王国最強の元暗殺者

やま

1.プロローグ

『ねぇ……私たちって、出会い方が違っていたら、こんな最後にはならなかったのかな?』


 ◇◇◇


 大陸の中心にある中立国、アルフレイド王国。人口は50万ほどの小さな国で、特徴はその国でしか取れない硬質な鉱石、アルフレイド鉱石が唯一産出出来る国である。


 アルフレイド鉱石は他の鉱石に比べて魔力貯蔵量が多く、加工がしやすい利点と、魔力を注ぐ事によって普通の武器とは比べ物にならない強度を誇る。


 ただ、採掘出来る場所が限られているため、産出量は少なく、殆どがアルフレイド国内で使われているため、外に出る事はほぼ無い。


 アルフレイド王国の周りにある国々は、その貴重な鉱石であるアルフレイド鉱石を狙って、幾重にも戦争を仕掛けるが、今まで一度も成功した事が無い。


 その理由は、アルフレイド王国に存在する王家直属の最強の部隊、アルフレイド十二師団のせいである。


 初代国王が作り上げた部隊であり、剣豪、武闘家、殺人鬼、賢者など、才能さえあれば誰でも師団長になる事の出来る特別な部隊である。


 師団長には、アルフレイド王国のみで取れるアルフレイド鉱石から作られた特別な武器が与えられ、その力は皆が皆一騎当千に匹敵するほど。


 その師団の中に史上最年少、12歳という年で師団長になった少年がいる。在団期間は僅か1年たらずだったが、各国の重鎮たちを怯えさせ、『死神』と恐れられた、最強の暗殺者が。


 ◇◇◇


 ドサッ! と響く大きな音。その音と共にやってくる腰の痛みに俺は目覚める。俺はぼーっとしながらも辺りを見渡す。既に太陽は登り窓から日が覗く。窓の外からは店の準備をする人たちの声が聞こえてくる。


 隣を見る本来であれば壁のはずなのに、あったのは昨日この上に乗って寝ていたベッドだった……ベッドから落ちたのか。道理で腰が痛いわけだ。


 俺は腰をさすりながら立ち上がり、体をぐぐっと伸ばす。窓から外を見ると、太陽が燦々と輝き、青空が広がっている。うん、仕事のしがいのある良い天気だ。


「今日も頑張りますかね」


 俺はもう一度体を大きく伸ばしてから、部屋を出る準備をする。支度を終えると部屋を出て階段を降りる。階段を降りた場所は食堂となっており、既に数人の宿泊客たちが朝食を取っていた。その光景を見ていたら俺に近づいて来る女性。


「あら、おはようタスク君。朝はいつもと同じで良い?」


「おはようございます、メルダさん。お願いします」


 俺の名前を呼んだのは、俺が泊まっている宿屋の女将であるメルダさん。以前は俺も入っている冒険者ギルドってところの受付嬢をしていたらしいが、結婚してからは旦那さんの実家を継いで旦那さんと一緒に宿屋を経営している。


 もうすぐ40代らしいのだけど、見た目は20代後半のため、今でもメルダさん目当ての人がいるぐらいだ。そして、俺がこの街に来て2年、かなりお世話になっている人である。


 メルダさんは微笑みながら厨房へと戻っていく。その後ろ姿を見ていると


「おう、起きてたか、タスク」


「ん? なんだ、グレイブか。まあな」


 俺の向かいに男が座る。男の名前はグレイブ。同じ冒険者仲間だ。初めて冒険者ギルドに入った頃に、冒険者のイロハを教えてくれたいい奴だ。周りからはお節介焼きと言われているほどの世話好きである。


「お前は今日も薬草採取か?」


「ああ、もちろん」


 俺がそう答えると、グレイブははぁ、と溜息を吐く。なんだよ、別にいいじゃ無いか。


「タスク、偶には他の依頼を受けてみようとは思わないのか? 討伐系だって1回も受けてないだろう?」


「別に何を受けても良いんだから良いじゃねえか。別にその日の食事と宿泊代だけ稼げれば良いんだから」


「別に良いけどよ。お前、ギルドの中でなんて言われているか知っているか? 『薬草男』だぞ?」


「そんなもん、言いたい奴に言わせていたら良いんだよ」


 俺の言葉に再び溜息を吐くグレイブ。別に討伐系を受けても良いんだが、わざわざあの生活から離れたのに、自分から血を見にいく理由も無いからな……。


 そんな事を考えていたら


「お待たせしました」


 と、メルダさんが両手にお盆を持ってやって来た。俺とグレイブの分のようだ。俺の方はいつもと同じで、パンにスープ、サラダとベーコンとオーソドックスな朝食で、グレイブの方はパンに肉の盛り合わせだった……朝からよく食うな。


「まあ、良いけどよ。ただ、気を付けろよ。お前がこの街に来てから2年、毎日欠かさず薬草を取ってくるお前を、不思議に思っている奴らがいる。どこか穴場を見つけたんじゃねえかってな。その穴場を狙ってお前を襲ってくるかもしれねえぞ」


「ふ〜ん」


「ふ〜んって……はぁ、まあ気を付けろよ。俺も世話した奴が死ぬのは辛いからな」


「おう、わかってるよ。みんなのおやっさん」


「おやっさんって言うんじゃねえよ……ったく」


 そう言い苦笑いしながらも肉を口に運んでいくグレイブ。


 ほんの数年前では考えられなかった普通の日常。あの時は、こんな日々が来るなんて思ってもいなかった。

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