復讐の魔王
20.弔い
「死を望んでいる……ですか。それは何故ですか?」
僕は聞かずにはいられなかった。リッテルさんは小さいとはいえ魔国の頂点に立つ魔王だ。それに小さいといってもそれは国土の問題で、力では死体を操れるリッテルさんは他の魔王に比べても強いだろう。そんな人が、どうして死を望んでいるのか不思議でならなかった。
「それはね、戦いに疲れたからよ。私は生まれた時から莫大な魔力を持っていた。そのおかげで子どもの頃から魔法が使えて、天才と呼ばれて、国1番の魔法師にもなれた。
だけど、そのせいで戦争では前線に出されて、そして死んだ。だけど、悲しくはなかった。それどころかやっと死ねると思ったほど。その時にはもう戦いには疲れてしまっていた。
来る日も来る日も戦いばかり。だからようやく戦わなくて済むと思ったら、今度は魔物になっていた。初めの頃は自我が無くて本能だけで戦っていた。そして気が付けば進化していき、ノーライフキングになって、昔の記憶も思い出したの」
……そんな事があったのか。僕にはわからないけど彼女は辛かったのだろう。僕とあまり変わらない年齢で、昔は今以上に戦争も激しかったと聞く。
そんな中を戦って来て、リッテルさんは疲れてしまったのだ。そして、ようやく解放されたと思えば、今度は魔物として戦わされる。その上、今は魔王として。
「でも、それなら言葉は悪いですが、自殺は考えなかったのですか? それをして入れば悩む必要も無かったはず」
「……流石に無意識の内とはいえ、作り上げた国を見捨てる度胸はなかったわ。だから、跡を継がせる子を育てるまでは我慢したの」
なるほど。死霊国を継がせる後継者が育ったから、もう悔いはないという事か。そこで、黙って聞いていたヘルガーさんが口を開く。
「小僧、リッテルの望みを叶えてやってくれ」
ヘルガーさんはそれだけ言うと、部屋から出ていってしまった。僕の前にリッテルさんが座るだけ。 
「本当に僕が飲んでも良いのですか? ヴァンパイアならヘルガーさんだっていますよ?」
「構わないよ。いや、エル君。君だからこそ飲んでもらいたいんだ。ハヤテの子孫の君に」
リッテルさんはそう言いながら、首元をさらけ出す。さっきまでの骸骨の姿とは全く違っていて、血行が良く、普通の人間と言われてもわからないほどだ。
だけど、ここで躊躇っていられない。リッテルさんが望んでいるのなら、僕は……。
「さあ、お願い」
そして、その声が最後に吹っ切れてしまった。僕はリッテルさんのそばにより、鮮やかな桃色をした首元かぶりつく。僕の牙が、先程までの骨の姿からは想像がつかないほどの、柔らかいと感触。そして、瑞々しくとても美味しい血の味。
僕の耳にはリッテルさんの荒く吐く息の音が聞こえてくる。僕はそのまま血を吸っていく。気が付けばリッテルさんは僕の体を抱き締めるように抱きついており、少しずつ死の気配が薄くなっていく。そして
「ありがとね、エル君……」
それだけを呟くと、体全身から力が抜けたように僕に倒れ込んでくる。それでも僕は最後まで吸血をやめない。最後の最後の一滴まで。それが、彼女のためになるのなら。
◇◇◇
「……逝ったか」
「はい」
少ししてからヘルガーさんが部屋へと入って来た。そして僕の腕の中で静かに息を引き取ったリッテルさんを見て、そう呟く。
僕はリッテルさんの血を全て飲み、魔力が魔王になった時の倍ぐらいまで増えた。そして、リッテルさんから貰った能力は、死炎契約というものと、死の魔圧というものだ。
死炎契約は、ノーライフキングであったリッテルさんの元々の力、死霊作成という力があった。名前の通りしたいから死霊系の魔物を作る能力だ。
この能力が憤怒の炎心剣と合体し、憤怒の炎心剣で任意に燃やした敵を自分の配下にする事が出来る。ただし、上限10体まで。11体目と契約したければ、10体の内のどれかを消さなければならない。
だけど、能力は普通に魔物を作るより格段に強い。選んだ死体にもよるが、炎心騎士や炎心ノ巨人よりも強くなる事もあるとか。
そしてもう1つの力が、死の魔圧。これは普通に相手に威圧を与える技だ。さっきまで僕たちが受けていたリッテルさんの死の気配をより自由に出来る感じだ。
それらの新たな力は全て本能でわかってしまう。これは魔物に元々あるのか、それとも魔王だからなのかはわからないけど。
「今のお前なら、勇者相手でもやれるだろう」
リッテルさんの血を飲んで強くなった僕を見てヘルガーさんがそう呟く。そうかもしれないけど、まずはヘルガーさんからの課題をこなさなければ。それに
「リッテルさんを弔いましょう。このままではかわいそうです」
本当であれば、リッテルさん程の力を持つ人を確認の意味も込めて、死炎契約を使ってみたかったが、もう戦いたくないという彼女の意思を尊重して、普通の炎で燃やす事にした。
ここにいるのは僕とヘルガーさんのみ。その中で僕はもう動く事の無いリッテルさんへ、炎を発動する。炎に焼かれていくリッテルさんは、どんどん姿を変えていくが、僕は目を逸らさない。
僕のためにくれた力、くれた命を、僕は大切に使っていく。僕の中でこれからの僕の人生を見ていて下さい、リッテルさん。
僕は聞かずにはいられなかった。リッテルさんは小さいとはいえ魔国の頂点に立つ魔王だ。それに小さいといってもそれは国土の問題で、力では死体を操れるリッテルさんは他の魔王に比べても強いだろう。そんな人が、どうして死を望んでいるのか不思議でならなかった。
「それはね、戦いに疲れたからよ。私は生まれた時から莫大な魔力を持っていた。そのおかげで子どもの頃から魔法が使えて、天才と呼ばれて、国1番の魔法師にもなれた。
だけど、そのせいで戦争では前線に出されて、そして死んだ。だけど、悲しくはなかった。それどころかやっと死ねると思ったほど。その時にはもう戦いには疲れてしまっていた。
来る日も来る日も戦いばかり。だからようやく戦わなくて済むと思ったら、今度は魔物になっていた。初めの頃は自我が無くて本能だけで戦っていた。そして気が付けば進化していき、ノーライフキングになって、昔の記憶も思い出したの」
……そんな事があったのか。僕にはわからないけど彼女は辛かったのだろう。僕とあまり変わらない年齢で、昔は今以上に戦争も激しかったと聞く。
そんな中を戦って来て、リッテルさんは疲れてしまったのだ。そして、ようやく解放されたと思えば、今度は魔物として戦わされる。その上、今は魔王として。
「でも、それなら言葉は悪いですが、自殺は考えなかったのですか? それをして入れば悩む必要も無かったはず」
「……流石に無意識の内とはいえ、作り上げた国を見捨てる度胸はなかったわ。だから、跡を継がせる子を育てるまでは我慢したの」
なるほど。死霊国を継がせる後継者が育ったから、もう悔いはないという事か。そこで、黙って聞いていたヘルガーさんが口を開く。
「小僧、リッテルの望みを叶えてやってくれ」
ヘルガーさんはそれだけ言うと、部屋から出ていってしまった。僕の前にリッテルさんが座るだけ。 
「本当に僕が飲んでも良いのですか? ヴァンパイアならヘルガーさんだっていますよ?」
「構わないよ。いや、エル君。君だからこそ飲んでもらいたいんだ。ハヤテの子孫の君に」
リッテルさんはそう言いながら、首元をさらけ出す。さっきまでの骸骨の姿とは全く違っていて、血行が良く、普通の人間と言われてもわからないほどだ。
だけど、ここで躊躇っていられない。リッテルさんが望んでいるのなら、僕は……。
「さあ、お願い」
そして、その声が最後に吹っ切れてしまった。僕はリッテルさんのそばにより、鮮やかな桃色をした首元かぶりつく。僕の牙が、先程までの骨の姿からは想像がつかないほどの、柔らかいと感触。そして、瑞々しくとても美味しい血の味。
僕の耳にはリッテルさんの荒く吐く息の音が聞こえてくる。僕はそのまま血を吸っていく。気が付けばリッテルさんは僕の体を抱き締めるように抱きついており、少しずつ死の気配が薄くなっていく。そして
「ありがとね、エル君……」
それだけを呟くと、体全身から力が抜けたように僕に倒れ込んでくる。それでも僕は最後まで吸血をやめない。最後の最後の一滴まで。それが、彼女のためになるのなら。
◇◇◇
「……逝ったか」
「はい」
少ししてからヘルガーさんが部屋へと入って来た。そして僕の腕の中で静かに息を引き取ったリッテルさんを見て、そう呟く。
僕はリッテルさんの血を全て飲み、魔力が魔王になった時の倍ぐらいまで増えた。そして、リッテルさんから貰った能力は、死炎契約というものと、死の魔圧というものだ。
死炎契約は、ノーライフキングであったリッテルさんの元々の力、死霊作成という力があった。名前の通りしたいから死霊系の魔物を作る能力だ。
この能力が憤怒の炎心剣と合体し、憤怒の炎心剣で任意に燃やした敵を自分の配下にする事が出来る。ただし、上限10体まで。11体目と契約したければ、10体の内のどれかを消さなければならない。
だけど、能力は普通に魔物を作るより格段に強い。選んだ死体にもよるが、炎心騎士や炎心ノ巨人よりも強くなる事もあるとか。
そしてもう1つの力が、死の魔圧。これは普通に相手に威圧を与える技だ。さっきまで僕たちが受けていたリッテルさんの死の気配をより自由に出来る感じだ。
それらの新たな力は全て本能でわかってしまう。これは魔物に元々あるのか、それとも魔王だからなのかはわからないけど。
「今のお前なら、勇者相手でもやれるだろう」
リッテルさんの血を飲んで強くなった僕を見てヘルガーさんがそう呟く。そうかもしれないけど、まずはヘルガーさんからの課題をこなさなければ。それに
「リッテルさんを弔いましょう。このままではかわいそうです」
本当であれば、リッテルさん程の力を持つ人を確認の意味も込めて、死炎契約を使ってみたかったが、もう戦いたくないという彼女の意思を尊重して、普通の炎で燃やす事にした。
ここにいるのは僕とヘルガーさんのみ。その中で僕はもう動く事の無いリッテルさんへ、炎を発動する。炎に焼かれていくリッテルさんは、どんどん姿を変えていくが、僕は目を逸らさない。
僕のためにくれた力、くれた命を、僕は大切に使っていく。僕の中でこれからの僕の人生を見ていて下さい、リッテルさん。
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