復讐の魔王

やま

58.皇帝

「サクヤ、絶対に勝手に話すなよ。俺は庇いきれねえからな」


「わかっているわ。あなたの指示に従う」


 私はラゲルの言葉に頷きながらも、開く扉の向こうを見る。扉の向こうは、真ん中に真っ赤な絨毯が引かれて、それを挟むように豪華な衣装や鎧を着た人たちが立っている。


 そして、1番奥には煌びやかな椅子が置かれている。あれが玉座ね。扉が開ききると、ラゲルは進み始めたので、私も後に続く。


 ジロジロと私を見て来るゼルテアの幹部たち。こういうのはグランディークの時にもあったから慣れているけど。


 そして、ある程度まで歩くとラゲルがしゃがみ頭を下げる。私もそれに習う。気が付いたらラゲルの隣にはメディスが並んでいた。いつの間に。


 しかしそんな事を気にする暇も無かった。その理由は、玉座の間の空気が一気に重たくなったから。


 そして、コツコツと聞こえて来る足音。チラッと横を見ると、幹部の人たちも冷や汗をかいている。さすがに四帝の2人は普通の顔をしているけど。


 私も周りの人たちと同じように汗が止まらない。そういえば、この姿勢って別の考え方をしたら、自分から頭を差し出しているようにも見えなくはないわね……うっ、考えるんじゃ無かったわ。


「表を上げよ」


 そんな事を考えていたら、どかっと座る音が聞こえて、そんな声も聞こえてきた。雰囲気で周りも頭を上げたのを確認して私も上げる。


 玉座には、金髪の短髪でオールバックの髪をしている男性が座っていた。歳は30歳前後。あの人がゼルテア皇帝。とんでもない威圧感。全グランディーク国王とはまた違った威厳があるわ。今のあいつはクソだけど。


 その皇帝の一段下の段には、白髪の老人と赤髪のグラマラスな女性が左右に立っていた。ラゲルとメディスたちと似た雰囲気があるので、あの2人が残りの四帝でしょう。


「よく帰って来た、ラゲルよ。与えた任務は上手くいったようだな」


「はっ、ただ、我が国から魔王の骸を盗んだ犯人は逃してしまいました」


「確か、魔王だったか? しかも、力を認められてなる魔王では無く、罪を司る7人の魔王の1人と報告にはあったが?」


 えっ? 魔王ってわかれているの? はじめて知ったわ。後で調べてみようかしら?


「その通りです。奴は自ら強欲を司る魔王と言っておりました。私と同等以上の力を持っていましたし」


 ラゲルの言葉に周りの幹部たちは騒つく。この国の最強の1人と同等以上と言われたら、慌てもするわね。でも皇帝は表情が全く変わらない。そして


「この程度の事で騒つくな馬鹿者ども。そんなものは今までもいただろうが」


 皇帝の放つ一言。たったこれだけで、幹部たちは固まってしまった。それに、増した圧。なんなのこれ。この人はラゲルより強いんじゃないの?


「それで、その後ろの女は何だ? お前の奴隷か?」


「いえ、彼女はグランディークが召喚した勇者の1人です。グランディークを見限って、我々について来ました」


「ふむ、女よ。何故、グランディークを見限った?」


 皇帝は私を射抜くように睨みつけて来る。一瞬にで喉元に刃物を突きつけられた感覚。全身から血の気が引いたのがわかる。私は震えそうになる声を、何とか我慢して全てを話す。


 グランディークに無理矢理この世界に召喚させられた事から、ミミを見捨てた事まで全てを。


「なるほどな。良いだろう。お前を受け入れてやる。ただ、お前自身が自分の価値を証明してみろ。それによって待遇は変わるからな。酷ければ、兵士たちの慰み者。良ければこの列に加わる。簡単な事だ。お前の価値を示せ」


 私は黙って頭を下げる。やるしか無いわ。私の存在価値を示すしか、私がこの国で生きていける道は無いんだから。それに、あいつからミミを助け出すには力を手に入れるしか無い。


 ◇◇◇


「本当にその魔法は便利ね。1ヶ月以上かかる距離をたった数分で行けるなんて」


「はは、こればかりは僕の特権だからね」


 何故かジトっと見て来るマリアさんに苦笑いをするしか無い。しかし、ここに来るのは何ヶ月ぶりだろうか?


 前と同じように地上はカモフラージュのようで、疎らに兵士たちが住んでいるだけのようだ。その兵士たちも、僕とマリアさんを見て格好を崩してくれる。


 マリアさんの顔パスで、地下へと向かう。魔族らしい魔族を初めて見るミミは、様々な姿をした魔族たちに驚いている。まあ、僕とマリアさんは人間に近いからね。それ以外だと獣人ぐらいじゃないかな。


 そして地下に降りると


「お帰りなさいませ、マリア様」


 そこには、僕たちが帰って来るのがわかっていたかのように、メイド服を着たローナさんが立っていた。どうしてわかったんだろう?


 そのままローナさんはマリアさんに耳打ちをする。何を言っているのかはわからないけど、マリアさんの顔色がどんどんと青くなっていっているのがわかる。


 そして、壊れたようにギギギッと僕たちの方へと振り向く。既に真っ青を通り越して白くなっているけど、大丈夫なのか?


「ど、どうしたの、マリアさん?」


「お……」


「お?」


「お、お母様が……帰って来た」

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