王国最強の元暗殺者

やま

21.最後の夜

 メルカディエと別れた後、俺はメルルの元へと向かうと、ベッドの上には既に目を覚ましたメルルと、メルシアさんが部屋にいた。


「あっ、師匠!」


 俺が部屋に入って来たのに気がついたメルルは耳や尻尾をピンとさせながらこちらを見てきた。見る限りは問題なさそうだな。さすがメルカディエと言ったところか。


「体の調子はどうだ、メルル?」


「はい、なんだか体にあった違和感がなくなって少し気持ちの悪い感じではありますが、物凄く軽くなった気がします!」


 そう言ったメルルは元気そうに腕をブンブンと振る。うん、元気そうで何よりだ。まあ、メルカディエが失敗するとは思っていないが。


 それから、俺たちは最後の夜を一緒に過ごす。明日から向かうところを考えると、半年は最低でも帰ってこないだろう。


 その事をメルルに伝えると、最後の夜は色々と話がしたいと言うので、部屋で食事を取る事にした。メルシアさんもそれでいいと言うので。


 3人で話をしていると、メルルは特に俺の事が聞きたいと言い始めた。俺の話なんて特に面白みもなく、つまらないと言っても、どうしても聞きたいと言うから、眠たくなるまで話せる範囲での事を話をした。流石に王国にいた頃の話は濁す事になるけど。


 気が付けば、メルルは眠っており、時間も深夜ぐらいの時間帯となっていた。メルルの布団をかけてあげていると、部屋にメルシアさんがやってくる。


「こんな遅くまでありがとうございます。別れるのが寂しいメルルが無理を言って」


「構わないですよ。俺も久し振りに楽しく話せましたし」


 メルルが眠るベッドの横に椅子を持ってきて座るメルシアさん。メルルの頭を優しく撫でる姿は、俺の記憶にない親子の姿だった。その姿を眺めていると


「いつでも帰って来てくださいね」


「え?」


 と、メルシアさんが言ってくる。どう言う事だろうか? 首を傾げていると


「私たち、タスクさんに本当に感謝しているんです。あなたが私たちを領主様から助けてくださいました。例え偶然だとしても、あなたのおかげで。あのまま、捕まっていたらこの子は死んでいたでしょう……この子には本当に辛い思いばかりさせてしまいましたからね」


「本当に偶然だからそんな感謝することは無い」


「ふふっ、タスクさんならそう言うと思いました。だから、勝手に感謝しています」


 ……なんだかこの人には一生勝て無さそうな気がする。だけど、それでも良いと思っている自分がいる。あの頃に比べたら他人とこんなに話す事も、ましてや昔の話をする事も無かった。あいつのせいで俺もだいぶ丸くなったものな。


「タスクさん?」


 つい昔の事を懐かしんでいると、メルシアさんが首を傾げて見てくる。俺はなんでも無いと言いながら立ち上がり扉へ向かう。こんな夜遅くにこれ以上女性の部屋にいるのは失礼だな。


「それじゃあ、俺は自分の部屋に戻りますよ」


「そうですか。良かったら一緒に並んで寝ても良いのですよ? その方がメルルも喜ぶでしょうし」


 ……何言ってんだよこの人は。俺は気にせずに扉を開けると、後ろからあらあらと声が聞こえてくる。メルシアさんも本気では無かったのだろう。本気でも困るが。


「それじゃあ、おやすみ」


「ええ、お休みなさい、タスクさん」


 メルシアさんの優しい声を背に受けながら、俺は部屋を後にする。部屋に戻った俺はそれから旅の準備を始める。元からこの街に来た後は旅立つ予定だったため、殆どは済ませている。精々足りない物は無いかの最終確認ぐらいだ。


「……これで良しと。後は気になった時に買えばいいか」


 荷物の整理が終わったのは、深夜の時間帯に入った頃だった。準備も終えたし、さっさと寝てしまおう。俺はベッドに入りそのまま眠ったのだった。


 ◇◇◇


「走れ、セリス! 奴らに追いつかれるぞ!」


「父さん! どうして逃げるんだよ! 僕たちで戦えば……」


「馬鹿野郎! いつもやっている狩りじゃねえんだぞ! あの数相手に俺たちが叶うと思ってるのか!? 村で1番強かったバックの奴も、囲まれて殺されたんだぞ!」


 父さんの怒鳴り声に、僕は体を震わせる。でも、村を捨てて、みんなを捨てて逃げるなんて出来ないよ。毎日毎日剣を振った意味は、こう言う時のためにあるんじゃないの!?


「ちっ!? こっちにもいやがったのか! 構えろセリス!」


 そんな僕たちの逃げる方から姿を現したのは、村へと襲って来たのと同じゾンビ。数は集まって来て10体ほど。なんでこんなにゾンビがいるんだ!?


 僕は戸惑いながらも、剣を抜いて構える。なんとしても先に逃げた母さんたちの後を追わないと。妹だって待っているのに。


「突破するぞ、セリス!」


「うん!」





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