異世界貴族は自由を望む

ノベルバユーザー196771

新しい日常



 悪魔とは、その昔に人間を滅ぼし、地上を支配しようとした者たちのことである。それを勇者が倒す話は、この世界において最も身近な昔話の一つである。しかしそれは作り話などではなく、実話である。
 レイたちは、その悪魔に敗れた。誰一人歯が立たず、しかも見逃されたのだ。幸い死者こそ出なかったものの、もしあの悪魔が最初から殺すつもりなら、間違いなく全滅していた。
 しかし、大衆に対して、「私たちは悪魔に負けました。次いつ襲われるかもわかりませんし、対抗策もありません」などと言えるわけもない。
 つまり何が言いたいのかと言うと......あの時その場にいたレイたち四人と、レイモンド、そして教師たちが、大衆の悪魔に対する恐怖を逸らすために、悪魔を追い払った英雄へと祭り上げられた。
 当人たちは、最初こそ拒否したものの、国王の前には逆らうこともできず、最終的には受け入れた。
 そして行われた表彰式。国王自らが進行を務めたそれは、目論見通りに大衆の悪魔に対する恐怖を塗りつぶすことに成功した。






 そんなレイたち四人は、学園のとある一室で書類仕事に追われていた。
 ここは風紀会本部。新しくできたその機関は、数日前から活動を開始し、既に学園中に名が知れ渡っている。
 トーナメントは中止となり、優勝者こそ出なかったものの、悪魔と戦えるのだからと、レイモンドがレイたち四人を指名したのだ。ちなみに、風紀会会長はレイである。悪魔に果敢に立ち向かい、悪魔と一番戦闘したのはレイなのだから、問題ないだろうと、レイモンドが押し切った。レイの脳裏には一人黒い笑顔でほほ笑むレイモンドが浮かんだ。
 ちなみにレイが就任した風紀会長の所属は生徒会のため、他の風紀会役員よりも仕事が多い。


 しかしそんな日常も、慣れればどうにでもなるものである。数日たてば、それが日常になっていた。


「今日の巡回終わりましたー!」


 その声を掛けながら、リアが風紀会本部へと入ってくる。基本巡回は一人が行い、もめごとがあればその人がその場で解決する。その場で解決しないようなものならば、本部へ案件を持ち帰り、他の役員と協議して決める。それが今の風紀会の仕組みだ。


「おか...えり...。何か...あった...?」
「うん、一件だけ。多分決闘になるんじゃないかな」
「...了解」


 そう会話しながら、リアも自分の席に座る。今日の報告書を作成するためだ。そこにガリルが話しかける。


「なあ、お前らはあの噂は聞いたか?」
「あの噂、ですか?」


 リアが聞き返すと、ガリルが頷いて続けた。


「ああ、悪魔に対抗するためだとかで、異世界から勇者召喚を行うらしい。レイ、三家なら何か知ってんじゃないのか?」
「はい...父上...から...事実...と...聞かさ...れて...い...ます」
「私も聞かされているぞ。今回は、複数人の勇者を召喚するらしい」


 ダイトも話に加わる。


「なあダイト。それは言っても構わないのか?」
「ああ。むしろある程度広めてくれた方がいいと父上からは言われている」
「どうしてだ?」
「勇者というわかりやすい力で悪魔で揺れる国民を安心させたいんだろう」
「なるほど」


 先輩二人がそんな会話をしているのを聞きながら、レイとリアも話を続ける。


「たぶん...私...も...関わ...る...ことに...なる...と...思う」
「頑張ってね、レイ君」
「気は...乗らな...い...けど」


 レイが、自身の予想が正しかったと知るまで、あと少し。



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