勇者殺しの勇者

やま

4話 転生した先は

「あなたは私の騎士です! いついかなるときも側にいてね! 私の大切な騎士!」


「はいっ! リティシア様!」


 ◇◇◇


「うおっ! ……いててっ!?」


 目が覚めて初めに感じたのは体中の痛みだった。な、なんだこれ? なんで起きて早々こんな痛みを受けないといけないんだよ? 体を少しでも動かそうと痛む。


 訳もわからずに自分の右手を目の前に上がると、右手にも包帯が巻かれていた。ただそれ以上に不思議に思ったのが、俺の右手……小さくね?


 グーパーグーパーすると、俺の思う通りに動く右手。うん、やっぱり自分の手だ。しばらくぼーっと自分の痛む右手を見ていると、ガチャっと音がする。音の方を見てみると、俺は固まってしまった。なぜなら


「失礼し……あぁ、坊っちゃま! 目が覚められたのですね!」


 と、とても綺麗な女性が走って来たからだ。腰まで伸びたストレートロングの銀髪に、褐色の肌。ピクピクと上下に揺れる先の尖った長い耳に、フリルのついた白黒の侍女服。そしてその侍女服を押し上げるメロン級のお胸様にお尻様。眼福です!


 走ったため、たわわなお胸がぷるんぷるんと揺れる。そして俺の視界を埋め尽くされた。本当なら発狂するほど嬉しいのだけど、柔らかな感触が顔を埋め尽くす前に、後頭部から激痛が走る。


「痛たた! 痛い痛いよ、リア!」


「あ、ああっ! も、申し訳ございません、坊っちゃま! 怪我していた事を忘れて私は!」


 慌てて俺から離れたリアーーリアトリーゼーーはあわあわと慌てる。俺が大丈夫だと言うとホッとしてくれたけど……どうして俺は彼女の事を知っているんだ?


 俺の記憶では初めてみるとても綺麗な女性なのに。訳がわからずに考えていると、頭の中に色々と浮かんで来た。これは……俺の記憶か。生まれてから色々な記憶が頭の中に流れてくる。


「ううっ!」


「ぼ、坊っちゃま!? ど、どこか痛むのですか!? あ、頭ですか!? 頭が痛むのですか? 痛いの痛いの飛んでいけぇ〜!」


 突然頭を押さえた俺を見て慌てふためくリア。また顔が柔らかい感触に覆われるけど、今はそれどころじゃなかった。そうだ、俺は転生したんだ。イスターシャによって。


 だから体も小さいけど……転生したのに体を起こしたり動かせたりするのは、生まれてから時間が経っているからだろう。


 転生前の記憶は思い出せなくなっているのはイスターシャのせいだろう。でも、そのおかげでこ9年間・・・の膨大な記憶を一気に頭の中に流れても少しの頭痛だけで耐えられたって訳だ。


 俺が前世で覚えているのは、最後の死因ぐらいと、イスターシャと話をした事、後、生活に必要なこの世界でも基本的な事だけ。


 俺の前の名前は思い出せないけど、この世界の俺の名前はアベル。アベル・グランフォードだ。そして目の前の褐色の女性は、リアトリーゼ。ダークエルフの女性で、俺付きの侍女だ。


 まさか、生まれて直ぐにじゃなくて転生してから時間が経って思い出すとは。これもイスターシャのせいか? それとも偶然か? わからないけど……柔らかい感触に感謝します!


「リア〜、痛いよぉ〜」


「ああっ! 坊っちゃまが私に甘えて……ううっ、ドキドキしてしまいます!」


 俺は子供の事となぜか怪我している事をいい事に、リアの柔らかな胸に抱きついて顔を埋める。


 リアから漂ってくる甘い匂いに包まれて、豊満な胸の間に挟まれていると、頭の上からリアの艶やかな声が聞こえてきて、少し冷たいリアの手が俺の頭を撫でる。俺、もう死んでも良いかもしれない。そんな事を考えていたら


「目が覚めたか、アベル」


 と、扉の方から低い声が聞こえてくる。その声を聞いたリアは慌てて俺から離れてしまった。ああっ、俺の桃源郷が……。


 桃源郷リアが離れる原因となった声の主人をみると、そこには2メートル近くの身長がある偉丈夫が立っていた。


 黒髪は短く刈り上げられていて、額の部分から2本の角が生えている。左目には切り傷があり、目は見えないのか閉じてある。
 服を着ていてもわかる盛り上がる筋肉。その場に立つだけで相手を威圧する人物は、俺の父親だった。


 タイターン・グランフォード。鬼人族の長であり、魔王の近衛隊長でもある俺の父親だ。記憶から辿ると、俺は魔国に生まれたみたいだ。


 まあ、人族にいる勇者を止めるためだから、魔国の方に生まれさせた方が良いとイスターシャは考えたのかもしれない。それは後で考えるとして


「申し訳ございません、父上。ご心配おかけしました」


 記憶のおかげかスラスラと出てくる言葉。俺が覚えてなくてもアベルも俺だ。記憶があるからわかるけど、別に体を乗っ取った訳じゃなさそうだし。それは良かった。ただ記憶が戻るのが遅かっただけで。


 もしこのアベルの体を乗っ取っていたら罪悪感で塗りつぶされていたからな。


 そう思いながらも下げていた頭を上げると、訝しげに俺を見てくる父上。えっ? 何か失敗した?


「……何があったか知らぬが、俺を見ても怯えなくなったなアベル」


 表情は厳ついままだけど、声色はどこか嬉しそうな父上。ああ、そういう事か。生まれたばかりはそんな事はなかったけど6歳を超える頃から始めた訓練のせいで俺は父上を見ると怯えるようになっていた。顔を合わせるのも出来なかったほど。


 これも、記憶が戻ったせいか。ようやく本当の俺になったから怖がらなくなったとか? わからないけど。


「しかも、身を呈して王女様を守ったようではないか。最近文官の馬鹿どもが別の者を王女様の騎士にとほざいておったが、さすがは俺の息子だ」


 頭をまるで鷲掴みするかのような大きな手で荒く頭を撫でてくる父上。一体何の事を言っているのか一瞬わからなかったけど、頭に広がる痛みと共に思い出した。多分、俺の記憶が戻る原因になった出来事の事を言っているのだった。

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