無彩世界の剣撃
プロローグ
無彩色の地球。
ここを一言で表すなら、まさにそれだ。
立ち並ぶビル。道路脇に並ぶ木々。信号、川......。すべて地球と何も変わらない。
......そこに存在する、あらゆるものが、例外なく無彩色で彩られていることを除けば。
その世界は、あまりにも自然で、不自然だった。
無彩色の世界を、色を持った少女が歩いている。
真っ赤な、しかしどこか包み込んでくれそうな暖かな色をした髪。そして、同じ色をした瞳。その顔は非常に整っており、美少女と呼ぶに相応しい風貌だ。
しかし、何より驚くのは、その少女の現状だった。
少女は全身傷だらけで、着ている服も、もはや服としての役割を果たせているものかどうか怪しい。足取りは覚束なく、いつふらっと倒れてしまうかもしれない。
そして、その少女の手には剣が握られていた。
その剣は、茶褐色の刀身に、黄金色の柄を持つ剣だった。その柄頭には、水晶らしき宝石が埋め込まれている。少女が持つには、少々不釣り合いだ。
少女にはもう持ち上げる気力もないのだろうか。剣先を引きずりながら歩いている。辺りには、少女の小さな足音と息づかい、そして剣を引きずる音だけが響いていた。
どこからか、金属のぶつかる音が聞こえてくる。幾度となく聞こえてくるそれは、綺麗に澄んだ音で、少女の耳の奥まで響いてきた。
少女は、その音の方向へと足を向かわせる。元々、この少女には行く宛がなかった。何も目的がないよりはと、そこへ向かったのだった。
少年が、自身の黒髪を揺らしながら両手で握る剣を振るう。振るう先は、道の真ん中に立つ壮年の男だ。構えているその男の手にも、一振りの西洋剣が握られている。
剣と剣が触れた瞬間、辺りに金属のぶつかる音が響く。弾かれたように二人が距離を取る。何度も繰り返しているのか、お互いの息が少し上がっている。
男が、口を開く。
「どうやら、このままだと少々面倒になりそうだ。すまないが、私は帰らせていただこう」
「返すと思うか?」
男の言葉に、間髪いれずに少年も返す。
しかし男は、余裕のある笑みを浮かべるのみだった。
そして、こう言い放った。
「そこにいる少女を、介抱してあげるといい。彼女、放っておいたら死んでしまうだろうしね」
その言葉に、少年が一瞬だけ、ちらりと男の指す方向を見る。そこには確かに、全身傷だらけの一人の少女がいた。剣を杖がわりに、やっとたっているといった感じで、確かに重症だ。
そして、少年が、視線を男に戻そうとすると、違和感を感じた。男を見失ってしまったのだ。あの一瞬で姿を消した男に、少年は内心舌を巻く。
少年の目の前に、小さな紙が落ちてきた。少年が掴み、目を落とす。
無意識に、少年はその一文を読み上げた。
「......次は、君の剣と合間見えたい......」
少年は、無造作に紙をポケットに突っ込む。そして少女の方を見た。
少女は、男と少年の戦闘を見ていた。剣を支えにし、路地裏から様子を伺っていた。最早少女は、歩くことすらできそうになかった。
少年と目があった。少年が近づいてくる。その間も、少年は少女から目を離すことはない。それに答えるように、少女も少年を見つめ返した。
その時間は、数秒か、数十秒か、それとも数分か。
その時、少女の剣が消えた。支えを失った少女は、その場に倒れそうになる。
少女が最後に感じたのは、距離を詰めた少年が、自身を支える感覚と、久方ぶりに感じた人の体温だった。
少女を支えている少年のポケットに入っていた、スマホのような端末が電話の着信を知らせる。
少年は直ぐに通話ボタンを押した。
『そっちは大丈夫か?』
「はい。ですが、一名少女を保護しました。どうやら無所属です。怪我をしているので、直ぐに医療班をお願いします」
『そうか、了解した。昌はそのままそこで待機しておいてくれ』
そういって通話が終了する。
昌と呼ばれた少年は、少女に応急処置を施すべく、作業を開始した。
ここを一言で表すなら、まさにそれだ。
立ち並ぶビル。道路脇に並ぶ木々。信号、川......。すべて地球と何も変わらない。
......そこに存在する、あらゆるものが、例外なく無彩色で彩られていることを除けば。
その世界は、あまりにも自然で、不自然だった。
無彩色の世界を、色を持った少女が歩いている。
真っ赤な、しかしどこか包み込んでくれそうな暖かな色をした髪。そして、同じ色をした瞳。その顔は非常に整っており、美少女と呼ぶに相応しい風貌だ。
しかし、何より驚くのは、その少女の現状だった。
少女は全身傷だらけで、着ている服も、もはや服としての役割を果たせているものかどうか怪しい。足取りは覚束なく、いつふらっと倒れてしまうかもしれない。
そして、その少女の手には剣が握られていた。
その剣は、茶褐色の刀身に、黄金色の柄を持つ剣だった。その柄頭には、水晶らしき宝石が埋め込まれている。少女が持つには、少々不釣り合いだ。
少女にはもう持ち上げる気力もないのだろうか。剣先を引きずりながら歩いている。辺りには、少女の小さな足音と息づかい、そして剣を引きずる音だけが響いていた。
どこからか、金属のぶつかる音が聞こえてくる。幾度となく聞こえてくるそれは、綺麗に澄んだ音で、少女の耳の奥まで響いてきた。
少女は、その音の方向へと足を向かわせる。元々、この少女には行く宛がなかった。何も目的がないよりはと、そこへ向かったのだった。
少年が、自身の黒髪を揺らしながら両手で握る剣を振るう。振るう先は、道の真ん中に立つ壮年の男だ。構えているその男の手にも、一振りの西洋剣が握られている。
剣と剣が触れた瞬間、辺りに金属のぶつかる音が響く。弾かれたように二人が距離を取る。何度も繰り返しているのか、お互いの息が少し上がっている。
男が、口を開く。
「どうやら、このままだと少々面倒になりそうだ。すまないが、私は帰らせていただこう」
「返すと思うか?」
男の言葉に、間髪いれずに少年も返す。
しかし男は、余裕のある笑みを浮かべるのみだった。
そして、こう言い放った。
「そこにいる少女を、介抱してあげるといい。彼女、放っておいたら死んでしまうだろうしね」
その言葉に、少年が一瞬だけ、ちらりと男の指す方向を見る。そこには確かに、全身傷だらけの一人の少女がいた。剣を杖がわりに、やっとたっているといった感じで、確かに重症だ。
そして、少年が、視線を男に戻そうとすると、違和感を感じた。男を見失ってしまったのだ。あの一瞬で姿を消した男に、少年は内心舌を巻く。
少年の目の前に、小さな紙が落ちてきた。少年が掴み、目を落とす。
無意識に、少年はその一文を読み上げた。
「......次は、君の剣と合間見えたい......」
少年は、無造作に紙をポケットに突っ込む。そして少女の方を見た。
少女は、男と少年の戦闘を見ていた。剣を支えにし、路地裏から様子を伺っていた。最早少女は、歩くことすらできそうになかった。
少年と目があった。少年が近づいてくる。その間も、少年は少女から目を離すことはない。それに答えるように、少女も少年を見つめ返した。
その時間は、数秒か、数十秒か、それとも数分か。
その時、少女の剣が消えた。支えを失った少女は、その場に倒れそうになる。
少女が最後に感じたのは、距離を詰めた少年が、自身を支える感覚と、久方ぶりに感じた人の体温だった。
少女を支えている少年のポケットに入っていた、スマホのような端末が電話の着信を知らせる。
少年は直ぐに通話ボタンを押した。
『そっちは大丈夫か?』
「はい。ですが、一名少女を保護しました。どうやら無所属です。怪我をしているので、直ぐに医療班をお願いします」
『そうか、了解した。昌はそのままそこで待機しておいてくれ』
そういって通話が終了する。
昌と呼ばれた少年は、少女に応急処置を施すべく、作業を開始した。
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