復讐の魔王
6.ヴァンパイアの本能
「ふぅ、ここまで逃げてくれば普通に歩いて逃げても、大丈夫だろう」
「……とんでもないな、エル兄上は。1日中走りっぱなしなのに、あまり疲れた様子が無いなんて」
ルイーザは僕の顔を見て驚きの声を上げる。昔の僕だったら絶対無理だったけどね。
僕たちが王都から脱出して1日が経った。僕たちが逃げ出したのを、それを見ていた兵士たち、勇者のカグヤ シノノメにバレているから、直ぐに追っ手が出されると思った僕は、背にマリーシャ、前にルイーザを抱きかかえたまま、王都を離れるように走り続けたのだ。
途中、同じ姿勢がきついと言うルイーザの休憩のために休んだぐらいで、後はずっと走り続けた。
その間、マリーシャは一度も目を覚まさなかった。ルイーザが言うには、かなり酷い事をされて、心身ともに疲れ切ってしまっているからだと言う。
マリーシャも気丈に振舞っているが、目にはクマが出来て、疲労が顔に出ている。彼女も同じように酷い目を受けているはずだ。
光ノ道を使いながら、一日中走ったから、砦まで半分ほどの位置までやって来れた。王都から馬を走らせて3、4日はかかる距離だ。
「どこかで休むか」
このまま、強行しても途中でバテるだけだ。それなら休める時に休んでおこう。僕も昨日から光ノ道の使い過ぎで、魔力を回復させたかったし。そのためには獲物を探さないといけないけど。
「ルイーザ。近くから水の流れる音がする。近くにローズ川があるはずだから、そこに行って休もう」
「うん。そうしようエル兄上」
僕はマリーシャを背負い直して歩いてローズ川まで目指す。ここからなら歩いて20分ぐらいだろう。ルイーザも抱えられ続けてしんどそうだし、少しは歩いた方が良いだろう。
「それで、逃げる時に聞きかけた話なんだけど」
「ん? ああ、僕がどうして暗闇でもスイスイと行けるかだったね」
そういえば落ち着いたら教えるって言っていたっけ。それから僕は川に向かいながら、砦の事から話していった。
アルたちが急に砦にやってきた事。そこでユフィーたちの死と、デンベルと勇者たちが反乱を起こした話を聞かされた事。そこにアルたちの後を追って来て勇者たちがやって来た事。砦の兵士に裏切られて門を開けられた事。僕の目の前でアルたちが殺され、そして僕も死んだ事。
「えっ? エル兄上も死んだのか!? な、なら何で……」
「それは、これから説明するよ」
驚きに顔を染めるルイーザに、僕は苦笑いをしながら話を進める。
その後、夢の中である女性に出会った事。僕がヴァンパイア・ロードになった説明をするには、先祖の話をしないといけないからね。
僕の先祖は勇者と魔王から生まれた子で、僕は魔族の血を受け継いでいた事。その血のおかげで命が助かった事。
「それからはルイーザも知っている通り、王都に戻って来たわけさ」
「……そんな事が……。アル兄上もビル兄上も……」
それからは、ローズ川まで僕たちは無言のまま歩いた。ただ、後ろですすり泣く音だけが聞こえる。無理も無い。彼女たちが捕らえられたからの事を考えれば、それどころじゃなかっただろうし。
ようやく考えられる時間が出来たんだ。今は自分ならに考えて、受け止める時間が必要だろう。
それから黙々と歩く事20分ほど。ルイーザも少しは受け止める事が出来たのか、今は僕の隣で歩いている。ローズ川も近くになり僕の耳でなくても川の流れる音が聞こえて来たが
「……エル兄上。気が付いている?」
「ああ、もちろん」
ローズ川に近づくにつれて増える視線。獣や魔物では無い視線。大方
「盗賊か」
初めは1人だけだったけど、次第に増えていき今では20人ぐらいかな? 狙いはルイーザとマリーシャだろう。偶々この辺りにいたのか、それともこの辺にアジトがあるのかは、わからないけど、面倒だ。そして
「待ちな、お嬢ちゃんたち」
目の前に盗賊たちが現れた。前からは5人ほど。左右後ろからもだ。全員で22人。そいつらの視線は全て、僕の隣で剣に手をかけながら警戒しているルイーザと、僕の背で寝ているマリーシャに注がれている。不愉快な目だ。抉り取りたくなる。
「へっへっへ、そこの仮面を付けた変なガキ。今お嬢ちゃんたちを置いて行ったら、お前の命だけは助けてやるよ」
「どうせ、どこかの貴族のボンボンだろ? そこの嬢ちゃんにしか武器は持たせて無いし、駄目だぜぇ〜、武器も無しに森に入っちゃあ〜」
「貴族のボンボンか〜、それなら捕らえて、親に金せびるか?」
「おっ、それはいい考えだな。ガキを人質にすれば金もたんまり貰えるし、女たちも自由に出来るな!」
何がそんなにおかしいのかわからないが、周りから汚い笑い声が聞こえる。しかし、ミスったな。武器を持たずに森の中を歩いていたせいで、侮られた。
武器は砦に置いたままだ。僕は生き返ってからは憤怒の炎心剣があるからと、置いて来てしまったのだ。はぁ、失敗した。
「おい、何とか言えよ!」
「……うるさいなぁ。僕をイライラさせるなよ」
僕は怒りに任せて、憤怒の炎心剣を発動させる……しかし、何でこんなにイライラするんだ? 前はこんな事なかったのに、今は男たちの気持ちの悪い笑みを見る度に、声を聞く度に怒りが収まらない。こいつらを殺さないと。
「なっ!? ど、どこから剣を出しやがった!?」
 
僕の剣を見て騒めく盗賊たち。僕は気にする事なく目の前にいる盗賊から切り殺す。1人目が切り殺されてようやく動き始める。
「遅いよ」
 
剣を抜こうとする盗賊の手を切り、首を掴み骨を折る。後ろから斧を振り下ろしてくるのを、腕を蹴り上げる……怒りのせいでマリーシャを背負っているのを忘れていた。本当にどうなっているんだ僕は?
だけど、今はそれどころでは無い。重要な事だけど、あとで考えよう。今は目の前の盗賊たちを殺す。
そこからはただの蹂躙だった。切りかかってくる者は殺し、ルイーザを人質にしようとする者は殺し、逃げようとする者は殺し、命乞いをする者は殺し。気が付けば僕の周りは血の海だった。
そして、今の僕にはそれの光景が耐えられなかった。魔力を使って腹を空かせているところに、血の匂いが充満している。
頭がクラクラしてくる。物凄く血が飲みたい。今までは……と言ってもまだヴァンパイアになって1週間だけど、ここまではならなかったのに。
やっぱり、昨日から連続して光ノ道を使い過ぎで魔力を消費しているからか? 砦から王都に向かう時はそんなに魔法を使わずに走っていただけだから、そこまで血を必要としなかったのに。
「エル兄上。怪我は無いか!」
そこに、ルイーザがやって来る。だけど
「来るな!」
ルイーザを近づけないようにする。僕の怒声にびっくりしたルイーザは、ビクッと震えて立ち止まる。僕はクラクラする頭を右手で押さえる。ルイーザをみると、ルイーザは心配そうに僕を見ている。
「ど、どうしたのだ、エル兄上? どこか怪我でもしたのか? それなら治療をしなければ……」
そうして、少しずつだけど近づいて来るルイーザ。僕はルイーザなら目が離せなくなった。特にルイーザの綺麗な首筋からは。ヴァンパイアとしての本能がルイーザの血を飲めと言っている。だけど、そんな事は出来ない。そんな事をすれば……。
「……ルイーザ、悪いんだけど、マリーシャを頼めるかい? 僕は他に盗賊がいないか確認して来るよ」
「え? で、でも、エル兄上、物凄く顔色が……」
僕はルイーザが言い終わる前に、背に背負うマリーシャを降ろしてルイーザへ預ける。僕はその場から逃げるように離れていった。
あのままあそこにいたら、ルイーザを襲っていたかもしれない。そうなるのが僕は物凄く怖かった。
「……とんでもないな、エル兄上は。1日中走りっぱなしなのに、あまり疲れた様子が無いなんて」
ルイーザは僕の顔を見て驚きの声を上げる。昔の僕だったら絶対無理だったけどね。
僕たちが王都から脱出して1日が経った。僕たちが逃げ出したのを、それを見ていた兵士たち、勇者のカグヤ シノノメにバレているから、直ぐに追っ手が出されると思った僕は、背にマリーシャ、前にルイーザを抱きかかえたまま、王都を離れるように走り続けたのだ。
途中、同じ姿勢がきついと言うルイーザの休憩のために休んだぐらいで、後はずっと走り続けた。
その間、マリーシャは一度も目を覚まさなかった。ルイーザが言うには、かなり酷い事をされて、心身ともに疲れ切ってしまっているからだと言う。
マリーシャも気丈に振舞っているが、目にはクマが出来て、疲労が顔に出ている。彼女も同じように酷い目を受けているはずだ。
光ノ道を使いながら、一日中走ったから、砦まで半分ほどの位置までやって来れた。王都から馬を走らせて3、4日はかかる距離だ。
「どこかで休むか」
このまま、強行しても途中でバテるだけだ。それなら休める時に休んでおこう。僕も昨日から光ノ道の使い過ぎで、魔力を回復させたかったし。そのためには獲物を探さないといけないけど。
「ルイーザ。近くから水の流れる音がする。近くにローズ川があるはずだから、そこに行って休もう」
「うん。そうしようエル兄上」
僕はマリーシャを背負い直して歩いてローズ川まで目指す。ここからなら歩いて20分ぐらいだろう。ルイーザも抱えられ続けてしんどそうだし、少しは歩いた方が良いだろう。
「それで、逃げる時に聞きかけた話なんだけど」
「ん? ああ、僕がどうして暗闇でもスイスイと行けるかだったね」
そういえば落ち着いたら教えるって言っていたっけ。それから僕は川に向かいながら、砦の事から話していった。
アルたちが急に砦にやってきた事。そこでユフィーたちの死と、デンベルと勇者たちが反乱を起こした話を聞かされた事。そこにアルたちの後を追って来て勇者たちがやって来た事。砦の兵士に裏切られて門を開けられた事。僕の目の前でアルたちが殺され、そして僕も死んだ事。
「えっ? エル兄上も死んだのか!? な、なら何で……」
「それは、これから説明するよ」
驚きに顔を染めるルイーザに、僕は苦笑いをしながら話を進める。
その後、夢の中である女性に出会った事。僕がヴァンパイア・ロードになった説明をするには、先祖の話をしないといけないからね。
僕の先祖は勇者と魔王から生まれた子で、僕は魔族の血を受け継いでいた事。その血のおかげで命が助かった事。
「それからはルイーザも知っている通り、王都に戻って来たわけさ」
「……そんな事が……。アル兄上もビル兄上も……」
それからは、ローズ川まで僕たちは無言のまま歩いた。ただ、後ろですすり泣く音だけが聞こえる。無理も無い。彼女たちが捕らえられたからの事を考えれば、それどころじゃなかっただろうし。
ようやく考えられる時間が出来たんだ。今は自分ならに考えて、受け止める時間が必要だろう。
それから黙々と歩く事20分ほど。ルイーザも少しは受け止める事が出来たのか、今は僕の隣で歩いている。ローズ川も近くになり僕の耳でなくても川の流れる音が聞こえて来たが
「……エル兄上。気が付いている?」
「ああ、もちろん」
ローズ川に近づくにつれて増える視線。獣や魔物では無い視線。大方
「盗賊か」
初めは1人だけだったけど、次第に増えていき今では20人ぐらいかな? 狙いはルイーザとマリーシャだろう。偶々この辺りにいたのか、それともこの辺にアジトがあるのかは、わからないけど、面倒だ。そして
「待ちな、お嬢ちゃんたち」
目の前に盗賊たちが現れた。前からは5人ほど。左右後ろからもだ。全員で22人。そいつらの視線は全て、僕の隣で剣に手をかけながら警戒しているルイーザと、僕の背で寝ているマリーシャに注がれている。不愉快な目だ。抉り取りたくなる。
「へっへっへ、そこの仮面を付けた変なガキ。今お嬢ちゃんたちを置いて行ったら、お前の命だけは助けてやるよ」
「どうせ、どこかの貴族のボンボンだろ? そこの嬢ちゃんにしか武器は持たせて無いし、駄目だぜぇ〜、武器も無しに森に入っちゃあ〜」
「貴族のボンボンか〜、それなら捕らえて、親に金せびるか?」
「おっ、それはいい考えだな。ガキを人質にすれば金もたんまり貰えるし、女たちも自由に出来るな!」
何がそんなにおかしいのかわからないが、周りから汚い笑い声が聞こえる。しかし、ミスったな。武器を持たずに森の中を歩いていたせいで、侮られた。
武器は砦に置いたままだ。僕は生き返ってからは憤怒の炎心剣があるからと、置いて来てしまったのだ。はぁ、失敗した。
「おい、何とか言えよ!」
「……うるさいなぁ。僕をイライラさせるなよ」
僕は怒りに任せて、憤怒の炎心剣を発動させる……しかし、何でこんなにイライラするんだ? 前はこんな事なかったのに、今は男たちの気持ちの悪い笑みを見る度に、声を聞く度に怒りが収まらない。こいつらを殺さないと。
「なっ!? ど、どこから剣を出しやがった!?」
 
僕の剣を見て騒めく盗賊たち。僕は気にする事なく目の前にいる盗賊から切り殺す。1人目が切り殺されてようやく動き始める。
「遅いよ」
 
剣を抜こうとする盗賊の手を切り、首を掴み骨を折る。後ろから斧を振り下ろしてくるのを、腕を蹴り上げる……怒りのせいでマリーシャを背負っているのを忘れていた。本当にどうなっているんだ僕は?
だけど、今はそれどころでは無い。重要な事だけど、あとで考えよう。今は目の前の盗賊たちを殺す。
そこからはただの蹂躙だった。切りかかってくる者は殺し、ルイーザを人質にしようとする者は殺し、逃げようとする者は殺し、命乞いをする者は殺し。気が付けば僕の周りは血の海だった。
そして、今の僕にはそれの光景が耐えられなかった。魔力を使って腹を空かせているところに、血の匂いが充満している。
頭がクラクラしてくる。物凄く血が飲みたい。今までは……と言ってもまだヴァンパイアになって1週間だけど、ここまではならなかったのに。
やっぱり、昨日から連続して光ノ道を使い過ぎで魔力を消費しているからか? 砦から王都に向かう時はそんなに魔法を使わずに走っていただけだから、そこまで血を必要としなかったのに。
「エル兄上。怪我は無いか!」
そこに、ルイーザがやって来る。だけど
「来るな!」
ルイーザを近づけないようにする。僕の怒声にびっくりしたルイーザは、ビクッと震えて立ち止まる。僕はクラクラする頭を右手で押さえる。ルイーザをみると、ルイーザは心配そうに僕を見ている。
「ど、どうしたのだ、エル兄上? どこか怪我でもしたのか? それなら治療をしなければ……」
そうして、少しずつだけど近づいて来るルイーザ。僕はルイーザなら目が離せなくなった。特にルイーザの綺麗な首筋からは。ヴァンパイアとしての本能がルイーザの血を飲めと言っている。だけど、そんな事は出来ない。そんな事をすれば……。
「……ルイーザ、悪いんだけど、マリーシャを頼めるかい? 僕は他に盗賊がいないか確認して来るよ」
「え? で、でも、エル兄上、物凄く顔色が……」
僕はルイーザが言い終わる前に、背に背負うマリーシャを降ろしてルイーザへ預ける。僕はその場から逃げるように離れていった。
あのままあそこにいたら、ルイーザを襲っていたかもしれない。そうなるのが僕は物凄く怖かった。
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