異世界貴族は自由を望む

ノベルバユーザー196771

秘密と武器と

 この地下空間にあるものは、どれもおいそれと表に出せるものではない。何故ならこの紙は、さまざまな貴族家の汚職、不正の証拠なのだ。......床に散らばっていようと、整理されていなかろうと、大事な証拠なのだ。
 レイの後ろでは、ファルが頭を抱えている。
 レイは、片付けるのが苦手だ。というより、家事全般が全て駄目なのだ。料理をすれば毒ができる、掃除をすれば汚れどころか何も残らない、洗った皿は全て割れるなど、レイが家事関係をすれば、一種の災害が起こる。
 よってレイは家事全般をファルから禁止されている。そのため部屋の掃除などをするのもファルなのだが、ファルが最後にこの部屋に来たのは2日前。つまりレイは、2日でこの惨状を作り出したのだ。ファルでなくとも頭を抱えたくなるレベルである。


 しかしレイはそんなことお構い無く足を進める。ここに来たのは勿論目的あってのこと。無意味に来たわけではない。
 レイが紙の山の中からとある物体を取り出した。それは地球でいう拳銃の形に似ている。しかし表面に凹凸はなく、とてもシンプルで、SFに出てきそうな形だ。
 これは、レイが作った「加速」の魔法陣で、弾を飛ばす銃擬きだ。正式な名前は決めていない。この銃擬きは、火薬を使わないため、音が一切しない。そのため、隠密行動のときにファルが愛用している。
 今回ここに来た目的は、ファルの武器のアップデートだ。レイは暇さえあれば加速の魔法陣を改良している。そのため、月一程度の頻度で、魔法陣が新しくなるのだ。ちなみに、一月で魔法陣を改良など、普通はできない。
 勿論レイも自分用も作っている。レイのものは見た目はSFの狙撃銃だ。最初はファルと同じ拳銃型だったのだが、レイは、弓を使うため、弓でも届かない射程が欲しかった。しかし、拳銃型ではどうしても弓以上の飛距離が出せなかった。
 そしてどうしようかと悩んだレイが行き着いた答えは、飛距離が足りない? なら何回も加速すれば良いじゃない! だった。結果、中で5,6回加速し、弾速は音速を軽く越え、飛距離は3キロを越える化け物が出来上がった。最後に摩擦や空気抵抗から弾を守る保護の魔方陣も忘れない。そして魔法での加速なので、音もなく反動もない。欠点と言えば複数の魔法陣を使用するため、マナの消費が大きいことだろう。ちなみに光速は越えられなかった。
 そもそもこの銃擬きを考え付いた切っ掛けは、レイの戦闘スタイルだ。レイの戦闘スタイルは、神眼による思考加速、弾速加速を行った弓での射撃だ。神眼での加速で自身を加速した場合、止める術がない。そのためどう使うかを模索した結果、この状態に落ち着いた。
 そしてその戦闘スタイルを見たファルが、弾を加速で飛ばす装置、銃擬きを提案したのだ。
 研究期間に一年半、作成に一年ほど要したが、レイは現状に満足している。


     話題閑話それはおいといて


 ファルが話を切り出す。


「ところでレイ様。あの者の対応はこれからどうするのですか? 面倒になる前に拒絶すべきでは......」


 ファルが言っているのは、クラスメイトのリアのことだ。彼女は、特大の爆弾を導火線に手を掛けて抱えているような状態だ。レイとて、彼女には関わりたくない。しかしレイは、まだ非情になりきれない。そのため、拒絶の選択肢を取ることはなかった。


「あくまで...クラスメイト...で...。...それなら...多分...被害が...少ない」
「そうですか」


 ファルは直ぐに引き下がる。ファルの主が問題ないと言ったのだ。ならファルはそれに従うだけである。それに、その甘さも含めてファルの主なのだ。レイに対し疑問は持っても不安は持たない。レイが絶対、それがファルという少女なのだ。狂信とも言う。


「そろそろ...行く...。もうすぐ...晩御飯...」


 そういってレイが部屋の出口へと向かう。その時、服の裾に引っ掛かり、一枚の紙が机から落ちた。それをファルが拾い、机の上に戻した。
 その紙には日本語で、『ヴァンディルグ家離縁計画』と書かれていた。

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