妻に出て行かれた男、とある少女と出会う

やま

22

「そいつを殺せ! そして、逃げた者たちを追いかけるのだ!」


 ロザートさんの叫び声に他の覆面の男たちが僕に向かってくる。僕も籠手をつけた両腕をカンッとぶつけて構える。


 来たのはまずは2人。2人とも剣を持って切りかかって来た。僕の左側から振り下ろしてくる剣を下がって避け、右側から来た男の剣を籠手で受ける。


 籠手で受けた剣を弾き、男を左腕で顔を殴る。男が怯むのを横目に、左側の男は下から剣を振り上げて来た。


 僕は両腕を交差させて振り上げられる剣を受け止める。ギリギリとせめぎ合うが、交差させていた両腕を思いっきり開き、剣を弾き返す。


 剣を打ち上げられた男の腹に回し蹴りを繰り出す。男の脇腹に入り、メキメキと音を鳴らしながら吹き飛んでいく。


 男たちが僕の前からいなくなったこの少しの瞬間に、他の覆面の男たちは魔法を放って来た。この狭い部屋の中では受け切らないと僕は感じたため、僕たちが開けた壁の穴に向かって下がりながら、飛んでくる魔法を強化した両腕で防ぐ。


 放たれた魔法を防ぐのに気を取られていると、左側から斧が振り下ろされる。僕は反対側に飛ぶように避けるが、魔法を何発かくらってしまった。


 鉄で殴られたような衝撃が体に走る中、歯を食いしばって直ぐに立ち上がる。先ほど僕がいたところに斧を振り下ろしていた男は既に斧を横に構えてこちらへと向かって来ていた。


 僕の首を刈り取ろうと横に振るわれる斧。膝をついている状態の僕は更に頭を低く下げ斧を避ける。頭上に斧が通り過ぎるのを感じながらも、体を回転させ、斧を持つ男の足を蹴る。


 魔力を込めた一撃を男の足を容易く折り、男はバランスを崩して倒れ込んでくる。倒れてくる男の服を掴み、次の魔法を放とうとする男たちへと投げる。


 魔法を放とうとしていた男たちは慌てて撃つのをやめて、飛んで来た男を受け止めるが、投げた瞬間走り出していた僕は既に男たちの前に。


「はぁっ!」


 魔力を込めた拳を男たちに向けて放つ! 男たちは魔力の壁を作り防ぐが、耐え切れずに壁は崩れ何人か吹き飛ばす事が出来た。だが、その隙を向こうも見逃すはずがなく、ロザートさんを守っていた2人が左右から攻めて来た。


 他の覆面の男たちより動きがよく、2人の攻撃を防ぎ切れなかった。槍を持つ若い方の男の突きを右手で掴み、僕と年の変わらない方の男の剣を籠手で防いだけど、変わらない方の男は左手に持っていた短剣を僕の太ももに突き立てた。


 痛みで力が緩みそうになるけど、右手に掴んだ槍を離さず、痛む左足に力を込めて、右足で年の変わらない男へと蹴りを放つ。


 男は素早く下がって僕から距離を取って、別の短剣を抜き投げてくる。僕は若い方の男の槍から手を離し籠手で短剣を弾く。


 若い男は籠手で短剣を弾いたことに出来た死角を狙って槍を連続で突いてくるけど、僕は籠手で逸らす。手のひらで槍の横を叩いて逸らし、槍の間合いの内側へと入る。


 若い男は慌てて槍を脇腹めがけて振るうけど、この近距離では力が全く入っていなかった。僕は槍を掴んで若い男を殴ろうとすると、もう1人の男が僕と若い男の間に剣を振り下ろして来た。


 殴ろうと詰めていた僕は再び槍を離して距離を取る。年の変わらない男は槍をの上を滑らすように剣を横に振って来た。籠手で防ぐがかなりの力で、その上刺された足のせいで踏ん張り切れずに耐え切れなかった。


 弾かれてガラ空きになった体に突き刺さる槍。若い男がもう1人の男の左側から僕の右腹へと槍を突き出して来たのだ。くそっ、結構深く入ったぞ、これ。


 畳み掛けるように年の変わらない男も剣を振り下ろす。左腕の籠手で防ごうとするが、若い男が槍を捻る痛みで力が入らず、左肩へと振り下ろされた。


 避けられないとわかった僕は、無理矢理槍を抜き後ろに飛ぶ。避け切れず鎖骨辺りから胸元まで斜めに切られてしまったけど、あのまま切られるよりはマシの傷だった。


 再び自分たちが開けた壁の穴の近くまで下がって構える僕。そこに一斉に迫る覆面の男たち。いくつか捌くけど、数の暴力に耐え切れずに1つ、2つと体に突き立てられる。


 更には魔法も放たれ、防ぎ切れずに全身に魔法をくらってしまった。穴の外の壁まで吹き飛ばされ、口の中は鉄の味が広がり、意識が朦朧としている。痛くないところを探すのが難しいほど傷だらけになってしまった。


「ふん、1人で儂らを止めようとするからじゃ。無謀だったのう」


 屋敷の中から、覆面の男たちを引き連れてロザートさんが出て来る。確かに僕1人だとロザートさんたちを止めるのは難しい。だけど、時間を稼ぐ事は出来たようだ。


「ロザート様、何かが走って来る音が……」


 覆面の男の1人が気が付いたみたいだ。屋敷に向かって走って来る馬の音を。屋敷に入って来たのは伯爵家とは別の貴族の兵士だった。その先頭には頼りになる元パーティーメンバーがいた。


「レンス、俺様が来るまでよくぞ耐えた! 後は任せるがいい」


 偉そうなのも変わりないなぁ。まあ実際に偉いのだけど。彼の姿を見て安堵した僕は、そのまま目を閉じる。もう、最後の役目は果たす事が出来た。このまま眠ってしまっても構わないだろう。


 大切な、大きくなったあの子の姿を脳裏に浮かべながら意識は暗闇へと落ちていった……。

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