世間知らずの魔女 〜私、やり過ぎましたか?〜

やま

3.本当の事情

「体の調子はどうでしょうか?」


「ああ、シルエット殿のおかげで大分良くなったよ。体もこの通りだ」


 リカルド様はそう言いながら、手に持つ剣を振ります。うん、体の調子は言う通り良さそうですね。魔力の方も乱れていた流れが良くなってきています。薬膳食のおかげですね。


 リカルド様を看病し始めてから今日で4日目ですが、もうそろそろ大丈夫でしょう。まあ、まずは


「リカルド様、昼食が出来ましたので、中へお越しください」


「おおっ、そうか! いや〜、この数日ですっかりシルエット殿の料理の虜になってしまったからな。毎日が楽しみになってしまったよ」


 本当に嬉しそうに笑ってくれるリカルド様。そんな顔されると作ったこちらも嬉しいものですね。


 今日は森の山菜サラダに魔獣の肉を使ったシチューです。木で作った食器によそってリカルド様に渡します。リカルド様は私が自分の分をよそうまで食べるのを待ってくれますので、直ぐに自分の分も入れます。


 そして、食べ始めるとリカルド様は無言で食べ進めます。お偉い方だとは話に聞いていたのですが、とても食べ方が綺麗です。私とは大違い。今日もお代わりをしてくれました。沢山作った甲斐がありますね。


 それから暫くはたわいの無い話をしていると


「シルエット殿には本当にお世話になった」


 と、リカルド様は頭を下げてきました。突然でびっくりしましたが、リカルド様ももう体が大丈夫な事をわかっているのでしょう。


「明日にはここを出ようと思うのだが、その前にシルエット殿に話しておかないといけない事と、不躾ながらお願いがあるのだ」


「話したい事とお願いですか?」


 私の返す言葉に、リカルド様は真剣に頷きます。何かあるのでしょうか?


「まず、初めに話したいという事の前に、シルエット殿に謝っておかないといけない事がある」


「謝る事ですか?」


「ああ、初めにシルエット殿に事情を話した時、私は嘘をついてしまった。調査で森に来たと言ったが、あれは嘘なのだ。本当はとある花を探しに来たのだ」


 リカルド様はそう言うと、懐から1枚の布を取り出しました。そこには花の絵が描かれていました。どこかで見た事がある花ですね。はて、どこで見かけたのでしょうか?


「この花は月光花と呼ばれ、満月の時のみ放つ月の魔力を貯める事が出来る花で、満月の時は青く輝く。この溜まった状態の花を使うと、どのような病も治ると言われている。これを私は探しているのだ」


 ……ああっ! 思い出しました! 昔お母様に連れて行ってもらった中心部に咲いていた花です。へぇ〜、この花そんな力があったのですね。お母様が何輪か摘んでいるのを見ましたが、確かに花を加工して食べ物にしていた時は、肌艶が良かったように見えました。


 ですが、どのような病にも効くというのは嘘のようですね。それが本当であれば、お母様は病で死ぬはずはなかったのですから。


「何故、その花を求めているのですか? 誰か助けたい方でもいるのですか?」


「……ああ。私のたった1人の大切な家族だ。私の妹でな、今年で14歳になる。とても活発なのだが明るい性格で、誰に対しても優しい子だ。周りからは陽姫と呼ばれる程だ。
 だが、ここ1年ずっと体調が優れなくて、最近では立って歩く事も出来ない程にまで衰弱してしまった。俺はその姿をただ見ている事ができずに、何か治す方法は無いか探したのだ。そして見つけたのが、この森に生えていると言われている月光花だ」


 なるほど。ただ1人の家族を助けるために、この森へ入ったのですか。私もお母様が寝込んだ時は同じ事をしましたね。森中の魔獣を狩って栄養になりそうなものを集め、薬草も片っ端から取って、全てをお母様にあげました。


 ただ、お母様には取り過ぎ! と怒られたのを覚えています。今思えば確かにあの時はやり過ぎましたね。家の周辺の魔獣や山菜に薬草を取れるだけ取ってしまい、再び生えてくるまで、2年はかかりましたし。


「リカルド様の気持ちは痛い程わかります。私もお母様を助けるためにこの森を彷徨いましたから。その中で月光花を見た事もあります」


「それは本当か! なら場所を教えてくれないだろうか!?」


「教えても構いませんが、リカルド様が辿り着く前に、魔獣に殺されますよ?」


 私は一切の迷いもなく真実を告げます。こんなところで無謀してもただ犬死するだけです。それでは妹様も悲しむでしょう。けれども、リカルド様の次の言葉は予想出来てしまいますね。


「それでも俺は行かないといけないんだ! リリーナのためにも!」


 はい、予想通りです。私なんかの言葉で諦めるくらいだったら、この森には来ていませんよね。私はあまりにもリカルド様の予想通りの反応に、思わず笑ってしまいました。


「何か変な事言ったか?」


「いえ、本当に思った通りの事をおっしゃるなと思ってしまって。私もそうでしたから」


 私が昔を思い出して微笑むと、リカルド様は頰を赤く染める。そして目線を逸らす。私がこてんと首を傾けていると、リカルド様はゴホンと咳をして、再び真剣な目で私を見てくる。


「それで、月光花が生えている場所を教えてくれるのか?」


 私は真剣に見てくるリカルド様に向かって頷く。


「わかりました。リカルド様がそこまでご覚悟があるのであれば、お教え致しましょう。ただ、1つ条件があります」


「条件? なんだそれは?」


「条件は…….私を連れて行く事です」


 久し振りにあの方を呼びますかね。

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