復讐の魔王

やま

84.1つの決着と新たな問題

「ちっ、どうなっているかはわからないが、やつを喰い散らかせ! 八ツ首ノ氷蛇!」


 メディスは悪態をつきながらも蛇を向けてくる。8つの蛇の頭が私へと向かってくるけど、初めて見た時ほど私は慌てなかった。


 私は迫る蛇の頭を避ける。蛇が接する場所から凍って行き、本来であれば氷に変わった地面に触れると、そこから凍らされるのだけど、今の私には効果が無い。これもユフィーの炎のおかげだ。


 私の足は半分炎に変わっている。これは精霊であったユフィーの力で炎化出来るようになったからだ。まだ全身するのは力の使い方が掴めていないので出来ないけど、足だけなら出来る。


 足を炎に変えて、氷の足場を走る。氷が私の足を凍らせようとするけど、足の炎で溶かしてくれる。そのおかげで蛇の上を走る事も出来る。


 私に噛み付こうと迫る蛇の攻撃を、私は蛇の背を走りながら避ける。蛇の背から氷の氷柱が飛び出してくるけど、炎のおかげで私に触れた瞬間溶ける。


 本当にユフィーの炎は凄い。精霊としても上位の力を持っていて、エルからずっと魔力を貰っていたからか、かなり強力だ。


 そして、そのおかげで私の力も上がった。今度は3つの頭が迫るけど、私はドライシスを蛇の背に突き刺す。そして


氷の城壁アイスランバート!」


 蛇の背の上で、氷の壁を作る。その壁目掛けて突っ込んできた蛇たちは……粉々に砕け散った。同化する前だったら、こちらの氷の方が押し負けていただろう。それに、魔力の殆どを使わないと、エルのも防げなかったけど、今だと何回も使う事が出来る。


 蛇の頭を防いだ私は、メディスがいる体の中心へと向かう。メディスは蛇の頭を直し、再び攻撃を仕掛けてきたけど、私は既に体の中心へとやって来ていた。


 そして、私はドライシスと炎剣を交差させる。全てを凍らせる絶対零度の剣と全てを燃やし尽くす豪火の剣。2つの反する力をぶつけ合い、合わせていく。


「くらいなさい! 炎氷爆雷波!!」


 それぞれの属性がせめぎ合う双剣をメディスがいる蛇の体へと振り下ろす。メディスは防ぐために蛇の首を重ねるけど、それは無意味だ。私の一撃で吹き飛ぶのだから。


 双剣が壁となった首に触れた瞬間、目の前で合わせていた魔力が爆発する。衝撃と水蒸気で蛇の首は粉々に吹き飛び溶けて、その衝撃は本体の中にいたメディスも遅い吹き飛んでいく。


 普通なら爆発の余波の水蒸気で私の身も焼かれるのだけど、今は氷の衣が私の身を守ってくれるため、体が焼かれる事はない。


 爆風による煙が立ち込める中、私はメディスの吹き飛んでいった方へと向かう。気配が感じられる事からまだ生きているのだろうけど、無傷では無いはずだ。


 近づいていくと、煙の中に人影が現れる。煙を抜けるとそこには、額から血を流すメディスがいた。体の所々にも切り傷や火傷、脇腹には蛇の氷の破片が突き刺さっている。


「これで終わりね」


「……まさか、逆転されるとは。ふふっ、こういう事があるから戦いは楽しい」


 私に剣を突きつけられているのに嬉しそうに笑うメディス。この人はエルに聞いていたように戦闘狂みたいね。


「悪いけどトドメはさすわよ」


「……ああ。それが戦いだからな。負けたからには仕方ない」


 私はその言葉を最後にドライシスを振り上げ、そして、メディスの首目掛けて振り下ろそうとしたその時


 ゴゴゴゴゴゴゴゴォォォ!!


 と、突然地面が揺れ始める。そして、崩れる城。私もメディスもその光景を眺めている事しか出来なかった。


 ただ、崩れただけなら私もメディスも動けただろう。私たちが動けなかった理由、それは、城の中から現れた化け物だった。


 さっきまで暴れていた普通の人間サイズの異形や、大型の異形たちにたような風貌をしているけど、全身から放たれる圧が桁違いだ。


 背中からいくつも生える腕に足、顔まで複数生えていた。正直に言って気持ちが悪かった。


「……この魔力、あれが勇者なのか」


 メディスもあの正体に気が付いたみたい。もうあそこまでいったら勇者じゃないわね。


 城から現れた勇者を見ていると、城から飛び出す2つの影が、勇者の背に飛び乗る。その姿を見て思わず笑みを浮かべてしまった。


 その影の内の1人は、少し傷だらけではあるけど、無事な姿のエルだったから。もう1人は皇帝ね。メディスが私と同じような顔をしていたもの。


「おい、魔王の娘。私を殺すのは無しにしないか」


「……一応聞くけど、どうして?」


「決まっているだろ? あの化け物を皇帝陛下と共に倒すためだ。お前も魔王を守りたいのだろ? どうだ、四帝の力を貸してやるぞ?」


 ……はぁ、私が断れないのをわかって言っているわね。私はメディスに突きつけていた剣を下ろす。殺してから向かっても良かったけど、あんな化け物を相手にするのだ。少しでも力が欲しい。


 まあ、裏切らないように警戒しないといけないけど、今この場にいる中で最強の1人だ。彼女にも手伝ってもらおう。


 待っていてね、エル。今助けに行くから!

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