異世界貴族は自由を望む

ノベルバユーザー196771

とある少女の初恋



 これは、とある少女の、初恋の話。












 ここは、王城。今は、立食式のパーティーが開かれており、大食堂には人が溢れている。
 このパーティーは、三家のとある家が、新たな神眼を開眼したということで、その発表をするためのものだ。


 そして、その主役が現れた。その姿に、皆の注目が集まる。そんな光景を、とある少女は少し離れたところで見ていた。
 少女は、王族の人間だった。第二王女ということで、今回はただパーティーに参加するだけで問題ないのだが、少女はパーティーが嫌いだった。
 それは、今の状況が原因だった。


「フローリア様、我が息子のベイです。ベイは......」


 そんな台詞を聞き流しながら、少女......フローリアはため息を隠す。
 少女は王族である。もし、繋がりをつくることができれば、かなり立場をよいものにできる。そのため、貴族連中が息子を連れ、挨拶という名目で息子自慢をしているのだ。自分の息子を格好良く紹介し、興味を引こうと必死だった。
 まだ五歳のフローリアには、大人をはねのける勇気も知恵もない。だからこそ、貴族連中もフローリアに的を絞っている。


 しかし、この日は違った。
 フローリアの元に、一人の少年が近づく。
 それを見た貴族は、その少年を追い払おうとする。自分の息子のアピールを邪魔させる訳にはいかないからだ。
 フローリアも、少年へと目を向ける。
 少年は、肩ほどまで伸ばした艶のある黒髪に、赤い瞳を輝かせている。その雰囲気は、自分と同じくらいの少年だとは思えないくらい大人びているようにフローリアは感じた。


 そこから、あっという間だった。
 その少年が、貴族に耳打ちした。たったそれだけで、その貴族は青ざめ、自分の息子を連れ立ち去っていったのだ。
 それを見たフローリアは、少年にお礼を言うべく、近づく。しかし、少年はフローリアを一別したあと、何も言わずに人混みの中へと消えていった。
 フローリアが少年が去っていった方を呆然と見ていると、腕を引かれる。フローリアが振り返ると、そこにはフローリアの父親の姿があった。
 しかし、フローリアの頭の中は、先の少年で埋め尽くされていた。何をしたのか、フローリアにはわからなかった。だが、まるで魔法のように自分を助けてくれた少年に、フローリアの意識は釘付けになったのだった。
 これが、少女、フローリアの初恋。そしてこの初恋は、九年後、学園で叶うこととなったのだった。



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