復讐の魔王

やま

26. ケンタと戦闘

「……なんのつもりっすかね? 俺に剣を向けてくるって事は死ぬ覚悟は出来てるっすか?」


 苛立ちを隠そうともせずに僕を睨んでくるケンタ・ニドウ。後ろの奴隷たちはそういう風に命令されているのか、既に武器を構えていた。


 この光景を見て、周りの冒険者たちは巻き込まれないように蜘蛛の子を散らすようにギルドから出て行く。職員たちも遠巻きから様子を見るだけだ。その中で


「お、おやめ下さい、ケンタ様。此奴には私から言っておきますので、どうかお怒りをお沈めください」


 ギルドマスターはケンタに近づき頭を下げる。ケンタはちらっとギルドマスターを見ると、ギルドマスターの腹を蹴り上げた。


 周りからは悲鳴が聞こえ、ギルドマスターはその場に座り込む。咳き込むギルドマスターの頭の上に足を乗せるケンタ。


「それじゃあ、彼女と慰謝料は貰って行くっすよ? それで許してやるっす。慰謝料はそうっすね〜……1億クルで構わないっすよ」


「なっ! そ、そんな大金あるわけ……がぁっ!」


 暴利とも言えるとんでもない金額を言うケンタに、反論しようとしたギルドマスターだが、その言葉を言い終える前に頭を踏まれる。


「別に良いんすよ? このギルドの中が血で染まるだけっすから」


 そう言いニタニタと笑うケンタ。喉元に突きつけられているクロバを気にする様子もない。自分は攻撃されないとでも思っているのだろうか? それに僕の怒りも限界だ。クロバの能力である闇魔法の力を増加させ、影を鞭のようにしならせる。


 危険だとわかったケンタは、直様その場から飛び退く。僕も受付台を飛び越えて、受付嬢とギルドマスターを庇うように立つ。


「本当になんのつもりっすか? ぶっ殺すよ?」


 ケンタは、腰に差している2本の短剣を抜く。片方は禍々しいほどの青紫色の刀身をした短剣と、刀身に紫電が走る短剣。どちら魔剣の一種なのだろう。


「来いよ。が返り討ちにしてやる」


 俺の怒りも限界だ。目立たないように行動しようと思ったけど、こんなものを見せられたら我慢できるわけが無いじゃないか。


 俺はそのままクロバで切りかかる。まだ勇者の実力がわからない時に、本気である憤怒の炎心剣レーヴァテインを使うわけにはいかない。とりあえず、クロバで様子見だ。光魔法も使わない。


 俺はクロバでケンタへと切りかかると、ケンタは2本短剣を交差させて防ぐ。そして、足で蹴りを放ってくる。俺はその場で後ろに飛び、蹴りを避ける。


 ギルドの中で戦うのは得策ではないね。俺はギルドの外へと走る。当然、ケンタも後を追って来た。ケンタも外の方が良いのか、中にいた時よりも動きが良い。


「行くっすよ! 雷閃!」


 ケンタは左手にある紫電が迸る短剣で切りかかってくると同時に、短剣へと魔力を流す。短剣へと魔力が流れた瞬間、先ほど以上の紫電が短剣を迸り、横薙ぎに放ってきた。その瞬間、短剣から紫電が放たれ、俺の首を切ろうと短剣の延長として伸びてくる。


 俺はしゃがんでやり過ごすが、そこに再び蹴りを放ってきた。剣の持たない方の左手で防ぐと同時に力を逃すように転がる。


 転がって距離を取ると、ケンタは魔法を放つ呪文を唱えている。俺はその内に身体強化をして駆け出す。同時にケンタの魔法が完成するが、遅い。マリーシャと比べたら段違いだ。


「くらえ、ファイヤーボール!」


 1つ2メートル級の大きさを誇る火の玉が、ケンタの周りに何個も浮いている。発動までは遅かったけど、威力は流石勇者といったところなのだろう。


 ケンタはニヤリとえみを浮かべて放ってきた。だが、俺はクロバに水魔法を付与させ、そして迫り来る火の玉を切り裂く。爆風に巻き込まれる前に走り抜く。


「ちっ! なら、やれ、お前たち!」


 俺が近づいて切りかかろうとした時に、ケンタが指示を出す。そして、ギルドの方から魔法が放たれた。俺はとっさに飛び、何とかやり過ごしたが、周りの家屋にぶつかり破壊してしまった。


 魔法が飛んできたギルドの方を見ると、そこにはケンタの奴隷たちが俺に向かって手を向けていた。彼女たちが魔法を放ってきたのか。


「くくく! 俺を怒らせ過ぎたっすね。俺も本気で行くっすよ! 『雷化』!」


 その間に準備をしていたのか、ケンタが何か能力を発動する。その瞬間、体全身から電気がバチバチと音を鳴らして輝きだした。


「これは、勇者のランクが5になった時に手に入れた能力っす! 体そのものを雷化して、物理攻撃を無効にするっす! その上、こちらの攻撃には全て雷属性が付くっす! 俺たち選ばれし勇者のみが許された能力っす!」


 ペラペラペラペラと情報をありがとう。勇者のランクというものはわからないけど、おおよそ、殺される前に言っていたステータスとやらの事だろう。


 しかも今の言い振りだと、他の勇者たちも使えるようだし、ランクを上げていけば他にも能力が貰えるようだ。これは良い情報を貰った。この力を持っているのと持ってないのじゃあ、戦い方も変わってくるしね。


 しかし、物理攻撃を無効とは厄介だな。こっちは魔法で攻めなければならないけど。


「行くっすよ!」


 ケンタがそう言った瞬間、バチッと音を鳴らして、目の前から消える。そして、俺の斜め後ろに気配がした。俺の首元がゾクっと震える。本能に任せてしゃがむと、頭の上を短剣が通り過ぎていった。


 俺は振り向かずにそのしゃがんだ体勢のまま魔法を放つが、既にそこにはケンタの姿はなかった。周りにもおらず何処に? と思った瞬間


「落雷!」


 俺の頭上に魔力と殺気の反応がする。咄嗟に前に飛ぶと、俺のいた場所に雷が降り注いだ。地面にぶつかった瞬間爆発し、あたりを砂煙で覆い尽くす。


 周りは見えないが、気配だけで何処にいるかはわかる。砂煙の中心にケンタの反応があるから、奴が空から降ってきたのだろう。


 さて、どうしたものか。このまま続ければ、本気を出さなければ無くなる。ギルドから俺にへと意識が向いている今なら、逃げてもギルドが狙われる事はないと思う。


 その時、馬の駆ける音がする。ようやく、この領地の兵士がやって来たようだ。これはチャンスだ。は、土魔法でこの砂煙をより発生させる。これで、僕の場所はバレないだろう。


 気配だけで、マリーシャを探すと、ギルドの入り口で立っているようだ。そちらの方に行くと、マリーシャに会えた。


「マリーシャ、このまま逃げるよ。領地の兵士が出て来た」


「わ、わかりました、エル兄さん!」


 僕たちは、兵士たちが集まる前にその場から離れる。砂煙が消え、周りを見ると僕がいなくなったことに気が付いたケンタは、怒り狂っている。まあ、無視だけど。


 今回、少し目立ってしまったけど、中々有意義に戦う事が出来た。今の勇者の実力に能力。人それぞれ違うとは思うけど、それでも基準はおおよそわかった。


 それに、あのランクとやらによる能力があるのも知れて良かった。今後の復讐で、役に立つ情報だ。


 それを踏まえて考えた僕の予想だけど、今の勇者たちは……Sランクの魔物より弱い。これが知れただけでも、戦った意味はあった。

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