復讐の魔王

やま

25.廃れたギルド

 カランカラン


 僕たちが扉を開けると、扉に付けられている鐘が鳴る。だけど誰1人として僕たちの方は見ようとしない。理由は1つ。現在、冒険者ギルドには勇者の1人、ケンタ・ニドウがいるからだ。


 現在はギルドマスター室にいるようだけど、誰1人として騒ごうとしない。冒険者は依頼を受けずに出ていくか、静かに酒場で飲んでいる。


 ギルド職員たちも暗い顔をしている。中には顔を腫らした男性職員もいる。もしかしたら勇者に殴られたのかもしれない。受付嬢たちは、次ケンタ・ニドウが来たら、誰が対応するか話していた。


 時折聞こえてくる「……のようになりたくはない」「彼女も……」など、明らかに問題があったような事を話している。


「……これは、とても暗いですね、エルお兄ちゃん」


「そうだね。マリーシャ、多分あいつも僕たちの事は覚えて無いだろうけど、万が一がある。だから、幻影で顔を少し変えておくよ」


 僕が提案すると、マリーシャは頷いてくれる。さてと、まずの目的を果たそう。僕とマリーシャは、入り口から真っ直ぐ受付に向かう。


 受付に近づく僕たちを見つけた受付嬢たちは、我先にとやって来た。そこまで、勇者の相手をするのが嫌なのか。


「ようこそ、冒険者ギルドへ! 本日はどのようなご用件でしょうか?」


 そして、僕たちの受付役を勝ち取った受付嬢はニコニコと尋ねてくる。


「冒険者登録をしたくて来ました。僕と彼女です」


「わかりました。では、こちらに必要事項を記入下さい。もし代筆が必要でしたら私が書きますが」


「いえ、大丈夫です」


 それから、僕とマリーシャは用紙に必要事項を記入していく。僕は二度目だから、前のがバレないように書くだけだ。マリーシャは初めてだけど、貴族の時の事がバレないように書けば大丈夫だろう。


 それから、書き終えた僕たちは、受付嬢に用紙を渡す。他の受付嬢が僕たちの登録処理をしてくれる間に、担当をしてくれた受付嬢は、冒険者としてのルールを話してくれる。


 僕は知っているから、流すだけだけど、マリーシャは真剣に聞いている。冒険者はランクで決まる。最底辺がF、そこから依頼をこなしていくにつれて級位が上がり、最後はSランクとなる。


 たいていの人はDかCで終わるところ、たまに強い奴がそれ以上のランクになる。僕はBランクだったな。


「出来ました、これをなくさないで下さいね。再発行の際は料金が発生しますので」


「はい、有難うございます。それで質問なのですが」


「はい、何でしょうか?」


 僕が冒険者に関する事を質問してくると思っているのだろう、受付嬢はニコニコとしている。だけど


「この、ギルドの暗い雰囲気、何かあったのですか?」


 と、尋ねると、受付嬢はニコニコとしたまま固まってしまった。周りで聞こえていた受付嬢たちも、手に持ったものを落としてこっちを見て固まる。そこまで話したく無いのか。


 僕は知らないふりして首をかしげると、固まっていた受付嬢も、平静を装ってなんでも無いと言ってくる。ふつうにそんな事は無いのだが、これ以上尋ねても教えてくれないだろう。


 そう思って依頼を見にいくふりをしようと思ったら、受付の奥の扉が開かれる。そして、奥からは頬を赤く染めたケンタ・ニドウと奴隷の女性が3人に、ギルドマスターが出て来た。


 さっきは気が付かなかったけど、近くで見たら、あの紫の女の子、カレイド伯爵の三女じゃないか。


 それに、先ほどまで受付をしてくれた受付嬢は、その隣の茶髪の女性を見て「セレナ」と呟いている。それで合点かいった。受付嬢もケンタ・ニドウの奴隷にされているのだ。


 あと1人はわからないけど、彼女も無理矢理奴隷にされたのだろう。しかも、3人に共通しているのが、目の色がなく、まるで人形みたいな雰囲気がある事だ。奴隷紋のせいなのかもしれない。


「いやー、有難うっすよ、ギルドマスター。美味しいお酒を貰って」


「いえいえ、ケンタ様にはこの辺りの魔物を狩って頂いておりますからの。これぐらいなんとも有りませぬ」


 ギルドマスターは、ケンタ・ニドウの言葉に笑って答えてみせるが、目は笑っていない。逆に憤怒の色に染まっている。それに全く気が付かないケンタ・ニドウ。そして


「そうだ、今日は彼女貰っていくっすね」


 ケンタ・ニドウは、そう言って俺たちの受付をしてくれた受付嬢の手を掴む。その事に驚いた受付嬢は咄嗟に手を払ってしまった。そして、やってはいけない事をやってしまったと気が付いた時には


「俺の手を払ったっすね」


 さっきを放ち腰の短剣を抜き、受付嬢へと振りかぶるケンタ。周りはその事から目を逸らしたり、目を瞑ったりする。唯一助けようとしたギルドマスターも、この距離では間に合わない。仕方ない。


 ヒュッ!


「……何のつもりっすか、あんたは?」


「レディーをそんな手荒に扱うもんでは無いよ」


 僕はケンタ・ニドウの首元に剣を突きつけて止めるのだった。本当は目立たなく行くつもりだったけど、見ていて怒りが収まらなかった。

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