世界に復讐を誓った少年

やま

108.とある冒険者の話 その2(5)

「揃ったな」


 ダンジョン調査の日。俺たちは予定の時間にダンジョンの入り口へと来ていた。そこにはドーリさんのパーティーと俺たちを含めて6のパーティーが集まっていた。


 ……ん? 予定では5つのパーティーだったはずだが1組増えている? その俺の 疑問に答えるかのように、ドーリさんがパーティーの説明を始めて行く。


「まずは俺が率いる『紅蓮団』だ。メンバー俺合わせて8人。全員男だ。そして、そっちにいるがトルネ。A級の冒険者だ」


 ドーリさんが顔を向けた方には若い男が立っていた。槍を持った銀髪の男で、背後に首輪を付けた女性、奴隷を3人連れている。


「トルネだ。足を引っ張るなよ?」


 トルネの言葉に殺気立つ冒険者たち。ドーリさんは呆れたような表情を浮かべながらも宥める。行く前からこの調子か。


 それからドワーフのみで作られた5人パーティーとドーリさんのパーティーのように男だけの4人パーティーが1組ずつ、そして


「あと2人組のパーティーだ。お前らも挨拶しろよ」


「……よろしく」


 ローブを被った2人組のパーティー。背の高い方が濁ったような声で挨拶をしてきた。もう片方はローブを着ていてもわかる体型から女性だろう。そちらは頭を下げるだけだ。


 その女性を見て、ドーリさんやドワーフのみのパーティーではないパーティーがニヤニヤと笑みを浮かべながら見ていた。ちっ、面倒な事が起こらなきゃ良いんだが。


「あと、ギルドからも調査員としてレグル殿たちも来てくれた。このメンバーでダンジョンの調査を始めるぞ」


 ギルドからも人を出してくれたのか。それは有難いが、そいつらの視線がエイラとシルフェ、それからローブの女性を向いている。はぁ、本当に面倒な事が起きなければ良いのだが。


 取り敢えず様々な場所を見ないといけないという事で、パーティーを分ける事にした。人数が揃っているパーティーはそのパーティー毎で、人数が少ないローブの2人組とギルドからの調査員であるレグル殿たち3人が1組のパーティーとして。


「何かあれば直ぐに逃げる事だ。無理して死んで情報がわからない方が困るからな。それじゃあ入るぞ」


 ドーリさんの言葉にそれぞれがダンジョンへと入って行く。俺たちの目の前で起きた事が偶然だと分かれば良いのだが。


 ◇◇◇


「なあ、レグル、そろそろ良いんじゃねえか?」


 ダンジョンへ入って4時間ほどが経った頃、そろそろ我慢の限界になったのか、デッツの奴がそんな事を言って来やがった。ったくこいつは。それで何人の女殺してきたと思ってるんだよ。


 だが、まあ、確かにローブを羽織っていてもわかるあの体は味わってみたい。


 このダンジョンが出来たお陰で親父は村長から町長へと変わり、俺も王都へ行く事が増えてからは、その度に女を抱いたが、目の前の女はスタイルだけならかなりのものだ。


 それにここはダンジョンの中。この中なら、何かあったとしても魔物にやられたといえば罰せられることは無い。丁度、俺たちが女たちを連れ込んでいる場所に辿り着くしな。


「慌てるな、デッツ。もうすぐでいつもの場所だ。そこでやるぞ」


 俺の言葉に下卑た笑みを浮かべるデッツ。もう1人の男、ロンも同じように嬉しそうだ。それからしばらく歩くと、前を歩く2人組が目的の場所へと入って行く。


 そこは俺たちが見つけた穴場で、まあ、簡単に言えば何も無いところだ。普通の冒険者たちはこの場所に何も無いのを知っているため、ここには来ない。だが、それが俺たちにとっては好都合なのだ。女を連れ込んでヤるためには。


 俺は左右の2人に目を配らせ、2人は頷きそれぞれの武器を構える。ギルドマスターからこの依頼を命じられた時は面倒だと思ったが、これは受けて良かったぜ。そう思った瞬間


 ズドドォンン!


 と、背後で何かが崩れたような音がした。その音に驚いた俺たちが背後を振り向くと、俺たちが入って来た入り口が落盤し、閉じ込められてしまったのだ。


 慌てて入り口へと向かう俺たち。崩れた岩をどかそうとするがどけてもどけても向こうが見えない。


「ちっ、お前らも手伝えよ!」


 俺たちを眺めているだけのローブの奴ら。こいつらだってこの状況をどうにかしないとここからは出られない。それなのに悠々と見やがって!


 しばらく岩をどける作業をしていると、背後から笑い声が聞こえて来た。突然の笑い声に、俺たちが振り返ると、男と思われる方のローブの奴が笑っていたのだ。


「な、何がおかしいんだよ!」


 不気味に感じたのか、デッツが問いただすと、ローブの奴が右腕を向けて来た。そして放たれた魔法でデッツとロンが吹き飛ばされてしまった。俺はどのような魔法でいつ放ったのかわからなかった。それほど速かったのだ。


「くくっ、なんて情けない顔だ。僕はこんな奴に昔は虐められていたのか」


 そして、そんな俺を見て再び笑い出すローブの奴。濁っていた声が次第に若い男の声へと変わる。俺は盾と剣を構える。痛みでうずくまっている2人は役に立たねえ。俺がこいつをぶっ殺してここから出てやる!


「そんな殺気立たなくても良いじゃ無いか。僕と君との仲じゃ無いか、レグル?」


「何を言ってやがる!」


 俺が訳もわからずに怒鳴ると、男はやれやれと首を振りながらローブを脱ぐ。見た瞬間は一体誰だかはわからなかったが、次第に奴の顔が思い出して来た。


「てめぇ……悪魔のてめぇが何でここにいやがる!」


 目の前には、骸骨に連れ去られて消えた村のゴミハルトが笑みを浮かべて立っていた。

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