王国最強の元暗殺者

やま

12.山での戦い

「お、お母様、良かったのですか?」


「何がです?」


「そ、そのグスタフさんの事です。あのままにしていて」


「構いませんよ。それよりも街を見回りましょう。何か良いものがあるかもしれませんよ?」


 親子で何か話しながら街を歩く2人。俺は後ろで2人の後をついて行くが、メルルの心配もわかる。メルルはこの数日間、2人が仲良くなるのを楽しそうに見ていたからな。


 だけど、今回ばかりはグスタフを庇えない。3人の女性に抱き着かれた時に振り払うまでとはいかないにしても、引き剥がす事は出来たはずだ。それをしなかったのはグスタフだからな。


 それに街を歩くのを誘ったのは恐らくグスタフだろう。グスタフが悪くない様に自分が誘ったとメルシアさんは庇って。普通なら殴られてもおかしく無いぞ。


「さあ、早く行きましょう」


 無理して笑顔を向けてくるメルシアさんはメルルの手を引き先へと進む。メルルもメルシアさんを元気に励ますつもりなのか笑顔で話しかける。


 俺は黙ってついて行くか。そういえば、誰かと街を歩くなんて任務以外でした事ないな。抜けてから冒険者になった後も、基本は1人で薬草採取していたし。


 アイツもこういう生活を憧れていたんだよな。何もない普通の生活を。


 そんな事を思い出しながら、街の中を探索していると、中心部の方が騒がしい。メルシアさんとメルルも気になる様で、3人で見に行くと


「きゃあっ! デイガス様よ! 今日もかっこいわね!」


「私は断然、ガルド様よ! あの筋肉がステキ!」


 と、女性たちが歓声を上げていた。その視線の先には馬に乗るデイガスの姿が。やばっ! 俺は直ぐに気配を消して気付かれない様にする。あいつにバレたら速攻で殴りかかってくるからな。


 しかし、どこかへ行くのか? 全員で100人ほどか。全員が武装して。歓声を上げている女性たちとは別に、冒険者などわかる人たちは不安そうな表情を浮かべる。


 デイガスたちは街の人たちに手を振りながらそのまま出て行ってしまった。


「何かあったのでしょうか?」


「……わかりませんが、師団長も行ったのです。大丈夫でしょう」


 メルシアさんも不安に感じた様だ。そんな彼女と俺の顔を交互に見るメルル。まだ、メルルには早い様だ。


「そうですね。それじゃあ、続きとしましょう。メルル、次はあのお店に行きましょう」


「はい、お母様!」


 まあ、今の俺には関係が無い事だ。気にするだけ無駄だな。それよりも


「そうだ、メルル、私たちの服をタスクさんに選んでもらいましょう!」


「わぁ! それは良い考えですね、お母様!」


 そんな事を言いながらにこにこと俺を見てくるこの狐親子をどうにかしなければ。こっちの方が色々と修羅場だ……。


 ◇◇◇


「あぁん? 報告だと1体じゃ無かったのか?」


 街を出て数時間後。ようやく目的の炭鉱山に辿り着いたが、何だあいつら? 聞いてたよりも数が増えてるじゃねえか。


「ほ、報告だとそうだったのですが……あれぇ?」


「あれぇ? じゃねえよ。まあ良い。増えようがどうしようがこいつらを潰す事には変わりねぇ。ガルド、お前はこいつらが逃げねえ様に兵士を連れて囲め。おらっ、ガイル! てめぇもボサッとするな!」


「は、はいっ!」


 ったく、オドオドとしやがって。堂々としていりゃあセシルにも負けねえのによ。


 まあ良い。それよりも目の前の奴らだ。こいつらが報告にあった4本鎌の昆虫型モンスターか。緑色の体をしたモンスターたちは、俺たちを見ると嬉しそうに口を動かす。けっ、餌とでも思ってんかよ。


 大きさは3メートル程、鎌だけでも1メートル無いぐらいだ。そんな奴らが5体。そして微かに輝く体。確かに氣道を使ってやがるな。


 俺は両手に付けた籠手、ウルフェウスガントレットをぶつけ合う。他の奴らもそれぞれ武器を構える。


 それを見た昆虫型モンスターの内の1体が俺に向かって来やがった。そういえばこいつの鎌はなんでも切るんだったかな。


 昆虫型は右上の鎌を俺に向かって振り下ろしてくる。けっ、真正面から来やがって。返り討ちに……って、おいおい、お前ら


「いきなり大将を狙うのは速いっすよ!」


「斬る」


 俺と昆虫型の間に割り込んで来た奴ら。人族のバンズに犬族のケイジ。


 バンズは手に持つ盾で鎌を側面で逸らし、ケイジは昆虫型の懐に入りワノクニに伝わる武器、カタナを鞘から一気に引き抜く。


 引き抜かれたカタナは鎌の根元を切り上げるが、ガキンッと音がしてケイジのカタナは弾かれた。こっちの攻撃がなかなか通らねえっていうのも本当みてえだな。


 左側の2本の鎌で近くにいるケイジを切り裂こうとする昆虫型。ケイジは左上の鎌と左下の鎌の間を飛ぶ様に避け、そのまま足の元へと向かい斬る。


 しかし、足も硬いのか再び弾かれちまう。周りを見ればガイルとガルドはそれぞれ隊を指示して残りの昆虫型を相手してやがる。おい、俺の相手がいねえじゃねえか。


「うおっ! あ、危ないっすねぇ〜。僕の盾でも防ぎ切れるか……団長、もうちょい下がってて下さいよ。戦いにくいっす!」


 そう言い迫る鎌を逸らすバンズ。あの野郎、俺がいたら邪魔みたいな言い方しやがって。てか、俺にもやらせろよ!


「カシャシャシャ!」


 そう思っていたら1匹包囲から抜けて来やがった。これはラッキーだぜ。それぞれの方向から振り下ろしてくる4本の鎌。


 右下の鎌の横振りをしゃがんで避け、斜めに振り下ろされた左上の鎌を避ける時に下から右腕で殴り上げる。左上の鎌は殴られた勢いで振り上がり右上の鎌とぶつかる。


 振り上げられた勢いに体もついて行きバランスを崩した昆虫型の腹の下に入り込み、左腕でストレートをかます。


 昆虫型は面白いぐらいにぶっ飛んで行きやがった。だがまるで鉄を殴った様な感触。余りダメージは食らってないな。本気で殴ってねえとはいえ、なかなかの硬さじゃねえか。


 昆虫型はすぐに立ち上がり鎌同士をぶつけて威嚇してくる。その上さっきよりも体の輝きが増している。向こうも本気ってわけか。まあ、いくら本気を出そうとも俺には勝てねえがな!

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