勇者殺しの勇者

やま

2話 死して辿り着いた場所

「ごめんなさい。私、あなたの事友達としか思ってないの。勘違いさせてごめんなさいね」


 大学1年生の夏、俺の恋は一瞬で終わった。


 ……今回はイケると思ったのに。あれで友達としか思っていないって嘘だろ? 毎日俺を呼びに来て、お昼も一緒に食べて、遊びに行ったりする仲だぞ? 恋人繋ぎだってしたし、腕を組んでくれた事もあった。あの時は胸の感触を堪能させてもらったし。


 その先は確かにヤッてないけどさぁ。それでも俺の事を好きだから誘ってくれるものだと……。


「あっ、危ないっ!」


 傷心のままぽつぽつと歩いていた俺に聞こえて来たのはそんな声だった。声に反応して顔を上げてみると、目の前には視界を真っ白に染める光が差していた。


 次の瞬間、ドンッ! と今まで味わった事の無い衝撃が体全身を襲った。眩い光に覆われていた視界はぐるぐると回り、吹き飛ばされるのがわかる。回りで色々な声が聞こえて来るけど、今の俺に反応する事は出来なかった。最後に聞こえた音が、グシャ、と何かが潰れる音だった……


 ◇◇◇


「……ふへっ? いでっ!」


 突然、腰に衝撃が走った事に変な声を出してしまった。いてて……って、あれ? 俺って確か……


「ふへっ、て、へんな声! あははは! なんて情けない声出してんのよ、あんた!」


 訳もわからずに周りを見回していたら、後ろから俺を笑う声が聞こえて来た。振り向くとそこには腰まで伸ばした綺麗な金髪で見た事の無いほど綺麗な白い肌をしており、布のようなものでしか守られていない暴力的な程大きな胸と下半身……やばい、勃って立てない。


「うわぁ、あんた、初対面の相手に対しておっ勃てるなんて、恥ずかしいと思わないの? この童貞」


「ばっ! こ、これはし、仕方ないだろ! あんたみたいな綺麗な人がそんな際どい格好していたら、誰だってこうなるわ! そ、それに童貞ちゃうわい!」


「嘘ついても私はわかるのよ。今までのあなたの人生を見る事が出来るからね。その結果、あなたは童貞よ!」


 途轍もなく綺麗なお姉さんにビシッと指差されて童貞宣言される俺。くそっ、何だよ、人生が見られるって。反則だろそんなの。


「まあ、あなたの童貞なんてどうでも良いわ。それよりも……また、残念な死に方ね。告白したけど振られて、そのショックに歩いているところをトラックに撥ねられるなんて。あ、悪いのはあなたよ。信号が赤なのに横断歩道を渡るなんて。いくらショックだからって信号は見なきゃ駄目よ?」


「す、すいません……」


 やっぱり俺轢かれたのか。全部が突然過ぎて痛みを感じる暇もなく死んでしまうなんて。いや、痛みを感じたいって訳じゃないんだけど、それでも突然過ぎるだろ。まだ、童貞も卒業していないのに。


「もー、泣かないでよ。童貞のまま死んだからって」


「な、泣いてないやい!」


 俺は目元から溢れる汗を拭い、目の前の美女を見る。


「それで、あなたは誰だよ。俺は死んだんだろ? それじゃあ、ここは天国か?」


「違うわ。ここは、魂の選定所よ。現世で死んだ魂は全部この空間にやって来る。空間は一緒でも担当は違うから会う事はないけどね。ここであなたの現世の行いを見て、どこに行かせるかを決めるの。私はあなたの担当である女神イスターシャよ。とある世界では魔神イスターシャって言われているわ、よろしくね」


 女神かぁ。確かに美貌は女神級だ。正直目が離せない。A○女優なんて目じゃないぐらいだ。俺はそんなイスターシャを下から上までしっかりと見てからイスターシャを見る。


「……あんた、堂々と見過ぎよ。女神である私でさえ鳥肌がたったわよ」


 そう言って腕をさするイスターシャ。女神って鳥肌立つのか。近くで見てみたい気がするけど、流石にそこまでいくとただの変態だ。ここは我慢しよう。


「それで俺はどこに行くんだよ。天国か? 地獄か? 出来れば辛くない天国に行きたいんだけど」


「あなたが罪を犯していなければ天国に行けるわよ、普通ならね」


 そう言い微笑むイスターシャ。その微笑みを見た俺はゾクリッと震える。見た事がないほどの見惚れる笑みに興奮したのと同時に、何かとんでも無い事を言うな、という不安感が電気が走ったように体を駆け抜けていったからだ。


 そして、気が付けば俺の左側に移動しているイスターシャ。まるで恋人が甘えるようにしなだれかかってきて、俺の耳元で囁く。


「実わぁ、あなたにお願いがあるのよ」


「おおお、お、お願いだとぉ?」


 ふぅ〜、と耳元に息を吹きかけられたため、余りにもドキドキし過ぎて声が上ずってしまうが、それも仕方ないだろう。イスターシャを見る事も出来ないままいると


「ええ、あなたにはとある世界に転生して貰ってある事をしてもらいたいのよ」


 とある世界に転生って……俺がよく読んでいた小説みたいじゃねえかよ! ま、まさかこの女神は俺にチートを与えて、ウハウハハーレムを作らせてくれるのか!? おおっ、女神よ……ありがとうございますっ!!!


「勝手に想像するのは良いけど、それはあなたの努力次第よ。それにちーとなんてあげないわ。あげたとしても制限付きね。そのせいで私たちが主神の世界は大変な事になっているんだから」


 俺の想像を読んだイスターシャは頬を膨らませて怒り出してしまった。な、何かあったのかな? 俺がビビりながらイスターシャを見ると、イスターシャも見られている事に気付いたのか気まずそうに微笑む。か、可愛い。困ったような微笑み方がまた良いっ!!


「また変な事を考えて……。まあ良いわ。そんな事よりも、あなたにお願いするのだからある程度の事情は話しておかないとね。まずあなたにお願いしたい事なのだけど……馬鹿女神が考え無しに転生・転移させた勇者たちをあなたの手で止めて欲しいの」


 イスターシャの口から出たのは、物凄く真剣味を帯びたものだった。

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