復讐の魔王

やま

17.剣に宿っていたのは

「やっぱりベヒーモスでやられたか」


 地面に倒れこんでいる僕たちを見て、ヘルガーさんがそんな事を言う。僕たちがここで倒される事を予想していたみたいだ。


 でも、何を出すかわかっているヘルガーさんならそう言うか。僕も今までの人生で初めて見た。


 魔物ランクSランク。災害級の魔物。下手すれば国を滅ぼしかねないほどの強さを誇る最強のランク。この中には六色王や幻獣も含まれる。


 その中でも今回現れたのはベヒーモス。体長は5メートルほどの巨体で、頭に一本の特大の角が生えており、全身ねずみ色で四足歩行の魔物だ。


 まずは面倒だったのは見た目の大きさに似合わないほどのスピードだ。こちらがいくら避けても直ぐに追いついてくる。


 それに合わせたパワー。防御魔法をいくら発動しても1発で粉々に砕かれる。


 そして、自由自在に使ってくる土魔法。ベヒーモスが地面に足を叩きつけると、そこから土魔法が発動され、俺たちに襲いかかってくる。


 こちらの攻撃は当たるのだが、ベヒーモスほどの質量を持つ魔物が、かなりの速度で攻めてくるのは、こっちとしては恐怖でしかなかった。


 僕たちはまず始めに避けきれなかったルイーザが吹き飛ばされ気を失ってしまった。その次にマリーシャを庇おうとしてローナさんが吹き飛ばされ、残り3人となった。


 僕が安心騎士や炎心ノ巨人を出したりしたのだが、S級には全く通用せずに、腕を振る度に消されてしまった。


 僕自身もベヒーモスの体当たりを食らってしまい気を失っていたのだ。……全く太刀打ち出来なかった。気が付けば魔法は解除されていたのだ。


「ええっと、僕たちはどのくらいこんな感じに?」


「そんなに経ってねえよ。ほんの数分ってとこだ。それよりどうだった幻影闘技場は?」


「この部屋は凄いですね。あそこまで本物に近い魔物を再現出来るなんて」


「俺が出来るのは自分で戦った奴だけだ。それにあれだけ存在を近くするにはかなりの魔力を持っていかれる。俺自身も1日1回しか出来ねえからな」


 僕以上の魔力を持っているヘルガーさんですら1日1回か。とんでもない量の魔力を持っていかれているんだろう。


 僕以外は……まだみんな目を覚ましていない。もう直ぐ起きるかな? そんな風にみんなを見ていたら


「そういえば、てめえの炎心剣だが、精霊が宿っているぞ」


「精霊?」


 ……身に覚えが無いのだけど。僕は胸に手を当てて魔力を流す。すると明るめの炎心剣が右手に現れる。今はそこまで怒りを持っていないからか、あまり黒くない。少しでも勇者たちの事を思い出すと、色は変わるけど。


「……本来はお前の守護霊だったが、炎心剣の力に当てられて武器に宿る精霊になったんだろう。お前が願えば出てくるはずだ」


 僕が願えば、か。僕は炎心剣を見て魔力を流す。炎心剣に宿る精霊よ。僕に姿を見せてくれ。魔力を流すと炎心剣に炎が纏う。そして、炎心剣から出る炎は少しずつ形を変えていき、一気に燃え上がる。


 僕はびっくりして炎心剣を離しそうになったけど、落ち着いて見ると、全く熱くなかった。そして炎が収まり現れたのは


「こんにちは、あるじさま!」


 15センチぐらいの大きさの少女の妖精だった。髪の毛も着ているワンピースも赤色で、目は垂れ目でおっとりとしていて、誰にでも優しく見える表情。現にニコニコとしている姿を見ると、僕も笑顔を見せてしまう。


 僕はその少女の妖精を見て黙り込んでしまう。ニコニコと微笑む妖精は、黙り込んだ僕を見て不思議そうに下から覗き込んでくる。


 ははっ、また君に会えるなんて。しかも昔のような愛らしい笑みを浮かべて。気が付けば僕は頰に涙が伝っていた。


 その姿を見た妖精は、僕の涙に触れる。炎で出来た妖精だから、涙が触れるとジュー、と蒸発する音が聞こえる。だけど、妖精は気にした様子もなく、心配そうに僕を見上げてくる。


「どこが痛いの、あるじさま?」


 おっと、この子に心配ばかりかけるわけにはいかないね。僕は涙を拭い妖精に笑顔を見せる。すると、妖精も笑顔を見せてくれた。


「うんうん。どこも痛くないよ。君に出会えた事が嬉しくて涙が出たんだ」


「そうなんだ! 私もあるじさまに出会えてうれしい!」


 僕の周りを嬉しそうに飛び回る妖精。止まった時に頭を撫でてあげると、気持ち良さそうに目を細める。ははっ、可愛いな。


「それは良かったよ。僕の名前はエル。君の名前は?」


 僕の問いに妖精は腕を組んでうーん、うーん、と考える。考えるときはその場に飛んで回りながら考えるようだ。だけど、思い出せなかったのか


「わかんないから、あるじさまが決めて!」


 と、言い出した。


「本当に僕が決めても良いのかい?」


「うん! あるじさまに決めて欲しいの!」


 妖精はそう言うと、目をキラキラさせて僕の返事を待つ。そんな事を言われたら、付ける名前はもう決まっているよ。


「わかった。僕が君の名前を決めるね。君の名前は……ユフィー。ユフィーリアだ」


 また会えたね、ユフィー。

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