竜の世界の旅人

ノベルバユーザー196771

旅立ち

 颯斗がここにきて、約一か月がたった。もともと冬も終盤だったようで、既に春の兆しが訪れている。
 そして二人はというと、旅に出るための準備に追われていた。


「おい、ハク! こいつはどうするんだ?」
「それは持っていく!」
「じゃあこっちは?」
「それはいらなーい!」


 ハクには、収集癖がある。そしてそれに統一性はなく、衣服から宝石まで幅広く揃っている。今颯斗とハクが着ている服もその中から発掘したものだ。ハクが言うには既に廃村になった村から持ってきているらしい。


「いろんな物集めてんなぁ」


 颯斗が今まで掘り出してきた物は既にかなりのものとなっている。衣服は、男性用女性用関係なく、かなりの数があり、二人が今着ている服の他にも色、柄ともに豊富だった。颯斗が女性物下着を掘り当てた時には、顔を真っ赤に赤面させた。
 硬貨もあった。ただし単位は二人ともわからないのだが。異世界人と、人外である竜。どちらもこの世界のお金の単位など知るはずもない。一応持っていくことにした。
 あと本もあった。どうやらこの世界の歴史について書かれた本であるようなのだが、文字が消えかかり、ほとんど読むことはできなかった。辛うじて残っていた文を読んでそこから推測しただけなので、歴史の本であるかもあやしいのだが。
 その他宝石類、金属、果てや剣に鎧まで。宝石類などはともかく、流石に剣や鎧を持っていく気にはなれなかった。
 もし地球なら、間違いなくゴミ屋敷の完成なんだろうな、と考えながら、颯斗は仕分け作業を進めていった。






「じゃあ、出ようか」


 そうハクが言って洞窟の出口に立つ。颯斗もそれに並んで立ち上がった。
 外はすっかり雪が解けており、土色が顔を出している。


「じゃあ、確認するよ? まず、私が颯斗を乗せて飛んで、この谷から出る。その後森も飛んで抜けるから」
「了解。その後は、騒ぎにならないように人の姿になるんだな」
「うん、それで、そこまで遠くないところに町があったはずだから、そこがひとまずの目的地かな」


 そういってハクが服を脱いで颯斗に預け、洞窟から出る。ハクが竜に戻る時に服を身に着けていた場合、全て駄目になってしまうからだ。ちなみに颯斗は既に目を瞑っている。
 十分な幅があることを確認したハクは、その場で竜の姿に戻る。その姿は可愛らしい少女の姿から凛々しい竜の姿へと変化する。
 颯斗が荷物をもってハクの背中に乗り込む。それを確認したハクは、勢いよく飛び上がった。
 風が颯斗の全身を叩く。普通の人間なら耐えられるものではないのだが、颯斗は竜人であり、この程度なら苦にもならない。
 そして数秒で、ハクは谷を抜け出た。
 その景色は、それはそれは綺麗なものだった。どこまでも続く大地に、森、平原。怪我をしていたり、風圧に耐えていたりで、颯斗が景色をゆっくり見るのはこれが初めてだ。颯斗はその壮大な景色に圧倒されていた。
 そして遠くにちらっとだけ見える町が目的地だ。それを颯斗は竜人の目でしっかりと捉える。


「あそこだな」
『そうだね』


 颯斗がつぶやくと、律義にハクが返事を返す。
 ハクはその場に少し対空した後、町の方面へと一気に飛びだした。襲ってきた巨大な風圧を、颯斗はむしろ心地よいと感じていた。
 背にした太陽は、まるで二人の旅立ちを祝福するかのように輝いていた。

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