異世界貴族は自由を望む

ノベルバユーザー196771

婚約へ向けて

 とある休日。リアはレイの家にいた。
 それは、レイの父親に婚約を認めさせるためだ。
 挨拶は普通男がするものでは? と思うかもしれない。それはレイもそう考えていた。
 しかしこのレイアにおいては、基本身分が低い者の方が挨拶に行くのが常識である。同じ身分なら、男から行くことが多いものの、女性側からというのも、珍しくはないのだ。レイとファルが地球との差を感じた一幕でもある。リアは元王族ではあるものの今は平民なので、リアが挨拶に来たのだ。
 ちなみに二人には貴族と平民という大きな身分差があるのだが、正直ここ(フランタジア王国)を出てしまえば身分など無くなるので、当人たちはさほど問題視していない。
 そして今二人は応接間でレイの父親であるダンと対面していた。


「......つまり、二人は本気で、別れる気もないから、婚約したいと」
「はい」


 そう答えるリアの顔はこわばっている。しかしそれも無理はない。恋人の父親に挨拶。それは本人にとって一世一代の行事なのだ。
 ダンはレイにも目を向ける。


「お前もか? レイ」


 レイは頷いて返した。しかしその目には今までにないほどに力が籠っている。
 それを見てダンはため息をついた。


「もう何を言っても無駄なのだろうな。......いいだろう、婚約を認める。元王族ならば、問題視もされまい。国王様に報告して、すぐに発表しよう。今から報告してくるから、しばらく待っていなさい」


 そういってダンは、部屋を出ていく。これから王城へ向かうのだろう。
 レイたちも、レイの自室へと向かった。






「ああ! 緊張した......」


 部屋に入った途端、リアがそういった。それにレイも肯定の意を返す。
 おそらく、ダンが返ってくるのは夕方になるだろう。それまで三人はこの部屋で過ごすことになる。


「それ...じゃ...いこ」


 レイが、本棚へと向かう。その内の一つを押し込めば、いつもの隠し扉が現れた。何度か行ったリアも、もう驚くことはない。
 一同は、地下室へと向かった。


 今回リアがレイの家に来たのは、挨拶だけが目的というわけではない。もう一つ目的が、この地下室にある。


「...はい...これ...」


 そういってレイが渡したのは、銃擬きの一つだった。
 それは今までの銃擬きとは違い、側面に三つのスイッチが存在する。
 これは、レイが試作した、属性付与の切り替えスイッチだ。押したスイッチに対応した魔法陣を展開することで、弾丸に属性を付与するというもの。
 今レイはさまざまな銃擬きを試作しており、その一つがこれなのだ。ちなみにレイとファルの二人の銃擬きも、新しい試作型となっている。


「ありがと、レイ君。練習したいんだけど、これ外では使えないよね? どうすればいいの?」
「それなら、この屋敷の中に、レイ様専用の訓練部屋がございます。そこなら、誰にも見られる心配はありません」
「そうなの? ねえレイ君、今から行ってもいい?」
「ん...大丈...夫」
「やった!」


 その後三人は、訓練部屋に行ったのだが、レイ、ファルの命中率は九割、リアの命中率は三割だった。


 後日レイの日記には、拗ねたリアも可愛いという一文が記されていた。






「レイ、婚約の発表について、段取りが決まった」


 ダンの書斎にて、レイはダンからその言葉を聞かされた。
 その言葉にレイは、表には喜びをほとんど出さず、内容に耳を傾ける。


「まず、リア......いや、フローリア嬢の王家離縁から発表する必要がある。そしてその時同時に、私がレイとフローリア嬢の婚約を発表する。そしてその一週間後に、婚約披露パーティーというのが大まかな流れだ」


 その言葉に、レイが頷く。


「それと申し訳ないが、お前たちの婚約発表から披露パーティーまでの流れに、もう一つの目的が追加されることになった」
「勇者...召喚...です...ね...」
「そうだ。婚約発表の際に同時に勇者召喚について正式に発表し、召喚した勇者も披露パーティーに出席する。表向きは社交の場に慣れるためという目的だが、勇者を他貴族に披露することが目的だ」
「問題...あり...ま...せん。...予想...は...して...いまし...た」


 それはレイもリアも考えていたことだった。むしろ、披露パーティーがつぶれなかっただけましというものだ。


「それと、レイはしばらく学園を休んでもらう」
「学園...を、...休...む、...です...か...?」
「そうだ。レイ、お前は、魔法の勇者育成者の一人に選ばれた」


 これも、レイは考えていた。三家とは、とても王家に近い存在だ。そのため、王家の依頼、というのも珍しくない。ましてレイは、悪魔との交戦経験がある。今回の勇者召喚で、中心に近いところまで呼ばれるのは、簡単に予想できた。


「明日より、王城へと向かえ。フローリア嬢も既に向かっている」
「了...解...しま...した」


 そういってレイは自室へと戻った。






 レイの部屋には、レイとファルが二人でいた。しばらく帰ってこないため、必要最小限の私物を持っていくためだ。服などを詰めた鞄を、二人は入り口近くに纏める。しばらくすれば、他の使用人が持って行ってくれる手筈になっている。
 作業も粗方終わり、二人は一息ついていた。


「レイ様、あとは地下の物のみですね」
「うん...必要...なもの...は...もって...おか...ない...と。特...に...、銃...擬...き...の...設計...図...は...必要。改...良...が...もう...す...ぐ...で...終わ...る...から」
「あと、計画書も持ち歩いておきたいです。見つかるわけにもいきませんから」
「じゃ、...行こ...う」


 二人は準備のために、地下室へと降りて行った。



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