妻に出て行かれた男、とある少女と出会う

やま

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 なんの変哲も無い茶色の表紙の本。お母様の日記帳を見つけた私は、まず表紙をめくった。1枚目からお母様の日記は始まっていた。


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 東暦1018年10月23日
 メリィ 9歳


 今日はメリィの誕生日!
 誕生日会には近くのお家の友だちたちに、レンス君が来てくれた!
 お母さんが作ってくれたケーキが美味しかった。
 お誕生日のお土産にみんな色々とくれたけど、レンス君はこの日記帳を貰った!
 物凄く嬉しかったから、レンス君のほっぺにちゅってしてあげたら、レンス君は顔を赤くして可愛かった!
 これからは、レンス君に貰ったこの日記帳を書いていこう!
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「レンス君っていうのはお母様の幼馴染かな?」


 ペラペラとページをめくるって見てみると、毎日何かあった事をお母様は日記にしていたみたい。その中で、このレンス君っていうお母様の幼馴染と思われる人は、必ずと言っていいほど出て来る。


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 東暦1020年4月20日
 メリィ 10歳


 今日は町の自由兵のおじさんに、訓練してもらう日だった。レンスは格闘術をおじさんから習って、私は魔法を教えてもらった。
 私は特に火魔法が使えて、自由兵としては重宝されるだろうと、おじさんに褒められた。レンスもどうやら筋がいいみたいで、2人でパーティーを組んだら、かなりいいパーティーになるだろうって。
 ふふっ、レンスとパーティーか。まだ自由兵になれる年齢まではまだだけど、今から楽しみだな!
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 東暦1021年10月23日
 メリィ 11……じゃないや。12歳!


 今日、ようやく12歳になる事が出来た!
 やっと、レンスと一緒に自由兵になる事が出来る!
 わざわざ、私が規定の年齢になるまで待っていてくれたレンスには感謝しないとね。
 ふふっ、また、お礼にレンスのほっぺにキスしたら照れちゃうかな?
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 東暦1021年10月24日
 メリィ 12歳


 昨日はレンスと一緒に自由兵になるための手続きをしに行った。簡単な書類の記載と、自由兵として仕事が出来るかな最低限の確認をした。
 まあ、私もレンスも1発で受かったけどね!
 毎日おじさんに教えてもらったのが良かったみたい。
 特に私は
 魔法が上手く使えるからって、色々な自由兵の人に勧誘された。
 自分の事が認められて嬉しかったけど、全部断った。だって、私はレンスとパーティーを組むつもりだもの。他のところには行きません。
 レンスも初めからそのつもりだったのか
「彼女は僕のパートナーですから、申し訳ないのですが他を当たってください」だって!
 きゃぁー!! もうっ、レンスったら! どれだけ私を惚れさせたら気が済むのよ!
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「……なんだか凄いわね」


 私は日記帳の中のお母様を想像して苦笑いをしてしまった。でも、それだけこのレンスっていう男性の事が好きだったんだろうな。流れるように書かれている文字からも、この人の事を思って書くのが楽しいっていう気持ちが伝わってくる。


 しばらくページをめくって読んでいくと、このレンスっていう男性とお母様の自由兵としての冒険が書かれていていた。


 まあ、大半はレンスが守ってくれた、や、レンスが先頭で魔獣を倒していく姿がカッコよかった、とか、レンスさんの事を褒める惚気しか書かれていなかってけど。


 ……へぇ〜、このレンスっていう人とお母様も青位までなったんだ。それも立った5年ほどで。お母様の日記だとレンスさんばかり褒めているけど、たまに書かれているお母様の活躍を見てみると、その実力が伺える。


「すごいなぁ……面白そうだなぁ……自由兵」


 毎日のように楽しそうに日記を書くお母様の姿を思い浮かべていると、私も自由兵に興味が出て来た。


 私は生まれてこの方、この町から出た事が無い。小さい頃はお母様と一緒に町の中を歩いた記憶はあるけど、その外には出た事が無いのだ。


 このお母様の日記のせいでこの町の外に興味が出てしまった。お父様に頼んで外に出ようかしら。そんな事を考えながら、もう少し夢の中に入りたいと思ってお母様の日記を読んでいると、見逃せない文章があった。


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 東暦1026年10月23日
 メリィ 17歳


 今日は私の誕生日。
 日が変わると同時にレンスに呼び出されちゃった。
 こ、これはまさかの夜這いってやつかな?
 で、でも、レンスとの初めてが外って……レンスって中々特殊な性癖の持ち主みたいね。ま、まあ、それも受け入れてこそなのだけどね!
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 ……いきなり暴走をし始めるお母様。少し先を読むのが怖かったけど、頑張って続きを読む。


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 レンスに呼ばれたのは、町の中にある中央広場だ。
 ここでは、毎日屋台などが出ていて、子供たちも楽しそうに遊んでいる姿をよく見る事が出来る、賑やかな場所だ。
 だけど、今は私とレンスだけ。今日は晴れていて雲が少ないから綺麗に月が顔を出して、私たちを照らしてくれる。
 そのおかげなのか、緊張して強張った表情をしているレンスの顔がよく見える。
 レンスは何度か深呼吸をして、私を見てくる。ちょ、ちょっと、そんな真剣な目で見つめられたら私もドキドキするじゃ無い!
 そんな事を思いながらレンスの言葉を待っていたら、レンスは
「僕は初めて出会った頃なら、メリィの事が好きだった。これからも僕と側にいて欲しい!」
 と、真剣な表情で言われた。
 ……
 …………
 ……………………はっ!?
 や、やばい。あまりの嬉しさに叫んでしまいそう。で、でも、ここは冷静に。こういう時こそ冷静に返さないと。
「わ、わたちもレンスの事が好きでしゅ!」
 と、返してしまった事は忘れて。
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「お母様……」


 この日記のおかげで、お母様はこのレンスって人に対しては、少しタカが外れる事が分かったのだった。

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