世界に復讐を誓った少年

やま

86.死の光

「よっしゃあ! 旦那から許可を貰ったぜ! ロウの旦那、どっちが多く倒せるか勝負だ!」


「ワウッ!」


 レルシェンドとロウは楽しそうに帝国軍へと向かって行く。レルシェンドはここのところロウにボコボコにされていたから鬱憤が溜まっているのだろう。まあ、ここで息抜きをして欲しい。


「ふぅ……ふぅ……大丈夫……大丈夫だ。俺は生き残る。絶対に生き残る。大丈夫だ……大丈夫……」


 マルスは緊張し過ぎてガチガチだ。前の戦いの時は側にはリーシャにいるようにしていたし、背後を取られないように死霊たちを立たせていたからそこまで不安にはならなかったのだろうけど、今は側には僕しかいない。そして、僕は守らないと前もって伝えているからね。マルスは不安なのだろう。


 まあ、せっかくの配下を見殺しにするつもりはないから、マルスの影に気が付かれないように悪魔の影ドッペルゲンガーは忍び込ませているけど。


「マルス、逃げたいのなら逃げてもいいよ。その時は君の代わりにティエラに戦ってもらうから」


 僕が軽くそう言うと、マルスの雰囲気が変わる。さっきまでの緊張が嘘だったように帝国軍を睨んでいた。全く、初めからそうして欲しいものだ。


 僕はマルスに更に悪魔の影をつけてから、もう1人の配下の元へと行く。僕を忌々しそうに見て来る女弓兵、セシラが弓を向けて来る。今は味方なのに。


 まあ、それも無視して僕はクロノの元へと行く。怠そうにしていたクロノにしてはボロボロじゃないか。


「どうしたんだい、クロノ。いつもはそんなに頑張るやつじゃなかっただろ?」


「そんな事言わないでよ、ボス。僕だってやらなきゃいけない時はやるんだから」


 そんなの初めて知ったけどね。僕はそのまま視線を下に向ける。そこにはクロノの側に寄り添うように銀髪の少女がいた。


 彼女から……いや、彼女の持つネックレスから尋常じゃない魔力を感じる。スザクの宝玉に似た雰囲気。これも帝具か。


「クロノ、どうしてこうなったかは聞かないけど、これから、あの帝国軍を突破するよ。遅れたら死ぬからちゃんとついて来てね」


 僕の言葉を聞いたクロノが、また無茶苦茶な……、と苦言をこぼす。他の人たちは突然現れた僕を見ていたけど、そのうち、裏切った兵士たちは全員殺す。突然倒れて行く兵士に驚くセシラ。まあ、自分の部下だった者が倒れたら驚くか。


「……あなたがやったのね」


「だめだったかい?」


 僕がそう尋ねるとセシラは首を横に振る。彼女も矢を構えていた弓を下ろしていた。さっきは寸前で裏切った奴らだ。仕方ないとでも思っているのだろう。


 僕は魔力を流して生き返らせる。肉壁ぐらいには出来るだろうしね。そんな事をしていたら、セシラの後ろからキラキラとした目を向けて来る1人の女性。桃色の髪をしており何故か僕の事を尊敬の眼差しで見て来る。


 話したそうにしているけど、今はそれどころじゃない。さっさとこの帝国軍を抜かなければならない。まだ、大国を相手するには準備が足りない。


 僕は周りに漆黒の短剣を出して帝国軍へと向かう。レルシェンドがいくら強いと言っても多勢に無勢。しかも、レルシェンド1人であのスザクたちを相手取っている。


 ロウはレルシェンドが囲まれないように雷を放ちながら駆け回っていた。なんだかんだ言って仲が良いからな、あいつら。


「ははっ! どうしたどうした! その程度か、犬っころ! 鳥野郎! 亀女!」


 所々傷を作りながらも楽しそうな表情を浮かべるレルシェンド。そのレルシェンドに向けて、数百人が魔力を合わせて1つの魔法を放って来た。


 何百という人間を一瞬で押し潰さそうなほど大きな岩。岩からはボコボコと沸騰したようにマグマが溢れていた。土と火の複合魔法か。


「面白え! オレも本気を出せるぜ! 凶竜化!」


 レルシェンドが空から降る隕石を見ながらも、更に深く笑みを増していく。そして、何か能力を使った瞬間、レルシェンドの体が黒く大きくなって行く。その瞬間、辺りを覆い尽くす死の気配。


 レルシェンドの体は漆黒の鱗に覆われ、腕や足は巨大な竜のものとなり、鋭い角が生える。紅く染めた目で降る隕石を見ていた。


「ガルァァァアアアッ!!!!!」


 そして、レルシェンドの角に集まる魔力。集まった魔力は一筋の黒い光となって隕石へと伸びていった。黒い光に当たった隕石はその光に包まれて消滅して行った。しかも、その光はそのまま地上へと降り注ぐ。


 黒い光に触れた帝国兵たちは次第に苦しみ出し、1人、また1人と倒れて行く。死の光か。障壁で防げるようだけど、暴れるレルシェンドにガラスのように破られて行く。


 ……あまり、興奮させるのはやめよう。配下を殺されてはたまらない。まあ、今回はこの隙をついて帝国軍を抜けるか。


 光が後ろの奴らに当たらないように侵食の太陽イクリプスソルを空に発動する。降り注ぐ光を受け止めて吸収する。さて、まっすぐ突っ切るとするか。

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