世界に復讐を誓った少年

やま

115.贈り物

「しかし、懐かしい雰囲気じゃ。300年ほどとは聞いておったが、生きている間はあっという間の期間じゃが、死ぬとこれほど懐かしく思うとはのう」

 突然現れた黒い日傘をさした金髪のツインテールの女性。1人で呟きながら歩いているけど、私たちを誰も気にした様子はない。これほど殺気に溢れた空間を全く気にせずに歩いてくるのだ。

 私やリーグは不思議に現れた女性を見ていたのだけど、アルノードさんやノエル、ギルデに天秤座様が咄嗟にその女性から離れた。

「ただ、懐かしい雰囲気を味わいに来ただけなのに、まさか、ここにあの者の復讐対象がおるとはな」

「えっ? がふっ!?」

 そして、気が付いたら女性が目の前にいて、私は首を絞められていた。細い右腕で私を持ち上げて。

「ステラッ! テメェ!」

 掴まれた私を見て激昂したリーグは、私を助けようと剣を振り下ろしてくるけど、女性は日傘を宙に投げ、右手をリーグに向けて中指を弾いた。

 パァン! と、弾ける音と共に吹き飛ぶリーグ。咄嗟に声を出そうとしたけど首を絞められているため声を出す事が出来ない。

 女性に弾き飛ばされたから微動だにしなくなったリーグ。頭の中で嫌な想像をしてしまう。早く助けなきゃ! そう思って、女性の腕から抜けようと暴れるけど、微動だにしない。なんて力なの。

「ふん、あの童は死んでおらぬわ。お主の首のように捻り千切るの容易いが、あの者の復讐の邪魔をする事は出来ぬからのう」

 女性はふわふわと落ちていく日傘を掴んで、私の首を離した。私は地面に落ちると同時に咳き込む。涙で視界がぼやけるけど、急いでリーグの元へと向かう。

 リーグの側に駆け寄ると、リーグの顔が赤く染まっていた。女性のさっきの一発で、リーグの額が割れたようで、そこから血が止めどなく溢れている。

 女性の言っていた通り、呼吸して生きているけど、気を失っているみたい。それに、額から流れる血のせいで顔色が悪かった。

 直ぐに額の傷を塞ぐために魔法を発動する。傷は直ぐに塞がったけど、顔色は悪いまま。意味は無いかもしれないけど、リーグを守るために防御結界を張る。振り向いて女性の方を見ると、女性は真っ直ぐだ、ギルデ、ノエル、天秤座様の方へと歩いていた。

 3人は物凄く警戒しているけど、女性の方は散歩をするかのように軽やかな足取りだ。大陸でもトップに近い3人がいるのに……。

 そして、女性は真っ直ぐとギルデの方へと歩いていく。ノエルと天秤座様は、女性の横を通り抜けて私たちの方へとやって来た。それを、女性はちらっと見るだけで何もして来なかった。

「ふむ、そなたの名は?」

「……ギ、ギルデ・サタン……です」

 私たちが全員で向かって、天秤座様と同等の力を持つと思われるギルデが、片膝をつくなんて。それも、無理矢理じゃなくて、自然とそうさせているみたい。

「ほう、今代の憤怒かえ? これは好都合。そなたに頼みたい事があってのう。この手紙を今代の魔王へと渡して貰いたい。この手紙には魔王のみが開けられるようになっておるから、魔王以外が開けようとするでは無いぞ? 死にたくなければのう」

 女性がそう言った瞬間、辺りを押しつぶす圧が私たちの上に降りかかった。私は顔を上げていることが出来ずに、そのままもどしてしまった。

「か、かしこまりました」

「うむ、頼んだぞ。さて、妾は帰るとするかのう。魔都なども行きたいが、あの者の血も飲みたいしのう」

 女性はそれだけ言うと、体がばらばらと蝙蝠になって飛んで行ってしまった。同時に私たちを押し潰していた圧が消える。

 ……口の中が胃液の味とかで気持ち悪い。周りを見ると、ノエルやアルノードさんたちもかなり辛そうだ。私ほどじゃ無いけどかなり消耗している。

「……まさか、あんな奴がいるなんて。これはすぐに帰らないと。勇者様、みんな、僕の手を掴んで!」

 女性が消えたのを見届けてから、慌てて私たちの元へとやってくる天秤座様。やっぱり、聖王国最強の十二聖天でもあれは規格外なんだ。

 私たちはそれぞれが手を繋いで、アルノードさんがリーグを担いで天秤座様に触れる。そして、天秤座様の転移で私たちは聖都へと帰って来た。

 転移した先は、1度だけ来た事のある大会議室だった。部屋には私たちを見る天秤座様以外の十二聖天の人たちに聖騎士団長と魔法師団長だった。

 全員の視線が私たちへと集まってくる。私は慌てて口元を拭って汚れを落とす。今更かもしれないけど、そのままにしておくよりはいい。

「天秤座よ。何かあったのか?」

「……獅子座。勇者様や聖女様を迎えに行った先で、とんでもない化け物に出会ったよ」

「……化け物だと? それは魔王に出会ったと言う事か?」

「……あれが何なのかはわからない。ただ、只者じゃないってのは嫌って言うほどわかった。獅子座でもギリギリだと思う」

 天秤座様の真剣な表情と言葉に、みんな難しい顔をする。

「……ふむ、魔王たちの脅威に謎の化け物。そして、我らに送られてきたもの。何か関係があるのだろうか」

 獅子座様はそう言うと兵士たちに誰かを連れてくるように指示を出す。その間に別の兵士が私たちに座る席を用意してくれた。その頃にはリーグも目が覚めて私の隣に座っている。

「聖女様、そしてリーグよ。君たちに確認して欲しい事がある。後ろを見てくれ」

 獅子座様の言葉の通り振り向く私とリーグ。一体何があるのか? そう思って振り向いてみると、そこにはここにいるはずのない虚ろな目をしたお母さんとお父さんがいたのだった。

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