妻に出て行かれた男、とある少女と出会う

やま

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 衝撃の事実が判明してから数日後、私はおと……伯爵の許可を貰って外に出る事が出来た。伯爵は私の願いを特に何を言うでもなく認めてくれた。特に私に興味が無いのだろう。


 ただ、私の体を舐め回すように見て来る視線だけは嫌だった。あの人が実の親じゃ無いってわかったら余計に。今までもそういう風に見ていたんだなってわかってしまうから。


 思っていた以上に簡単に外に出る許可が出たのは拍子抜けだったし、何故か私にお金まで渡して来た。あの男なら端金程度なのかもしれないけど、今まで殆ど外に出る事なく、買い物もした事がない私からすれば、かなりの金額だった。


 明らかに何か企んでいるのはわかるけど、それでも、このお金はありがたかった。これで自由兵になるための防具が買えるからだ。


 私は渡された袋の中にあるキラキラと光るお金を見ながら歩いていると


「やあ、レイア」


 と、呼ばれる声がする。振り返るとそこには


「レイギス兄さん」


 私の兄、今となっては赤の他人だけどなのだけど、それをバレるわけにはいかないから、しっかりと接する。


それに、レイギス兄さんは、小太りで女性の事を見下して舐め回すような視線を向けて来る伯爵の息子とは思えないほど、とてもかっこ良くて、細身の男性だ。


 それに頭も良く、貴族が行く学園を主席で卒業したりもしている。社交界でも貴族の令嬢から夫人たちにまで人気があるのだとか。


 ただ、1つ問題があるとすれば、それは


「久し振りだね、レイア……ゴホッゴホッ!」


「レイギス兄さん!」


 私の顔を見て微笑むけど、咳き込んでしまうレイギス兄さん。私が心配して近寄ると、大丈夫だというように手で静止する。


 普通の咳ならここまで心配はしないのだけど……私が心配する理由、それは、レイギス兄さんはとても病弱な体質だからだ。


 1週間に何度か熱が出るのは普通で、たまに倒れる事だってある。屋敷にはレイギス兄さん専属の治療師がいるくらいだ。今も侍女と一緒に離れたところで見ている。


 この体質のせいでレイギス兄さんは、伯爵家をつく事が出来ない。継いだところで万が一何かあってはいけないからだ。


 ただ、このままだと家に問題が出て来る。それは、レイギス兄さん以外に男がいない事だ。この家は私を含めて10数人の女性の子供がいる。下は一桁から、上は私の少し上ぐらいまで。


 そのため、未来の伯爵候補はその女性たちと結婚した男性の誰かになると言われている。私もかなり低いけどその候補の1人だ。そんな事を思い出していると


「ゲホッ、ゲホッ……ふぅ、落ち着いて来た。ごめんね、レイア。久し振りにレイアの顔を見たら嬉しくてね」


 そう言って笑ってくれるレイギス兄さんは本当にそう思ってくれているのでしょう。あの父親と母親から生まれた人とは思えないほど、誰に対しても優しいレイギス兄さん。それから少し話していると


「レイギス! 外に出ては駄目では無いですか!」


 と、怒鳴り声が聞こえて来た。屋敷の中からやって来たのは、レイギス兄さんの母親であり、伯爵の第1夫人であるシャルメーラ・シーリスだった。


 18歳であるレイギス兄さんの母親であり、お母様を虐めていた人物だ。夫人が血相を変えて走って来た。レイギス兄さんが何かを言う前に、レイギス兄さんの体をペタペタと触る夫人。


 ある程度確認して、無事なのを確認出来たら、キッと私を睨んで来る夫人。そして、近づいてくるなり私は頬を叩かれた。


「下賎なあなたが、レイギスに近づくんじゃありません! あなたが、出会える方では無いのですよ!?」


 夫人は興奮しているのか、何度も私の頰を叩く。私は夫人の声がした瞬間、身構えていたので、そこまで痛く無い。でも


「母上! 一体何をしているんだ! レイアを叩くのはやめてくれ!」


 と、レイギス兄さんは叩くために振り上げた右腕を掴んで止めようとする。それでも、叩くのをやめようとしない夫人だけど、レイギス兄さんが咳き込むと、慌てて振り上げた手を下ろして、直ぐに近くにいた治療師を呼ぶ。


 レイギス兄さんは大丈夫だと言うけど、夫人は心配して一緒に屋敷へと戻って行った。あの夫人もレイギス兄さんの爪の垢を煎じて飲んだら、少しはマシになるのかな?


 くだらない事を考えながら1人残された私は。鼻からツーと鼻血が垂れるのがわかる。布で抑えながら、色々と準備が必要なため、一旦部屋に戻ろうかな。


 それから部屋に戻って、伯爵から貰ったお金で何を買おうか迷っていると、しおんとレリックが部屋へと入って来た。そうだ、2人には一応応外に出る事を話しておかないと。


 自由兵の事を話すと、2人に私の実力の事を聞かれる。私は少し魔法が使えるぐらい。それ以外はあまり実力が無いため、訓練をする事になった。


 相手はレリックのお父様が連れて来てくれた兵士や冒険者だ。その人たちのおかげで、私は少しずつだけど強くなる事が出来た。


 それから、身にあった防具や武器を買って、体に馴染ませる事を訓練をしながら何週間か行い、私がお母様の日記を見て、自由兵を目指すのを決めてから半年後に、私は屋敷を出て自由組合を目指す。


 後ろには別についてこなくていいと言ったのに、2人は私の従者だから離れないと言う。仕方ないわね、と言いながらも嬉しさで泣きそうになる私。


 泣きそうになるのを我慢しながら青空を見上げる。お母様、これからレンスさんを探しに行って来ます。私たちをどうか見守っていてください。

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