復讐の魔王

やま

74.対立

「魔族の目指した世界だと?」


 突然そんな事を言い出すクロヴィス。クロヴィスは僕の困惑を無視して話を進めていく。


「そうだ。我々魔族はただ姿が違うだけ。ただそれが違うだけで、他は感情もあり笑ったり泣いたりする事が出来るというのに、人間たちとは姿が違うからというだけで、我々は迫害を受けて来た。
 魔族は1人1人強いと言っても、当然気が付けば増えている人族の数の前では無力だった。
 我々魔族が平穏に暮らすためにはどうすればいいか。我々魔族はそう考えた結果、人族を打倒する事を決めた。奴らは、我々が手を出さず我慢しておれば弱者と勘違いして調子に乗る。その考えを覆すために行ったのが今起きている戦争の原点だ」


 その戦争は長く続いたと言う。烏合の衆だと侮った人族は魔族の強さに劣勢を強いられていったらしい。その結果が


「勇者召喚か」


「そうだ。奴らは敵わないと悟ると、今度はこの世界以外の人間を頼り始めたのだ。自ら招いた業だというのに。ハヤテは何度も嘆いでいた。何故関係ない自分が命を賭けなけばいけないのか、と」


「お前はハヤテ・シュバルツに会った事があるのか?」


「当然だ。我々魔王と対抗出来るのは勇者であるハヤテだけだったからな。何度も出会い戦った。初めは奴も魔族を倒すと向かって来ていたが、次第に勢いは無くなっていた。理由は憤怒と出会ったからだろうな。一時行方不明になった2人が姿を現した時から、昔はどの勢いは無くなっていた」


 あー、2人が次第に惹かれていったって話だな。本人から聞いたから覚えているよ。


「2人は人族と魔族の共存を考え始めた。この戦争を止めるため。人族側も魔族側の中にもその考えに賛同するものが出て来た。かくいう俺もだ。その結果、少しずつではあるが、戦争は落ち着いて来た……しかし」


 今回グランディーク王国が勇者召喚をして、また魔族と戦争を始めた。


「人族は代が変わると直ぐに忘れる。たった100年前までに起きた事を忘れ、同じ事を繰り返す。ほんの前に俺がこの体に転生した時には、既にその兆候があった。その時に悟ったのだ。もう共存など出来ない。人族は滅ぼすべきだと」


「滅ぼすだと?」


「ああ。お前にもわかるはずだ。自分の大切なものを奪われる悲しみは。そんな事が二度と起こさないためには我々魔族が人族を滅ぼし、魔族だけの世界を作る。
 既にこの帝国の重鎮は魔族を据えている。四帝の内、武帝と炎帝が、俺の生前の時からの仲間だ。残り2人は追々変えるとするが。
 そこで、提案だ。エルフリート・シュバルツ」


 クロヴィスからの提案。この流れからして1つしか無いだろう。


「俺の配下に加われ。今の俺と同じで人族から魔族になった者で、同じ七大罪を持つ者が手を組めば、お前が恨むグランディークなど容易く落とせる」


 やはりそういう話か。だけど、そう聞かれるのがわかっていた僕の答えは決まっている。そんなの


「断るに決まっているだろ? そもそも僕とお前との考え方が根本的に違う。確かに僕はグランディーク王国の奴らを恨んでいる。奴らを殺したいとさえ。でも、それは今を生きる奴らだ。まだ何も知らない子供やこれから生まれてくる命には関係無い」


 僕が恨みを向けるのは今を生きる奴らだけだ。今の壊れたグランディーク王国を潰すだけ。そして、新しく作り直す。それが僕の目的だ。


 グランディーク王国そのものを無くすなんて、両親や、陛下に王妃様、それにこの国を心から愛していたユフィーは望んでいないだろう。


 僕が殺すのはデンベルに勇者たち、加担した貴族や兵士たちだけでいい。前までは国民もと思っていたけど、全く関わっていない者もいるのだ。その者たちまで殺す必要はない。


 これは僕の気持ちが薄れたってわけじゃなくて、よりデンベルたちへの恨みが増しただけだ。


「……やはり、元から魔族として記憶や力のある俺と、人族から魔族へと変わったお前とでは考え方は違うようだな。同じ人間を恨む者として手を組めると思ったが」


「お前の考えは広過ぎる。僕は復讐を終えた後は陛下たちや両親、親友たちや愛したユフィーのお墓を作ってあげないといけないんだ。そんな終わりの見えないものに構っていられるか。
 別にお前が人族に復讐するのは構わない。ただ、その行動が僕の復讐の邪魔になるというのならば、僕の怒りに触れるというのならば、お前を殺す」


 僕は手元に発現させた憤怒の炎心剣レーヴァテインをクロヴィスへと向ける。僕の邪魔をするようならお前も殺す。 

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