異世界貴族は自由を望む

ノベルバユーザー196771

決勝戦

 準決勝第二試合。この試合は、とても白熱したものとなり、観客を沸かせた。今までの試合の中で最も長く続いたそれは、決勝戦への期待を大いに高めた。






 それを知らないレイは、保健室で目を覚ました。上体を起こし、現状を把握しようと辺りを見渡す。すると、すぐ隣のベットでリアが眠っているのを見つけた。
 そしてレイが目を覚ましたのに気が付いた医務室の教師が、レイに話しかける。


「調子はどう? レイ君」
「問題...ない...です」
「そう、ならよかったわ。決勝戦まで時間はあるから、ゆっくり休みなさい」
「はい...あり...が...とう...ござ...い...ます」
「私はまだ用があるから、会場に戻るわね」


 そういって医務室のドアから出ていく。その時、振り返って真面目な顔でレイに声を掛けた。


「あ、他に誰もいないからって、彼女さんと盛ったりしないようにね」


 その言葉にレイが面くらっていると、医務室の教師は部屋を出ていった。そしてレイがふと隣を見れば、顔を真っ赤にしたリアがレイを見ている。どうやら話を聞いていたようだ。二人の目が合って数秒、レイの顔も真っ赤に染まる。
 しかしいつまでも二人で見つめあうわけにもいかない。レイが咳払いをして、話を切り出した。


「えっ...と...次...の...対...戦...なん...だ...けど...」


 そう、次の試合のことだ。次の試合は、決勝戦。生半可な戦いではすぐに負けてしまう。一度のミスが命とりな試合なのだ。しっかりと作戦を立てる必要がある。
 リアもそれを理解しているため、意識を切り替える。


「実際、どうすればいいんだろうね。レイ君が一度勝ったとはいえ、ガリル先輩だって強くなってるだろうし......」
「実際...前より...も...強く...なって...る...。それ...に...前...回...は...自分...の...得意...な...戦...い...方...が...でき...た...から...勝て...た...だけ。...また...うま...く...いく...とも...限...ら...ない...ゴホッ、ゴホッ」


 レイが苦しそうに咳をする。


「レイ君大丈夫? いつもより少し声がおかしいよ?」
「大...丈夫...いつ...も...より..使...って...疲...れた...だけ。...それ...より...も...作戦...」
「無理しないでね、レイ君」


 その後も作戦の確認などを行ったあと、レイがふと時計を見ればもうすぐ試合が始まる時間だった。


「それじゃ、行こっか」
「ん...了...解」


 二人は、決勝戦の舞台へと歩き始めた。






 ここは決勝戦のフィールドである第一演習場。三つある中で最も広いはずのこの演習場には、あふれんばかりの、いや、既に人があふれかえるほどに人々が皆同じ目的で、ここに集まっている。
 そう、学園トーナメントの決勝戦だ。しかも一年生ペアが勝ち残っているということで、例年より注目度は高い。更に、どちらのペアにも、神眼保持者がいるというのも、話題の一つである。


 そんな四人は、フィールドの中で対峙していた。
 レイの手には短剣が収まっており、いつでも飛び出せるように重心を若干前へと倒している。そして腰には今までとは違う、魔法陣が刻まれた短剣が吊るされている。そして隣に並ぶリアの手には、ハルバードが握られている。肩に身の丈以上のハルバードを担ぐ美少女というのが、リアには妙に様になっている。
 対するダイトは、魔法用の杖を手に持っている。そして腰には、レイと同じように短剣を吊るしている。そしてテイルは、レイとの決闘時同様、片手剣を握っていた。


『さーて、ついに来ました決勝戦。まさかの一年生が決勝進出、しかもどちらのペアにも神眼保持者がいるという、私がこの学園に来てから今まで見たことない状況となっております。そんな両ペアの間には独特の緊張感が漂い、その雰囲気は実況席であるここまでひしひしと伝わってきております。今回の試合、解説のレイモンド先輩はどう見ますか?』
『そうだな......レイ選手のあのオリジナル魔法、確かフローズンサンクチュアリだったか。あれをいつ、どう使われるかが鍵になるな』
『いつ、どう使われるか、ですか?』
『そうだ、あの魔法は、とても効果範囲が広い魔法だ。それ故、味方を巻き込む可能性がある。前回の試合のときには、二人が離れていたから問題なく使えたものの、今回はやすやすと隙を作る相手ではないからな。そこにあの魔法をどう打ち込めるかによって、戦況は大きく動くことになるだろう。そして、もしあの魔法が味方に無害な魔法なのなら、もう既存の魔法とはジャンルが変わってくるレベルだ。それは災害級に相当するだろう魔法になる。味方に無害で敵にのみ有効な広範囲魔法など、悪夢でしかない。そんな未知の魔法をダイト・ガリルペアも、相当に警戒しているだろう』
『なるほどなるほど......』
『しかし、ダイト・ガリルペアには、レイ・リアペアにはない、三年間の経験と、それに相応しい技術がある。この試合は間違いなく、どの試合よりも熱いものになるだろうな』


 実況の声が、前振りを入れる。その間に、四人は準備を整えた。


『それでは、大変長らくお待たせしました! ただいまより、学園トーナメント決勝戦、......開始!』


 その声を合図に、レイが一人飛び出す。リアが横から回り込もうと、走り出す。そしてレイがフィールドの真ん中あたりに到達した瞬間、何かがフィールドの中心に飛び込んできた。それにぶつかったレイが、まるでボールのように、観客席の後方へと吹き飛ばされる。観客席からは悲鳴が上がった。



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