異世界貴族は自由を望む

ノベルバユーザー196771

生徒会

 レイは今、職員室へと向かっている。勿論ファルも一緒だ。
 帰りのホームルーム中に、フォルテから言われたからだ。先生からの指示を無視する訳にもいかないため、渋々職員室へと向かっているのだ。


 そしてレイは、職員室の前に到着した。レイがドアをノックする。


「入れ」


 そう声が返ってきたため、レイは躊躇なく足を踏み入れた。
 返事をした先生に、レイを呼び出した本人の場所を聞くと、隣の生徒会室だと返された。
 レイに行かないという選択はできないため、隣の生徒会室へと向かった。
 レイが部屋の前に立つと、それが分かっていたかのようなタイミングで、中から声が聞こえてきた。


「どうぞ~」


 中から間延びした声が返ってくる。
 それに少し驚いたあと、表情を元に戻し、レイがドアを開けた。すると中には、レイもファルも知らない人物が三人とフォルテがいた。
 レイにフォルテが声を掛ける。


「おう、来たか」


 そのままフォルテは、レイに椅子に座るよう進めた。
 レイが椅子に座ると、知らない少女が、紅茶を入れてくれた。レイのお茶を入れるという仕事を取られたファルは、どこか不服そうだ。この部屋のお茶の場所を知らないという、根本的な問題があったのだが、それは狂信者の前には意味を成さない。
 フォルテが話を切り出した。


「お前には、生徒会に入ってもらうことになった。役職は新設される生徒会下部組織、風紀会の会長だ。下部組織ではあるが、会長のみ扱いは生徒会所属となる。今日の授業で実力は十分だと判断できたからな。ちなみに拒否権はない。と言うわけで頑張ってくれ」


 そう言うだけ言ってフォルテは去っていく。その背中にレイは困惑した目を向けるが、フォルテは無視して去っていった。
 誰も言葉を発しない。そんな重い空気を破ったのは、ずしりと響く声だった。


「さて、と」


 そう口を開いたのは、一番奥の椅子に座っている男だ。レイやファルの視線を向ける。
 その第一印象は冷静、だ。その鋭い切れ目や輪郭、雰囲気など、彼を構成する全ての要素が、そのイメージへと繋がっていく。
 そして何よりもレイの興味を引いたのは、彼の周りを浮遊する、エネルギー体だ。それは名前を精霊と言い、契約者の魔法を補助したりする存在だ。精霊と契約するには、とても高い才能が求められる。才能が無い者は、精霊を見ることすら叶わない。因みにレイの才能は、『壊滅的』だった。彼の師匠曰く、「ここまで才能の無いやつは見たことがない」だそうだ。
 では何故才能の無いレイが、精霊を見れたのか。それは、彼の精霊が関係している。
 精霊とは、エネルギーの塊だ。そしてそのエネルギーの密度が高いほど、精霊の位は大きくなっていく。そして一定の密度を越えると、その姿が周りに見える様になるのだ。しかし、その一定値がとても高く、そのレベルまで至る精霊は極僅か。貴族としてさまざまな人と関わってきたレイもこの時初めて精霊を見たくらいだ。
 そしてそんな精霊を従えているということは、高い実力を有しているということでもある。レイは彼の実力がどれ程のものかが気になった。


「私は生徒会長のレイモンドだ。で、さっき紅茶を淹れてくれたのがネル。私の妹で、書記だ」


 ネルと呼ばれた少女が会釈する。


「そしてそっちで作業しているのがフェイルで、役職は副会長。以上三名が、今の生徒会メンバーだ」


 続いて、レイも自己紹介を返す。


「レイ...です...こっちは...ファル...です」


 レイの紹介に合わせて、ファルが礼をする。
 自己紹介が終われば、またレイモンドが口を開いた。


「さて、これは一ヶ月後に発表することなのだが、生徒会の下部組織として、風紀会が発足する。風紀会とは、この学園内においての揉め事の仲裁や、違反者の拘束などの仕事をする組織だ。最近学園で問題を起こすやつが増えてきていてな、学園の治安維持活動の必要性が出てきたのだ。しかし生徒会は見ての通り人手不足だ。だから新しい組織を作ることになった。で、その新組織の長として、君が選ばれた」
「私の...選出...理由...は...?」
「それは今日の魔法基礎の実技授業の成績だ。あそこまで高度な技術を持つ者は、この学園に片手で数えられる程度しかいない。つまりは、殆どの学生は、君よりも下ということになる。この風紀会は、組織の性質上、荒事もある。だから、高い実力が求められるのだ」


 随分はっきりと言うもんだ、とレイは思った。レイモンドは、レイより上の学年の生徒も含め、一部の生徒以外は、 レイより弱いと言った。もし上級生が聞けば、怒り狂うことだろう。


「勿論、新組織の会長に、一年生が選ばれるなど、周りは納得しないだろう。なので、君には今度開催する、学園内トーナメントで、優勝してほしい。恐らく、生徒会の推薦枠ででることになる。生徒会の推薦なら、注目されるだろう。そうなれば、誰もが君の実力を見ることになる」


 なんとも勝手なことだ。彼の中では、レイがトーナメントで優勝することを確定事項としている。そうでなければ、レイにここで説明をすることもないはずだ。
 しかしこれはレイにも得がある話だ。トーナメントには、二つの推薦枠がある。教師推薦枠と、生徒会推薦枠だ。トーナメントに参加する場合、普通に参加するより、推薦枠で参加したほうが、目立つ。何せ、全生徒の中の二人なのだから。
 推薦枠を得るために、教師に売り込む積もりだったレイとしては、推薦してくれるという申し出を、断る理由は無かった。


「分かり...ました...参加...させ...て...いただ...きます」
「そうか、なら良かった。今日はもういい。時間を取らせてすまなっかたな」
「...いえ...では...」


 そう言ってレイは、生徒会室を後にした。ファルも続いて退出する。
 レイモンドの、隠した感情に気づかずに。

コメント

コメントを書く

「ファンタジー」の人気作品

書籍化作品