無彩世界の剣撃

ノベルバユーザー196771

拾った少女

「う、......うぅん......」


 少女が目を覚ました。
 それを確認した昌は、手元にあったボタンを押す。これを押せば、医療班の女性が駆けつける手筈になっている。
 少女が呟く。


「ここは......?」
「気がついたか」


 少女の体が小さく跳ねる。そして昌の方へと顔を向ける。どうやら、昌に気づいていなかったようだ。
 少女が、昌に話しかける。


「あなたは?」
「俺は、フル・ブルーム所属の相川あいかわ しょうだ。君は?」
「私は、アクシス。所属は......」
「どうした?」


 昌が、黙り込んでしまったアクセに話しかけるが、返ってきたのは、予想していない言葉だった。


「所属は、わからない」
「わからない? 所属していないじゃなくて?」


 昌がそう聞き返しても、アクセは頷くだけだった。


「前に、どこかに所属していたことは?」
「わからない」
「この世界の名前は?」
「わからない」


 他にもいくつか昌が質問しても、返ってくるのは「わからない」の一言のみ。
 ここで昌は、一つの結論に至った。


「......記憶喪失、だとでも言うのか?」


 そこで、医療班の女性が入室してくる。


「昌くん、彼女は......起きてるみたいね」
「ええ、ですが......」


 そう話していると、少女の声がかかった。


「昌、彼女は誰?」
「ああ、医療班の佐々木さんだ。君の検査をしてくれる」
「そう」
「じゃあ、後は私に任せて、昌くんは待機でいいわよ」
「はい。それと佐々木さん、どうやら彼女、記憶喪失のようで......」
「! ......わかったわ、その辺もなんとかしてみる」


 その言葉を聞いて、昌は部屋を後にした。






 数時間後、一室に三人の姿があった。その内二人は、昌と佐々木。もう一人は、壮年の男だった。


「佐々木君、報告を頼む」


 壮年の男がそういうと、佐々木は手に持った資料を見ながら話しはじめた。


「はい、彼女の名前はアクシス。所属等は彼女の記憶にはなく、他陣営の身柄捜索願いもありませんでした」
「記憶にない......?彼女は、記憶喪失だとでも?」
「はい。ですが日常的なことについては、問題なく覚えていました。どうやら、彼女の記憶は、この世界関連についてのみ、欠落しているようです」
「そうか。なら......」


 二人が話すのを、昌は見ているだけだった。そもそも、昌は当事者だから呼ばれただけで、特に役割があるわけでもないのだが。
 暫くすると、話が昌へと偏りだした。


「それと、どうやら彼女、何故か昌にかなりの信頼を寄せているようです」
「ほう、昌に?」


 そういて男が昌に視線を向ける。


「私には、心当たりは......」


 昌は、そう答えることしかできなかった。


「そうか、まあいい。昌、彼女の世話を頼めるか?」
「......今なんと?」
「だから、アクシス君の世話を頼みたいのだ。現状彼女に近いのは君だからな。君以上の適任者はいないと思うんだが」


 昌は反論の言葉を飲み込んだ。実際、アクセと接した時間があるのは、現状昌と佐々木だけ。そして佐々木が言うには、アクセは昌に信頼を寄せている。確かに、現状では一番適任なのだろうからだ。


「わかりました、総督・・
「頼んだぞ」


 そう言い残して、男は部屋を出ていく。


「じゃあ、頑張ってね。これ、彼女の検査結果と資料」


 佐々木も、昌に資料を渡して出ていった。


「......いくか」


 昌も、今アクシスがいるであろう医務室へと、足を運んだ。

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