妻に出て行かれた男、とある少女と出会う

やま

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「……ふぅ、それじゃあ、続きを読もうかな」


 私は自分の部屋に残されているベッドに寝転がりながら、お母様の日記をペラペラとめくる。お母様がレンスさんっていう男性の方に告白されたところで、丁度シオンが部屋に来たのだ。


 私の部屋に来た理由は、体を拭くための布とお湯を持って来たのと、夜の食事を持って来たため。私は基本この部屋で食事を取る。これは昔からだからあまり違和感を感じた事は無い。


 前まではお母様と食事をしていたけど、あんな事があった後は、シオンと食べるようになった。シオンも親がいるから決まった日にしか来られないけどね。


 それも終わってシオンが帰った後に、私は1人で自身の体を拭く。食事が終わった頃に使うと、お湯はすでに冷めて冷たいけど、私は気にする事なく体を拭く。


 それから片付けを終えて、今のベッドに寝転ぶ体勢に行くのがいつもの日課だ。いつもはこの後は魔法の訓練をこっそりとやるのだけど、今日はお母様の日記が楽しみだったので、魔法の訓練はお休みにする。


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 東暦1026年10月23日
 メリィ 17歳


 ……今日ほど目覚めの良い朝は無かったでしょう。それほどまで私の心は晴れやかだった。目を瞑れば思い出す昨晩の事。
 ふふっ、あのレンスの真剣な顔を思い出すだけで、心が温かくなるわね。
 思わず噛んじゃったのは失敗したけど、私の気持ちも伝えたし。
 それに、左手の薬指に輝くこの指輪。もう、無理しちゃって。私がこの指輪を眺めていてニヨニヨと笑みを浮かべている姿をお母さんに見られているに気付くまで、続けちゃうほど、レンスから指輪を貰うのは嬉しかった。
 絶対に手放さないからね!
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「……指輪?」


 私は日記の中に出て来た指輪について考える。そういえば、お母様は指輪をつけていなかったのを思い出したからだ。それに、このレンスという男の人。


 お父様の名前は、アルベルト・シーリスだ。当たり前だけど、このレンスという人はお父様とは別人になる。


 そういえば、この日記を見つけた箱の中には他にも入っていたわね。それを思い出した私は、箱を開けて中を探す。
  
 そして、それは見つけた。箱の奥底に手のひらに乗るくらいの大きさの小さな箱があったのだ。それを取り出して開けてみると……あった。指輪だ。


 夫人たちがつけているような豪華で派手な指輪に比べたら、小さくて少し地味に見える指輪だけど、私はこのくらいの指輪の方が好きだ。日記を見る限りだと、お母様も気に入っていたみたいなのだけど……この後何かあったのかしら?


 私はこの後の事が気になって日記を進めて行く。


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 東暦1026年11月6日
 メリィ 17歳


 昨日は私の両親への挨拶に行って来た。町から少し離れた別の町のため、泊まりでの挨拶になった。
 挨拶に行くのは、私の両親だけ。レンスの両親は昔に亡くなったので、私の両親がレンスの親みたいなもの。
 そんなお母さんとお父さんに挨拶に行くなり、カチカチになるレンス。緊張するのはわかるけど、そんな硬くならなくても、って、何回思った事か。
 そんなレンスに比べてお母さんたちは、びっくりするほど自然体。逆に、挨拶に来るのが遅いんじゃ無いのか……10年くらい、だって。
 どれだけ早くから認めていたのよ。
 お父さんはレンスを捕まえて酒盛りを始めるし。あーあ、ああなったらもう満足するまで離されないわね、レンス。
 でも、お父さんと仲良くお酒を飲むレンスの姿は良かったなぁ。
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 東暦1026年11月15日
 メリィ 17歳


 お母さんたちへの挨拶を終えてから数日後、また唐突にレンスに連れ出された。前と違うのは、夜ではなく朝から連れ出された事だ。
 一体どこへ向かうのだろう、と、レンスに手を引かれながら後をついて行くと、私が連れて来られた場所は、教会だった。
 教会の中へと入ると、中には私たちと親しい人たちが拍手をして出迎えてくれた。
 目の前の光景に呆然としていると、レンスが今から結婚式を始めるなんて言うから、ついお腹を殴ってしまった。
 もうっ! 結婚式を挙げてくれるのは嬉しいのだけど、こっちにも準備というのがあるのに!
 その事を何度もレンスにいったのだけど、お母さんが言うには、物凄く嬉しそうな笑みを浮かべながら起こっていたそうだ。そ、そんなはずは……
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 東暦1027年1月7日
 メリィ 17歳


 最近、体の調子が悪かった。理由もわからずに体調が悪くて、少しレンスにも当たったりしてしまった。落ち着いた今考えると申し訳ない気持ちで一杯になる。
 あまりにも体調が悪いのが続くので、近くの治療師の元へと行き、体を見てもらった。後ろで、何も無いようにとそわそわとしているレンス。
 私も病気じゃありませんように、と、祈っていると、先生の口からとんでも無い言葉が出て来た。
 それは………………私が妊娠したって事だった。
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「……うそ」


 私はお母様の日記に書かれている内容に固まってしまった。その言葉は『妊娠』という言葉だった。昔少し聞いた事があるけど、お母様の子供は私1人。それなのに、お母様はこのレンスという男性と結婚して、子供が出来ている。


 私はあまりこれからわかる結果について考えたくは無かった。無かったけど、このまま、読むのを止める事はもっと出来なかった。


 それからしばらくは、妊娠中の事について色々と書かれていた。こういう事はダメ、あれは良い、と、色々な事が。そして、その日の日記を見つけてしまった。


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 東暦1027年10月11日
 メリィ 17歳


 私は涙が止まらなかった。私たちを見るレンスも涙を止める事なく、私に向かってありがとうとお礼を言ってくる。
 私も、嬉しかった。あれだけ痛い思いをしたというのに、腕の中にいる子の顔を見ると、痛みの事なんて忘れてしまった。
 そう思うほど腕の中にいる子は可愛かった。
 私とレンスの大切な子供。これから何があっても守る。絶対に。だから、元気一杯に育ってね、私とレンスの愛する大切な子供、レイア。
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「……ははっ……まさか、お母様が亡くなってからわかるなんて」


 ……私がお父様と血が繋がっていなかったなんて。私はあまりの事でしばらく動く事が出来なかった。お父様が私に対して自身の子供を見る目で私を見ていなかった事は、子供ながらに気が付いていたけど、こういう事だったなんて。


 予想外な事に少し呆然としてしまったけど、まだ日記は終わっていない。まだ、レンスという男の人、私の本当のお父さんがいなくなる理由がわからない。どんな気持ちになるかはわからないけど、最後まで日記を見ないと。

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