王国最強の元暗殺者

やま

22.国境を超えて

「通行証を」


 俺はバックの中から通行証を取りだす。それを国境の門兵に見せると、通行の許可が下りる。俺は前を進む馬車に続いて歩いていく。


 俺が第9都市アニムルスを出て1週間が経った。出発の前の夜にメルルやメルシアさんとは別れの挨拶は済ませて置いたから、次の日には朝早くに出る事が出来た。


 他に挨拶をするような人たちもいないしな。あの駄犬には初めからする気がなかったし。


 アルフレイド王国の国境に辿り着いた俺は、検問を超えて隣国へと入った。ここから今回の目的であるテオラド王国までいくつかの国を超えていかないといけない。


 まずは今いる国、レオノス王国を抜けないとな。そこまで大きな国ではないから3週間もあれば抜けられるだろう。


「まずは減った食料を買わないとな」


 第9都市から歩き続けたため、食料も結構減って来ていた。途中町で買ったりもしていたが、食べ物だけでなく水も必要だからな。ここで補充しておこう。


 国境から1時間ほど歩いたところに町はあった。人口は20万ほどの都市で、中々賑わっている。


 今日はこの町に泊まるとして、まずは情報収集をするか。メルカディエの話だとあの昆虫モンスターは他国にも現れるらしい。何かわかるかも知れない。


 そう思った俺は、まだ夕方頃だが、冒険者や商人が集まる酒場へと向かう。ギルドから近い酒場には既に冒険者たちが入っており、酒を煽っていた。


 俺は軽く店内を見渡してから、空いているカウンターへと向かう。席に座ると、ここの看板娘と思われる少女がやって来た。


「いらっしゃいませ! ご注文はお決まりですか!?」


 今入ったばかりだから決まってはいないが


「それじゃあ、エールとおすすめでお願い」


「はいっ!」


 元気よく戻っていく少女。あの子の姿を見ているとメルルを思い出すな。あの子も中々元気があった。たった1週間なのに懐かしく思う。今頃しごかれているんだろうなぁ。


 少し懐かしく思っていると、少女が料理を運んでくれる。エールにパンにスープ、それと何かの肉のステーキだった。


「お待たせしました! 本日のおすすめで、フォレストボアのステーキです!」


 猪のステーキか。俺はお礼を言うと少女は仕事に戻っていく。さて食事をしながら聞き耳でも立てますか。酒場の中の話の内容の大半が、今日の仕事の内容ばかりだった。


 あいつがあそこで邪魔をしなかれば依頼は達成していたや、あいつにモンスターを横取りされたや、あいつのせいで彼女が別れたや、領主の娘もあいつがとったなど、そんな話ばかり。


 その話を聞いてうん? と思ったのが「あいつ」という人物だ。突然現れた冒険者らしく、容姿端麗、剣術の腕が良く女性を次々と魅了していくらしい。


 それだけなら百歩譲っても許せるらしいのだけど、仕事の邪魔をするらしい。曰く危険だったから、曰く可哀想だから、などなどと。


 危険だったというのはただ冒険者がモンスターと対峙していただけで、いつも倒しているモンスターだから油断せずに対峙しているところを後ろから乱入して来て倒されたのだとか。


 可哀想だというのは、奴隷商にいる少女たちを見て解放しろと迫ったのだとか。当然その奴隷商は国に申請して認められたちゃんとした奴隷商だ。死人や病人などが出ないようにちゃんと管理されており、下手をすれば前の家にいた時より裕福な暮らしをしている子も少なくない。


 それを見て、何を勘違いしたのか、その男は奴隷商に押し入り、奴隷商の人間を切ったらしい。そしていた奴隷を全て解放したのだとか。


 聞いているだけなら馬鹿げた話だが、これを国は黙認しているのだとか。そのせいで冒険者ギルドも強く言えないらしい。


 からんからん


 そんな話を聞いていたら、静まり返る店内。俺は聞きながら黙々と食べていたため遅れて店内を見ると、店内にいた冒険者たちは全員入り口を見ていた。俺もつられて入り口を見ると、そこには金髪の男と複数人の女性がいた。


 なんかキラキラした男だな、というのが俺の感想だった。容姿端麗で誰からも目を引く男で、腰には剣を指していた。その後ろに続く5人の女性。


 茶髪の弓を背負った女性に、小柄な狼人族の少女、1人場違いなドレスを着た女性に鎧姿の女性。その4人の女は男に擦り寄って色々と話しかけているが、その後ろにローブを着た女性が離れて立っていた。


 この酒場の雰囲気からして、納得してしまった。こいつが件の男だ。面倒なところに居合わせてしまったな。昆虫モンスターについては何も分からなかったのに。


「い、いらっしゃいませ!」


 酒場の雰囲気に当てられてか少し震えている看板娘の少女。その少女を見た男は


「君、素朴な顔をしているけど可愛いね。もし良かったら今夜僕の部屋に来ないかい?」


 と、ふざけた事を言う。その言葉を聞いた冒険者たちは一気に立ち上がる。この看板娘の少女は大事にされていそうだったしな。はぁ、本当にタイミングが悪い。

コメント

コメントを書く

「ファンタジー」の人気作品

書籍化作品