?」

 だいじょぶとぐっじょぶで韻を踏んだつもりなのか、ドヤ顔をするアリスに少しだけイラッとする。

 そこまで上手くねえし。

 だが、それよりも衝撃の事実が判明したようだ。

 現在、地球の時間は止まっているらしい。

 本当の意味で時間が停止しているのなら、少なくとも生物は滅んでいる可能性が高いが、そこは不思議ぱわーに期待するとしよう。

「よくわからないんだけど、お前は一体何者なんだ?」

「お前じゃなくてアリスじゃよ!」

 アリスは少し頬を膨らませ、俺に抗議してくる。うーん……何か演技臭いんだよなぁ。

 まあでもとりあえず。

「アリス、お前は一体何者なんだ?」

「もっとラブコメっぽく!」

 何かダメ出しされてしまった。いつの間にかアリスの服装がセーラー服に変わっている。

 何なんだ一体。

 ラブコメっぽく……となると。

「あのよ……アリス。その、お前の事が知りたいんだけど、教えてくれねーか?」

「もっと武士っぽく!」

 今度は着物に着替えたアリス。なるほど……どうやら人間ではなさそうだ。

「アリス殿、どうかお聞かせくだされ。あなたの事を……」

「もっとシリアスに!」

 今度の服装は最初の白いワンピースに戻っているが、ところどころに血が付着している。

 そろそろ終わりにしたいものだ。

「アリス……っ!? 君は……いったい……!?」

「女神様のじゃよー!」

 無駄に羽を生やし、キラキラとエフェクトを使用して満足そうな顔で告げられたその言葉に、何で女神はのじゃ系が多いのかなあ、なんてくだらない事を考えてしまうが、まあ予想の範疇だ。ああ。嘘だ。

 それにちょこちょこ気になっていたが、のじゃを使い慣れていないようだ。おそらく似非のじゃだろう。

「…………」

 あ、もしかして夢じゃないだろうか? 女神だの異世界だの魔王だのさ。それもこんなふざけた女神様なんて。

 まあ、もしこれで本当に夢なら俺はまだ少年の時の心を失って無かったという事だ。具体的に言うと思春期あたりの。

「まあ、ワシの事は旅の中で知っていけばいいのじゃ! どうせ退屈していたんじゃろ? 一緒にいくのじゃ!」

 そう言ってアリスは邪魔だったのか羽を取り外し、俺に手を差し出す。

 取り外し可能だったのかよ。

「…………」

 それにしても、退屈か。

 確かに、例えこれが夢でも暇つぶしにはなる。

 そう考えた俺は、差し出された小さな手をしっかりと掴む。

「わかった。連れてってくれ。……異世界とやらに!」

 アリスの言う通り、俺は退屈している。予定調和の日々に、世界に、人生に。

 だから俺はどこか期待していたのかも知れない。

 世界が変わることを。

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