自殺願望、即ち勇者!

えあもどき

第二話.毒、即ち栄養ドリンク


 俺は豪華な服から質素な服へと着替え、外の街へと出てきていた。

「ていうか、ニーヤはメイド服のままなのか」
「まぁ一応メイドですし、仕方ないのです。貴方が死なない限り、私は普通の服を着ることはできないでしょう」

 ニーヤが遠回りに死ねと言ってくるが、慣れてしまった俺はへぇと相槌を打った。

「それで、後どれくらい歩けばいい? もう三十分は歩いてると思うんだけど」
「あと少しです。そんなに焦らないで下さい貴方の分際で」
「俺って勇者じゃなかったっけ……!」
「そうでしたか? 忘れました」
「お前なぁ……」

 俺が言葉を返そうとした時に、ニーヤが突然止まる。
 俺はその背中にぶつかると、ニーヤが不愉快そうに顔を歪めて俺の方を見てきた。

「ごめんって」

 俺は謝ると、ニーヤはため息をついて前を向き直す。

「ここです」
「ここ? ただの路地裏じゃないか」

 ニーヤが指した場所は、ただの何もない路地裏。道が続いているわけでもなく、少し歩いたら行き止まりになっている場所だ。
 でも、ニーヤはそんなことを気にせず路地裏へと入って行った。俺もそれに付いていく。

「──なんの用だいねぇさん」

 すると、如何にも怪しいって感じの奴が何処からともなく出てきた。

今回は、、、毒を買いに来ました」
「なんの毒だい。毒と言っても何種類かある。一応薬品も揃えているがこれは……高くなりやすぜ」

 「そうですか」ニーヤは言うと、その懐から大量の金が入ってそうな袋を取り出した。

「一番強力な毒をお願いします。ドラゴンも容易く殺す事が出来る物を」
「──おっとそりゃあ困った。それほどの物になると簡単にお渡しするこたぁできやせんぜ」
「金ならあります」
「そういう問題じゃあねぇんですよねぇさん。普通の毒なら今すぐにでも出せるが、ドラゴンも殺せる毒となると少しばかり時間が必要になっちまう」
「つまり?」
「二日後、またここでお会いしやしょう。その頃には、最高級の毒を仕入れておきやすよ」

 その男のフードの奥から少し見える目が、少し薄くなるのが分かる。
 ニーヤは「分かりました」と言うと、身を翻して路地裏から出ていく。
 俺もそれに付いて行こうとした時に、後ろからフードの男が何故か呼び止めてきた。

「アンタ、ねぇさんの護衛か何かか?」

 何処か俺の事を探るような、そんな聞き方だった。

「あー……ちょっと違いますね」
「へぇそうかい。まぁそうだろうよ」
「えっと……それが何か?」

 俺は聞き返すと、謎の男は首を振る。

「いや、少し気になっただけでさぁ。ただ、ねぇさんの前ではあまり──」
「──私がどうかしましたか? ほら、さっさと行きますよノロマ野郎」

 男の言葉はニーヤによって遮られてしまい、男は何でもないと誤魔化して何処かへと消えて行った。

「何だったんだ……?」

 俺はそれを不審に思いながらも、ニーヤの後ろへと付いていくのであった。

 ▽

「と言うことで貰ってきました」

 突然ノックも無しにニーヤが部屋に入って来たかと思うと、突然俺に小瓶を渡してきた。

「あぁ、二日前の毒の件か」

 あれから俺は、ありとあらゆる自殺を行ってみた。でも結果は全て失敗。
 もう一度高い所に登って飛び降りてみたけど、地面に突き刺さるだけで死ぬ事は無い。というか痛くもない。
 ならばと水の中に顔を沈めて窒息死をしようとしたけど、三時間くらい経過した時にはもう水中で息ができるようになってしまった。
 今度こそと家の中を歩いてた傭兵みたいな人に剣を借りて自分に思い切り突き刺してみたけど、それによって後ろの壁に巨大な穴が空いてしまったりと、散々な結果になってしまった。

 本当に訳がわからない。まだ食事を一回も取っていないのに腹も空かないし、勇者の適応能力が高すぎて死にたいのに死ねない。
 というか俺は不死身なのでは無いのかと最近思い始めてきた。そうだとしたら俺はどうすればいいんだろうか。

 いや、やめよう。ドラゴンも殺してしまう毒を飲めば、流石の俺でも死ぬ筈だ。ドラゴンがどんなやつか知らねぇけど。

「よし、飲むぞ」

 俺は小瓶の蓋を開けると、慌ててニーヤがガスマスクみたいな奴を装着するのが見えた。

「……これってそんなにヤバイやつなのか?」
「気化しやすい毒なので。ほんの少しでも吸ってしまうと蝉の如くコロリと死にます」
「へぇ」

 じゃあもう嫌な予感しかしない。大量に気化した毒を吸い込んでいる筈なのに何の異常も起きない。

 いや、飲んでこそ効果が発揮できるはずだ。早速飲んでみよう。

 グビグビ。

「うっ──」

 飲んだ瞬間に、俺の身体に違和感が生じたのが分かった。俺は小瓶を地面に落とし、お腹を抑える。その時に溢れた毒が地面に触れた瞬間に、その地面が嫌な音を立てて溶けていく。

「うぉぁぁぉぉぉぉぉぉぉぁぁ腹がいてぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ……」

 ギュルル、と俺のお腹から鳴ってはいけない音が鳴る。さっきの様子を見た感じだと、胃が溶けていっているんだろうか。
 いやでも、行ける。行けるぞ!! このまま行けば俺は死ねる!! さぁ死ぬんだ俺!!

「あ、治った」

 ちくしょぉぉぉぉぉぉぉ!! 身体の底から力が溢れ出てくる感じがしてくるしまた身体が適応しやがったッ!!

「糞がァァァァァァァァァァ──」
「うるさいです。少しは静かにして下さいうじ虫。まだもう一つ予備の為に買っています」
「流石ニーヤ!!」

 俺はもう一つの小瓶を受け取り、毒を体内に流し込んでいく。味はエナジードリンクみたいな味だ。
 だが、何も起こらない。いや、変化はある。何というか、胸の辺りがスッキリした気がする。それに身体も軽く感じられる。

「……これって栄養ドリンク?」
「流石勇者。ドラゴンをも殺す毒ですら適応してしまうとは……」
「はぁ……」

 俺は溜息を付いて、小瓶に蓋をする。
 毒も駄目。なら俺はどうやって死ねばいい。いっそ海にでも飛び込んで海底で生活してやろうか。
 あぁ駄目だ。水中で息ができるようになってしまったのを忘れてた。

「はぁ……」
「そんなに溜息を付かないでください気持ち悪い」
「最後の一言は余計だ……」

 ……そう言えば、ここの王様が魔王がなんたらって言っていたな。

「なぁ……魔王まおうって奴はそんなに強いのか?」
「あっ……そうですね。えぇ、強いです。きっと 貴方でも、、、、──いえ、貴方では到底敵わないかと」
「そっか」

 俺は立ち上がると、窓を開けて換気をする。そしてニーヤへと向き直ると、薄く笑ってみせた。

「魔王を見つける旅をしよう。王様もそれを望んでるんだろ?」
「はぁ……また面倒な……」

 ニーヤは溜め息をつくが、俺は気にせずに部屋から出る。
 そして、王様が寝込んでいる場所へと向かうのであった。


 

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