妻に出て行かれた男、とある少女と出会う

やま

3

「それじゃあ今から早速森に入るけど、眠れ草の形は覚えているかい?」


 僕の言葉に頷く3人。まあ、レリックは討伐系じゃないから不満そうだけど。今から入る森は入り口付近はそれ程危険は無い。精々野犬が出るぐらい。


 森の中腹あたりに行くと魔獣が現れ始める。魔獣というのは体の中に魔晶というものを蓄えているものを言う。それらは普通の動物に比べて筋力や耐久力が高く、まあ、簡単に言えば手強いのだ。


 それを相手にしようとするには、必ずと言って良いほど魔力操作が出来ないといけない。そうじゃないと普通の武器では中々傷をつける事が出来ないのだ。


 彼らを見ると、魔力操作は全員出来るようだけど、それは訓練の中でだ。いざ戦闘になると怪しいと僕は考えている。その前に少しでも実践を経験させたいところだ。


「それじゃあ、森へ入ろうか。基本は僕の視界内にいるように。奥へは行かないように。これを守ってね」


 3人は返事をしてそれぞれ別れて眠れ草を探しに行く。3人がそれぞれ探している間、僕は辺りを警戒するのと同時に手頃な敵がいないか探す。


 いてくれてありがたいとすればやはり一角ウサギだろう。名前の通り1本の角が生えたウサギで、敵意を向けた相手に向かって角を向けて飛んでくるのだ。


 ただ、基本は草食で大人しいため、気付かれる前に角を気をつけて倒せば全く脅威にはならない。あれなら大丈夫だろう。


 そんな事を考えているとシオンが手に引き抜いた傘を持ってやって来た。


「ど、どうですか?」


 手に持つ草を差し出して見せてくるシオン。どれどれ……うん、眠れ草だ。綺麗に取れて良いものだ。


「シオン、これであっているよ。流石だね」


「い、いえ、ただ、同じのを探しただけですから。そ、それじゃあ次探してきます」


 シオンはとんがり帽子を深くかぶると、サッと離れて次の眠れ草を探しに行った。


 それから順番に眠れ草を持ってくるみんな。レリックは違うのを持ってきてやり直しになり、レーカはシオンに比べて少し雑だけど正しい物を持って来られた。


 それから森に入って1時間後には依頼量まで集める事が出来た。初めは少し嫌そうだったレリックも達成感を感じたのか集まった事に嬉しそうだ。


「それじゃあ、眠れ草は集まって依頼は完了だから、次は……ん?」


 次は一角ウサギを探して貰おうと言おうとした瞬間、何かが近づいて来る気配を感じた。突然止まった僕に首を傾げる3人だけど、直ぐに僕が止まった理由がわかって武器を構える。僕が止まった理由は


「グギィィィッ!」


 と、森の奥からゴブリンが走ってきたからだ。数は5体。まれに森から出てくる事はあるけど、まさかこのタイミングで出て来るとは。


 でも、様子が普通に現れるよりおかしい。話に聞く通りだと獲物を求めて森から出て来るのだけど、目の前から向かって来るゴブリンたちは、まるで何者からか逃げるように走って来ているのだ。


「ヒィッ、ゴ、ゴブリン!」


「レリック、シオン、下がって!」


「レ、レイ……レーカ!」


 武器を咄嗟に構えたとしても、初めて見るゴブリンに腰が引ける3人。3人とも足が震えていた。まあ、仕方ないよね。僕も初めて魔獣と戦った時は膝が笑って言う事が聞かなかったものだ。


「3人とも下がっていて」


 だから、ここは僕が出ないと。ゴブリンたちは何かから逃げているようだけど、彼らを見ると直ぐに欲望に従って迫って来た。


 僕はそんなゴブリンたちを見て、両腕に魔力を纏わせる。高位の自由兵であれば誰でも出来る技の1つで魔装と言う。


 迫るゴブリンたちは一瞬僕を警戒するけど、欲望に勝てなかったのかそのまま迫って来る。僕はまず1番近くにいるゴブリンへと向かう。ゴブリンはまさかこっちから向かって来るとは思っていなかったのか、驚きの声を上げる。


 僕はその声を気にする事なく、ゴブリンの頭を掴む。そして持ち上げ隣のゴブリンへと投げる。当然仲間が投げられると思ってなかったゴブリンは、受け止められずに巻き込まれて吹き飛ぶ。


 2体動きを止めたうちに、残りの3体へと向かう。真ん中のゴブリンに回し蹴りを首目掛けて放ち、首をへし折る。ゴキンッと音がすると共に飛んで行くゴブリン。気に当たって動かなくなる。


 ゴブリンは手に持つ木の棒を振り下ろしてくるけど、魔装して僕にただの木の棒がくらうわけもなく、振り下ろされた棒を左腕で受け止め、その手を掴む。右手でゴブリンの反対の腕を掴み持ち上げ、そして頭から地面へと叩きつける。


 首が変な方向へと曲がり倒れたゴブリンを横目に、最後の1体へと向かう。そろそろ投げ飛ばして倒れたゴブリンたちが起き上がろうとしているため、さっさと倒さなければ。


 ただ、4体があっという間に倒されたため、最後の1体は逃げ腰だった。本当は逃がしてあげたいところだけど、ここで逃がして別の人間を襲われても困る。悪いけど死んでもらうよ。


 逃げ出した最後の1体に追いついた僕は、後ろから首を掴み握り締める。痛みでゴブリンは喚いているけど、骨を折ると黙った。


 ようやく立ち上がろうとしたゴブリンたちも同じように首の骨を折り殺す。3人はその光景を呆然と眺めるだけだった。


 本当ならここでゴブリンから魔晶を取り出したいところなのだけど、まだ新人で自由兵になったばかりの彼らの前で捌くのを見せるのは、彼らが保たないだろう。これも、少しずつ慣らしていかないと。


 取り敢えず、ゴブリンは持って帰る事にして、僕たちは森を後にした。ゴブリンたちが逃げ惑っていた原因も探らないと。


 ◇◇◇ 


「ゴブリンをけしかけたが、まあ、こんなものだろう」


「ああ、銀位の奴が付いているんじゃな。それで、あの方は?」


「バレなければ何をしてもいいとの事だ。全く、可愛そうなものだな。貴族の家に生まれたばかりに、後継問題に巻き込まれるのだから」


「全くだ。まあ、そのおかげで俺たちも金が貰えているわけだがな。これからは少し観察するぞ。あの方の命令を確実に遂行するためにも」

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