竜の世界の旅人

ノベルバユーザー196771

竜人化・能力

「う、うーん。......ここは」


 颯斗が目を覚ます。すると、後ろから声がかかった。


『あ、起きたかい?』


 颯斗がそちらに目を向ければ、そこには竜がいた。颯斗は、竜に現状を問う。


「どれくらいたった?」
『うーん、だいたい三日ぐらい』


 その言葉に少し驚くが、竜は三日で済めばいい方だという。颯斗は竜のいうことで納得することにした。そしてここで気付く。


「右腕が......動く......!」


 颯斗が、右腕を上げ下げし、手を開いたり閉じたり、思いつく限りの動作をする。そして右手は、全て颯斗の思い通り動いた。


『成功だね。竜人にもなってるみたいだし。それじゃさっそくだけど、能力の確認をしようか』
「能力?」
『ああ、説明してなかった? 竜人には、一人一人能力が備わっているんだ。それを確かめておかないと、使おうにも使えないでしょ』
「まあ、そうだな」
『というわけで、体のどこかに竜紋があるはずだから、ちょっと探してみて』


 そういわれて颯斗は、体のあちこちを探す。すると、右腕に模様が刻まれていることに気付いた。


「あったぞ、これか」
『そうそう、ちょっと見せて』


 竜が、顔を近づけ、竜紋を見る。


『んー、これはかなり複雑だね』
「複雑?」
『そう、複雑』


 竜紋を見ながら、竜が説明する。


『そもそも竜紋っていうのは、竜人に必ずある、竜の力の核なの。ここに能力の全てが入ってて、能力の発動や開放も、ここを媒体にして行う。だからここが複雑であるほど、強かったり、たくさんの能力が入ってたりするんだ』
「え、能力って一人一つじゃないのか?」
『うん、そうだよ。私が知っている一番たくさん持っていたのは、能力を四つ備えた竜人だね。......よし、解析終わり』
「分かったのか?」
『もちろん!』


 そう聞くと離れた竜が胸を逸らしながら答える。


『君の能力は、癒しだね』
「癒し? 一つだけか?」
『そうだね、一つだけ。ただ、それに特化してるから、かなり破格の性能になってるよ』
「どう使うんだ?」
『えっとね、竜紋に左手を当ててみて......そうそう。それで、竜紋を意識するの』


 言われた通りにやってみると、左手に光が宿る。


『ふふん、驚いたでしょ? これが君の能力の発動状態。あとはその光を傷に当てるだけ。......そうだ、せっかくだし試してみよう』


 そういって竜は尻尾を颯斗の前に差し出す。そこには爪を突き立てた生々しい傷跡がくっきりと残っていた。


「これに、触ればいいのか?」
『うん、かざすだけでも問題いけど、触るともっと効果が早く効くよ』


 その言葉通りに、颯斗が竜の尻尾に触れる。すると淡い光とともに、傷が消えていった。五秒程度で、傷の痕さえなくなった。


『あ......これ......かなりやばいかも......』


 ドスンっという音を立てて、竜がその場に倒れ込む。よく見ると竜の全身の力が抜けているようだ。
 慌てて颯斗が竜の顔を見ると、少し赤くなっている。......ように見えた。


「大丈夫か?」
『うん、全身に回っただけだから。まさか疲労まで取るとは思ってなかった』


 そういって体勢を整える竜。


『じゃあ次は、竜化してみようか』
「竜化?」
『そう、竜化。羽が使えたり、角が生えたり、鱗で覆われたり。大体は飲んだ血の竜に類似するんだ。私の場合は、鱗と羽かな。こっちは簡単で、ただ竜紋に意識を向けるだけでいいよ』


 そう言われて颯斗は、竜紋に意識を向ける。すると変化はすぐに訪れた。
 竜紋を中心に、右腕が銀色の鱗に覆われる。手も竜に酷似し、爪は鋭くなる。どうやら右腕自体が一回りほど大きくなっているようで、普段の右腕より若干重く感じる。そして腰から下は全て銀色の鱗で覆われたようだ。足にも鋭い爪が生え、膝にはプロテクターのように鱗が厚くなっている。どうやら尻尾も生えているようだ。自身の身長ほどある尻尾なのだが、不思議と重さはほとんど感じない。
 この竜化、どうやら装着するものではなく皮膚そのものが変質しているようで、違和感は感じない。そして変身モノのように服が破けるといったことはなく、一人安堵していた。


『うん、竜化も成功だね。でも、羽はないの?』
「ああ、ないみたいだ」


 そういって背中を左手で探る。しかし、羽の存在を見つけることはできなかった。


『しばらく動いて、体を慣らすといいよ。ここの奥に、広いスペースがあるから』
「ああ、そうさせてもらう」


 そういって颯斗は奥に進んでいった。



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