妻に出て行かれた男、とある少女と出会う

やま

20

「これで、お主も終わりじゃよ、伯爵よ」


 部屋の中に入って来た覆面の男たちの中で、他の人たちより背は低いけど、威厳のある雰囲気を放つ男の人が伯爵を睨みつける。伯爵はその視線に震えて、男の人へと命乞いを始めた。


「ま、待て! 待つんだ! な、なぜ私を殺そうとするのだ!? か、金が目的か? この屋敷でほ、欲しいものは全てくれてやる! だ、だから私の命は……」


 伯爵はこの集団のリーダーと思われる男の人の足下へとすがり、何としても自分は助かろうと命乞いをする。なぜこのような事になっているか、なぜ自分の命が狙われているのか、わからないと叫んで。


 その言葉を聞いた男たちは部屋を押し潰すような殺気をそれぞれ放っている。伯爵だけがそれに気が付かずに、ずっと命乞いをしていた。


 そして、その中の1人が伯爵へと近づき、手に持つ剣をリーダーと思われる男の人へと縋り付く伯爵の腕に振り下ろした。剣は真っ直ぐと振り下ろされ伯爵の左腕へと突き刺さる。


 誰もそれに反応する事が出来ずに、伯爵もしばらく腕に刺さった剣を見ていたけど、次第に痛みがきたのか、叫び始める。


 剣を突き刺した男は力任せに引き抜くと、伯爵を蹴り飛ばす。吹き飛ばされた伯爵はお腹に勢い良く入った蹴りの衝撃で嘔吐をするけど、男はそれを気にすることなく伯爵の背を踏み付ける。そして、血を流す左腕へと何度も剣を振り下ろした。


 何度も刺される痛みに、伯爵は限界が来たのか気を失ってしまう。剣を刺していた男は、剣についた血を振り払い、鞘に戻して下がる。


 そして、その男と入れ替わるように別の男が出て来て、棚から何かを探し始める。しばらくして目的の物を見つけたのか、男の人は手に液体の入った瓶を持ち伯爵へと近づく。


 ここは、レイギス兄さんの治療のために集められたポーションなどを保管する保管庫。私たちもそれが目的で来たわけで、その保管庫の物で伯爵の何度も剣を刺されてボロボロになった左腕にかけると物としたら、限られていく。


 私の想像通りで、ボロボロだった伯爵の左腕は少しずつ治っていく。男はポーションを使って伯爵の腕を治したのだ。どうしてそんな事を恨んでいる人たちがするのかと疑問に思っていると


「まさか、ここに逃げ込んでくれるとは思っておらんかったぞ、伯爵。お主に復讐するために屋敷の事は全て調べた。当然、この部屋の事もな。この部屋にある回復薬を使えば、お主を殺す事なく痛めつける事が出来ると考えて、ここに連れて来るように指示をしておったが、自ら逃げ込んでくれるとは。手間が省けたわい」


 そう言う男の人の目は初めて見るドロドロとした気持ちの悪い目をしていた。その言葉を聞いた後ろの男たちも同じような目をしており、気を失っている伯爵を囲んでいく。


 私たちから伯爵の姿が見えなくなるほど囲まれて行き、そして中から悲鳴が聞こえて来た。何をされているのかは見えないけど、何か酷い事をされているのはわかる。


 更に、その気持ちの悪い目は私たちにも向けられていた。同時にリーダーと思われる男の左右に立つ男たちが腰に差している剣を抜いた。


「お主たちには悪いが死んでもらうぞ」


 真ん中の男がそう言うと、ジリジリと寄って来る左右の男たち。私は抱き締めているシオンをレリックに預けて立ち上がる。このままだと私たち全員助からない。そんな事になるくらいなら


「待ってください。この子たちは私が無理矢理連れて来たんです。だから、彼らは見逃して下さい。私を殺す事で彼らを助けてください!」


 私の命を使ってでも彼らを助ける。私が悪役になってレリックたちを助ける事が出来るなら幾らでもなってやる。私が真っ直ぐと男を見ていると


「レイア様、何を!?」


 後ろで驚きの声を上げるレリック。私は無理してレリックたちを冷たい視線を向ける。


「ふふ、別にもう私に様なんてつけなくても良いわ。私に無理矢理言わされて、無理矢理連れて来られて恨んでいるでしょうからね」


 そのまま、何か言いたそうに口を開こうとするレリックから視線を外し、男の方へと向ける。男はなぜか感心したように私を見ていた。


「ほう、伯爵家にもこのような者がおったのか。だが、悪いが伯爵家に関わる者は全て殺すと決めたのだ。当然、使用人もな。だから、後ろの者を逃すわけにはいかん。やれ」


 私の言葉は関係無いと、左右の剣を構える男たちに指示を出す真ん中の男。私は振り上げられた剣に、もう、駄目だ、と絶望しかけて、目に涙が浮かぶけど、私は男から視線を離さなかった。


 真っ直ぐと私に振り下ろされる剣。私は目を瞑りそうになるのをギュッと我慢して睨み続ける。心の中ではこんな私の家族になってくれたレリックとシオンへのお礼と謝罪で一杯だったけど。


 だけど、振り下ろされた剣は私に当たる事は無かった。私に迫った時に、保管庫の庭へと接している壁が吹き飛んだからだ。


 その衝撃に棚が吹き飛び、薬品の液体が飛び散る。あまりも突然で凄い衝撃のせいで全員が固まってしまった。そして、破壊された壁の向こうには2人の人影があった。


「ったく、こんな引退者ロートル引っ張り出しやがって。お前には何か奢ってもらわねえとな」


「ごめんよ。だけど、今回は許してほしい。僕の大切な教え子たちの命がかかっているだ。使える物は全部使わないと」


 私はその2人の姿を見て溜まっていた涙を我慢出来ずに流してしまった。だって現れたのは


「おう、まだ大丈夫そうだなお前ら」


 視線を合わせただけで他の人を怯えさせてしまう顔も今では物凄く頼もしい、巨大な斧を片手で持って肩に担ぐモーズさんと真っ直ぐと男と睨み合うレンスさん……お父さんが来たからだ。


「ロザートさん。申し訳ないですけど、あなたとの約束は反故させてもらいます。この子たちを守るために、あなたと敵対します」

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