世界に復讐を誓った少年

やま

95.七星天女

「へぇ〜、女神も本気って事かな?」


 天幕の出来事から3日後、ついに両軍がぶつかり合うとなったその日、皇女軍にどよめきが起きた。


 どよめいた理由は、整然と並ぶ軍勢を見たからでは無く、見た事も無い魔物が現れたからでもなく……空を飛ぶ天使を見たからだ。


 数は10体。全部女型の天使が敵軍の上を飛んでいたのだ。神の僕である天使が現れて敵軍の士気はかなり高まり、逆にこちらは士気がガタ落ちだ。


 理由はわかりきっている。神の僕である天使がいる皇太子側が正しくて、それに刃向かう皇女側は間違っているのでは無いのか、と。


 ただでさえ天使が現れた事により皇女側が揺れているところに、教会の神父とやらが両軍の中間あたりで神が見ているこちら側、皇太子側が正しいなどほざいて、降伏を勧めてくる。神に逆らうのか、と。皇太子側の軍の1番前で宙に留まる天使たち。


「どうする、マスター。この士気の差でぶつけても一方的にこちらがやられてしまうぞ。それどころか裏切り者だって出てくるだろう」


 リーシャの言う通り、このままぶつけたところでただでさえ数で負けているところ更に押し込まれてしまう。だけど、リーシャ、どうするも何もやる事は決まっているよ。


「そんなの決まっているよ。奴らの士気が上がっている元凶を叩くにね」


「ふふっ、そうでなくては! それでは私が……」


「あっ、リーシャはまだだよ。まずはこいつらを使う」


 僕が止めた事にぶーぶーと文句を言うリーシャだけど、その前にちゃんと戦力になるか試さないと。数は少ないけどで彼女の配下として作った新しい配下たち。


「さあ、行って来い、七星天女グローセベーア。任せたよ、ミレーヌ」


「はい、お任せください、ハルト様」


 7体の配下を引き連れたミレーヌが漆黒に染まった翼を広げて飛び立つ。さあ、君たちの力を見せてくれ。


 ◇◇◇


「ここでいいでしょう」


 私は両軍の中間地点であり、先程まで降伏勧告を叫んでいた神父の目の前に降り立ちます。先程まで叫んでいた神父は私の姿を見たまま固まってしまっています。


 私は何も言わないまま神父に向けて指をさします。突然の私の行動に戸惑う神父ですが、私の指先から放った闇魔法で神父の頭を貫きます。


 声を発する事なく倒れる神父。さて、どうやってあの天使たちを誘き出しましょうかね。


「ねー、ミレーヌさまぁー、これ、食べていいー?」


 どうしようかと考えていると、私の服を引っ張る感覚と下から聞こえてくる可愛らしい声。下を見ると、右手で私の服を掴んで、左手の人差し指を加えていた金髪の少女、マナが上目遣いで見て尋ねてきます。


「駄目ですわよ、マナ。そんな汚ならしいもの食べては。昨夜もハルト様に頂いていたでしょう?」


 そのマナに私が言う前に、後ろからそんな声が聞こえてきた。腰まで長さがある黒髪でポヨンと張りのある胸。すらっとした腰の男性のみならず女性が見ても見惚れるほどの美貌を持つ女性、エンリエがマナを止めます。


 ニコニコとした笑顔を見せながらマナの頭を優しく撫でるエンリエ。優しい顔をしているけど油断してはいけない。私の配下として言う事は聞くけど、ハルト様を狙っているもの。性的な意味で。


「ボクも速く戦いたいな、ミレーヌ姉。行ってもいい?」


 ニコニコしているエンリエを警戒していると、私の隣に立って今すぐにでも走り出しそうなほどうずうずしている少年のような容姿をした少女。


 エンリエと同じように黒髪だけど、首あたりで切り揃えられた髪で、額からは1本の角。1つのまん丸な目が1つ付いた少女、ルクアは今すぐにでも天使に飛び掛かりそうなほどうずうずしていた。


「ぷぷっ、お子ちゃま」


「はぁっ? 何行ってるのさ、レミネイア」


 そして、そのルクアを笑ったのは、全身が植物の蔓のようが集まったようになっている女性で、レミネイア。少し内気な彼女は、よくルクアをからかったりする。


「喧嘩……」


「駄目……」


 睨み合う2人を後ろから捕まえる女性2人。2人とも同じ紫髪をしていて右目を髪で隠している方がケイシー。左目を髪で隠している方がネイシー。2人とも見た目は私と瓜二つ。違いは髪の毛の色が違っているくらい。


「私も速く子供たちを遊ばせたいです、ミレーヌ様」


 そして、カチカチと音を鳴らしながらそう言ってくるのは、自身の体より大きめな服を着ている女性で、デューア。手をすっぽりと覆い隠すほど大きめの袖はゴソゴソと動いている。あれが子供達なのでしょう。


 この7人がハルト様が私に与えてくれた配下、七星天女。1人1人がかなりの強さを持つようにハルト様に作られ、平時はハルト様の身の回りの世話をする私の配下たちだ。


「まずは、空が自分たちの領域だと勘違いしている天使ハエたちを地に這いつくばらせましょうか。皆さん、よろしいですか?」


 私の言葉に頷く七星天女たち、!やる気は十分と言ったところですね。ハルト様にいいところを見せたいという気持ちが見え見えですが。まあ、私も同じですけど。


 見ていて下さいね、ハルト様。あなたの敵は私たちが殺して差し上げます!

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