クリエイトモンスターズ 〜異世界でモンスター育てて生き延びます!〜

やま

17.到着

「うわぁ〜、すごい高い壁だなぁ〜」


 馬車の窓から見える空高くそびえる壁。高さは20メートルぐらいかな? 質素な形だけど、逆にそれが威圧感を放っている。


「うふふ、王都に来るのは初めてですか、テル?」


 僕がぼけぇ〜と壁を眺めていると、口元に手を当てて綺麗に笑うシルフィオーレ様。初めはクラウドさんと馬車の前の席に座っていたのだけど、ミルさんや知り合いっぽいミランダさんがいる後ろに座って来たのだ。


 普通なら奴隷が乗る馬車に貴族が乗る事なんて無いらしいのだけど、同年代である僕らと話がしたいと、シルフィオーレ様が言うので一緒に乗る事になった。


 それから僕とも親しく話してくれたり。時折胸を触った事でいじって来るけど。親しくしてくださるのは有り難いのだけど、それを聞いたシルフィオーレ様の侍女、ミルさんがギロッと睨んで来るのだ。


 それが、もう怖くて怖くて。僕が怯える姿を見て喜ぶシルフィオーレ様は絶対にSとか思ったり。


「テル? どうしたのかしら? 私の顔に何か付いているかしら?」


「あなた、お嬢様のお顔をジロジロと見て! その目玉くり抜くわよ!」


「ご、ごめんなさい!」


 こ、怖すぎるよ! まるで射殺さんとばかりに睨んでくるミルさん。綺麗な女性が怒るとご褒美だ、なんて言う人も前はいたけど、僕はごめんだよ。怖いのは美人であっても無理だ。


「クスクス、面白いですね、テルさんは」


 そんな怯える僕を見て、こちらも上品に微笑むミランダさん。前にシルフィオーレ様と2人で話していたところを見た時は、辛そうな顔をしていたけど、今は大丈夫そうだ。僕をいじるぐらいには。


 それからセラさんたちも勿論護衛として付いて来ている。この移動の途中で少し話す事が出来たけど、やっぱり僕の後を追う為に来てくれたようだ。


 あまりの嬉しさに涙が出そうだったけどなんとか我慢出来た。あれは危なかった。


 金額次第では買うとセラさんは言ってくれるのだが、僕としてはそこまで迷惑はかけられない。クラウドさんたちのおかげで、犯罪奴隷の中でもかなり軽いらしいので、真面目に働き、更生したと認められたら奴隷から解放されるらしいし。


 セラさんは自分のせいでこうなったのだから、少しでも助けたいと言ってくれるのだが、葵たちの側にいてくれるだけで、僕からしたらかなり有り難い。十分に助けてもらっている。その事を言うと、拗ねたようにそっぽを向いちゃうのだけど。


 クラウドさんは僕たちが知り合いなのは気が付いているようだ。まあ、ギルドマスターのティスフィアさんから聞いているのだろう。僕たちが話しているところを見ても何も言わなかったし。


「また考え事をしていますね」


「全く、お嬢様が話しかけてくださっていると言うのに、あなたは」


「ふふ、本当に面白いですね、テルさんは」


「あっ、ご、ごめ……すみません、シルフィオーレ様。話の途中に考え事をしてしまって!」


「ふふ、構いませんよ。気にしないで下さい……まだ、買っていませんしね」


「えっ?」


「何でもありませんよ。それよりも中に入りますよ」


 微笑みながら外を見るシルフィオーレ様。最後は何を言ったのかは聞こえなかったけど、僕には関係無い事だろう。


 王都の中は結構な活気に溢れていた。走り回る子供たち。声を上げて商売をする男の人。腕を組んでイチャつくカップルたち。皆楽しそうだ。


 その街中で馬車を走らせていると、明らかに市民街とは雰囲気の違う道に出た。広く大きな屋敷が立ち並ぶ区画、見るからに金持ちが住んでいそうな屋敷がいくつも続く。


 既に、先程のように遊ぶ子供たちもイチャつくカップルたちもいない。歩いているのは鎧を着た騎士ぐらいだ。後は綺麗な馬車が走っているぐらいかな。


 そして、馬車はこの大きな屋敷が立ち並ぶ中で一際大きな屋敷の前で止まる。まさかここって……


「やっと着きましたね、ミル。久し振りの我が家です」


「はい、お嬢様。長旅お疲れ様でした」


 お互い微笑み合う2人。やっぱりこの大きな屋敷ってシルフィオーレ様の家なんだ。って事は……メルティース侯爵家の屋敷って事に。とんでも無いところに来ちゃったなぁ〜僕。


 2人が降りるのを僕とミランダさんは見送る。奴隷の僕たちは勝手に馬車からは降りられないからね。門の前ではクラウドさんたちと何かを話している。


 時折、僕たちが乗る馬車を見ながら何か話しているけど何の話をしているのだろうか? セラさんたちが驚いた顔をしているし。


「何の話をしているんだろう?」


「わかりませんね。案外私たちの事を話していたりして?」


「まさか? あっ、でも、ミランダさんの事は話していそうだよね。ミランダさんはシルフィオーレ様たちと知り合いなんでしょ?」


「ええ、私がまだ貴族だったころに親同士で仲が良かったので。私の方が歳上でしたので、シルフィオーレ様からはミラお姉ちゃんと呼ばれていましたよ」


 そう言い可笑しそうに微笑むミランダさん。へぇ〜、そんなに中が良かったんだ。って事は、ミランダさんも昔は結構位の高い貴族だったんだ。道理で仕草の一つ一つに気品が感じられるわけだ。


 それから、シルフィオーレ様たちと別れた僕たちは、そのまま馬車に揺られる。セラさんたちもこの時点で別れた。心配そうな表情で葵たちが僕を見て来たけど、セラさんが何かを言うと、ホッとしたような顔を見せていた。


 彼女たちとは当分会え無いだろうけど、元気で過ごしてほしい。はぁ〜、別れる前にみんなと話がしておきたかったな。


 少し後悔していると、馬車が止まった事に気がつく。場所はまだ大きな屋敷が立ち並ぶ区画だ。そして、馬車が止まったところに立つ建物は、前見たクラウドさんの店と同じだった。ここが王都のティルニール商会か。ここから、僕の奴隷生活がスタートするんだね。


 ……不安しか無いけど、頑張らなくちゃ。

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