復讐の魔王

やま

31.侵入

「……はい、オークの集落の討伐は完了です。流石ですねエルさん。マリーシャさん」


 僕たちは受付嬢であるテリーネさんに達成した依頼の確認をしてもらっている。勇者であるケンタを王都に送ってから1週間が経った。


 あれから、ハーザド侯爵領は大騒ぎだ。ハーザド侯爵の屋敷に毎日顔を出していたケンタが、ある日を境に姿を現さなくなったからだ。


 兵士たちが総出で探していたが、見つかるはずもない。ケンタは王都にいるんだから。


 ケンタを王都の王宮へ送ってから1週間が経ったけど、ケンタの噂は流れてこない。商人が出入りしているからある程度の噂は流れてくるけど、王宮での出来事は誰も知らなかった。国がケンタの件については箝口令を敷いているのだろう。


 今回の事はグランディークとしては確実に汚点となる。そんな事が民に知れ渡れば、勇者に対する信頼も王族に対する信頼も失うからね。


 ケンタが行方不明になって1番初めに疑われたのは、当然テリーネさんだ。テリーネさんとギルドを後にしたその後に、ケンタは行方不明になったのだから。


 だけど、テリーネさんの疑いは晴れた。理由は、ケンタがテリーネさん以外の女性を連れて街を歩いているのを見た住民がいるからだ。当然、それは本人ではなくて、僕の魔法で作った幻影だけど。


 そのおかげで、テリーネさんはギルドの受付嬢として復帰する事が出来た。ギルドも僕たちが初めて来た頃に比べたら、かなりの活気がある。


 それほどケンタの存在は問題だったのだろう。そのケンタももう死んだしね。僕の死炎契約は当然死んだら僕にわかるようになっている。


 誰に殺されたかはわからないけど、確実に戦って殺された。あのケンタはかなりの強さを持っていた。勇者たちは誰かでないと厳しいだろう。勇者なら、暴れている魔物の正体が、ケンタだと気付くだろうし。


「それじゃあ、僕たちは行くね。ありがとうテリーネさん」


「いえ、またお待ちしています」


 僕とマリーシャはギルドを出る。今のテリーネさんは僕たちの協力者になっている。僕たちの正体を知っているテリーネさんを、そのままにしておく事は出来なかったので、憤怒の炎心剣レーヴァテインの能力のひとつで、契約ノ炎というのさせて貰った。


 簡単に言えば、僕たちの事を離そうとしたら、契約ノ炎をした時に出来た印の部分が焼けるように痛むのだ。それでも話そうとしたら、燃え上がるようになっている。


 テリーネさんには申し訳ないが、これも僕たちの安全のためだ。テリーネさんも、別に話さなければ大丈夫だから、別に構わないと言ってくれているが。


「エル兄さん。今日はこれからどうするの?」


 僕たちが泊まる宿に向かっていると、マリーシャがそんな事を尋ねてくる。今僕たちがハーザド侯爵領にいる理由は、他の勇者の情報が欲しいのと、この領地を収めるハーザド侯爵を殺すためだ。


 ハーザド侯爵は、デンベル側の貴族で、反乱の時も、王都に兵を出していたという。その兵士はマリーシャたちを捕まえるのにも現れているという。だから、今回のターゲットは、僕というよりかは、マリーシャやルイーザが、狙っているようだ。


「今日はハーザド侯爵の屋敷を見回ろうと思う」


 闇魔法さえ使えば、今は簡単にどの家にでも入れる。まあ、それ相応の魔法コントロールの力が必要にはなるけど。


 僕の言葉に満足そうに頷くマリーシャ。ハーザド侯爵の屋敷は、ここからでも見えるほどの成金主義の屋敷だ。


 屋根は金で出来ており、所狭しと宝石が散りばらまかれている。目が痛くなるほどの眩しさだ。


 僕はマリーシャを連れてハーザド侯爵の屋敷へと向かう。屋敷に行く途中から、兵士たちの姿がよく見えるようになってきた。


 ケンタが行方不明になったからだろうか、兵士の数がかなり多くなって行く。途中までは2人一組程度だったけど、屋敷が近づいて行くにつれて、かなり人が増えて行く。その上


「魔力結界が張られているな」


 ハーザド侯爵の屋敷を囲うように結界が張られていたのだ。内容は、この屋敷に敵意の持つものが入ればわかるというものだ。


 さてさて、どうやって入ろうか。

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