王国最強の元暗殺者

やま

3.森の中

 街を出てから20分ほど走ったところに、目的の森がある。俺は毎日ここまで走って来ている。歩いて来ると1時間以上はかかる距離だ。まあ、今回は後ろについて来ている奴らがいるから、あまり速くは走らなかったが。


 あまり速く走り過ぎると色々と怪しまれるしな。後ろを振り返ると、誰もいない道が続くだけ。どうやら撒けたようだ。そろそろ潮時かな。余り目立たないようにして来たつもりだけど。さすがに毎日薬草はやり過ぎたか。


 まあ、良いか。俺はいつも通り森へと入る。気配を殺しモンスターたちには悟られないようにする。匂いも魔力で覆い漏れないようにする。逆に魔法でモンスターの位置を確認。


 モンスターがいなくて目的地に辿り着く道を俺は走る。別にモンスターを倒せない事は無い。逆に俺からしたら朝飯前だ。


 だが、わざわざ探し出して倒すほどでも無い。依頼を受けているわけでも無いし。まあ、向こうから襲って来たら返り討ちにはするが、この程度の森でそんな事は起きない。


 この森のモンスターの位置は全て察知しているから、俺が自分から会わないように移動しているのが1番の理由だ。


 モンスターたちが俺を探そうにも、俺は気配と匂いと足音も消して走っているため、向こうから気づかれる事は無い。偶然見つかったとしても、俺に追いつく事も出来ないし。


 そうして走る事数分。俺は森の中心部へとやって来た。ここが毎日の薬草の採取場所だ。


 この森は殆ど新人の冒険者たちが使っている森で、薬草の採取をするのは、森に入って少ししたところで皆やっている。余り中に入ると、モンスターが多く現れて危険だからだ。


 そのため、森の入り口付近では余り薬草を見つける事が出来ないが、中心部ぐらいに来るとかなり生えていたりする。


 それなら、中間ぐらいの冒険者たちが来たら薬草を取るんじゃ無いのか? と思うが、中堅どころになると、薬草を採取するよりモンスターを狩った方が何倍も稼ぎが良いため、わざわざ薬草を採取するような事はしないのだ。


 そのため、この森の中心部にある薬草は俺の取り放題となっている。俺はしゃがみ込んで生えている薬草を次々と抜いていく。


 鼻歌交じりで次々と薬草を抜いていると、俺が来た森の入り口に人が入って来る反応がある。これは俺をつけて来た奴らか。思ったより速かったな。ただ、つけて来た奴らにかなりの速さで森の中を駆けて近づく反応がある。


 これがフューリさんが言っていたウルフか? 全部で20体ぐらいだがその中に一際大きな反応がある。群れのリーダーだな。


 少し様子を見てみるか。4人だけで対処出来るようならそのまま薬草を採取して帰るだけだし、もし無理なら……バレないように助けるか。


 ◇◇◇


「……はぁ……はぁ、なんて速さだよあいつ。走るの速過ぎるだろ!」


「はぁ、はぁ、ったく荷物持ちは足引っ張るしな。お前のせいだぞ!」


「きゃっ! ご、ごめんなさいです。許して下さい!」


 私は叩かれた頬を触れる前に頭を下げます。だけど、その這いつくばる姿が面白かったのか、主人様たちは私の姿を見て笑います。


 とても悔しいですが、奴隷の私がここで頭を上げようものなら殴られ蹴られるのが目に見えています。


「それより、速く行きましょう。そんな獣に構っているとモンスターが集まって来ますよ」


「それもそうだな。おいっ! さっさと立ちやがれ!」


「あぐぅっ! た、立ちます! 立ちますからみ、耳を引っ張らないで!」


「あぁん!? 口答えするのか、この獣風情が!」


「きゃあっ!」


 私は感覚の鋭い耳を思いっきり掴まれてしまったため、思わず口答えしてしまいました。主人様はその事に更に苛立ち再び頬を殴って来ました。


 そんな時です。私の耳に走る足音が聞こえて来たのは。それも1つや2つではなくかなりの数の足音が。その後直ぐに森の奥から近づいて来る足音。


 さすがにこれだけ聞こえれば主人様たちにも聞こえたようで、全員武器を構えます。剣と盾、斧、杖と様々ですが、全員同じなのは顔を引きつらせている事です。


 余りモンスターとの戦いを経験した事の無い主人様たちは、オロオロとしながら周りを見渡しています。私も頰の痛みを我慢しながら立ち上がり構えます。主人様たちよりは戦う術を知っていますが、それでもそんなに変わらないでしょう。


 そして現れたのは灰色の毛をしたウルフたちです。体長は1メートルほど。それが耳に聞こえた通りかなりの数が森から走って来たのです。


「なっ!? なんて数だ! おっ、俺は逃げるぞ!」


「ぼ、僕もです!」


「あっ! ちょ、ちょっと待てよ! お、おい、お前! お前が身代わりになって俺たちが逃げる時間を稼げ!」


 ああっ! そんな命令をされれば私は! 私の手の甲にある奴隷紋が輝きます。そして私の体は主人様の命令に反発する事が出来なくなりました。


 私の意思に反して体は私たちを見て威嚇するウルフたちへと向かって行きます。


 怖い、怖い、怖い! 怖くて私も逃げ出したい! だけど、体は言う事を聞いてくれず、歯をむき出して威嚇して来るウルフに殴りかかります。


 私の拳はウルフの顔へと当たりますが、私の力のない1発ではダメージなんて与える事なんて出来ません。逆にウルフを怒らせるだけ。


 ウルフは唸り声をあげて突撃して来ました。私は咄嗟に避けますが、主人様たちに背負わされていた荷物が邪魔で上手く避ける事が出来ません。突撃して来たウルフの左前足の爪が荷物へと食い込みます。


「きゃっ!」


 荷物はウルフが左前足を振ると切り裂かれ、その勢いに私は吹き飛ばされます。ゴロゴロと転がっていると、次々と飛びかかって来ます。


 私は慌てて立ち上がり森の中へと逃げます。私が身代わりになって逃げているため、体も何とか動いてくれますが、周りから追いかけて来るウルフたち。


 枝で服が破け体が傷ついても私は走ります。止まれば直ぐにでも食い殺される。それだけは嫌だった。どんな醜い姿でも良いから、生きたい! 私はその一心で走ったのですが、突然背中に衝撃が走ります。


 私は吹き飛ばされ、背中にぶつかった衝撃が強くて咳き込んでしまいます。い、今のは何? ウルフに突撃された衝撃ではありませんでした。


 そして、背中にとてつもない重みがのしかかります。呼吸をするのも難しいほど。何とか顔だけを向けると、私の背中に乗っていたのは普通のウルフではありませんでした。


 普通のウルフの倍以上はあると思われる大きな個体。この群れのリーダーなのでしょう。その大きなウルフがよだれを垂らして私にのしかかっていました。


 私はその瞬間死を感じました。今まで奴隷にされた時、ご飯を何日も抜きにされた時、見世物として戦わされた時、何度か死を感じた事はありましたが、今日ほどはっきりと感じたのは初めてです。


 体の底から冷える感覚。自分の体じゃないように全身が震えます。目からは止めどなく涙が溢れ、足下も濡らしていきます。


「た、たす……助けて……誰か助けてっ!」


 私は只々叫びました。誰も助けてくれない。そんな事はわかりきっていたのに。それでも、私は叫ぶ事しか出来ませんでした。


 涙で霞む視界から見える、ウルフの顎門。私を嚙み殺そうと大きく口を開けて迫ります。……もう駄目だ。せめて痛みを感じる事なく死にたい、と思い目を閉じた瞬間


「ギャウン!?」


 と、ウルフが鳴き声を上げます。そして私の上に乗っていた重みが消え、同時にドシンッ! と何かがぶつかる大きな音が森の中で木霊しました。


 私は恐る恐る目を開けるとそこには、薬草が沢山入った袋を背負った黒髪の男の人が立っていました。

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