世界に復讐を誓った少年

やま

80.下を通って

「……クロノさん。本当にこの様な姿で中に入られるのですか?」


 そう言いながら不安そうに自分の格好を見るシーシャ。彼女が着ている格好は、町娘の様な格好の上にねずみ色のローブを羽織っただけな格好だ。城の中では明らかに浮く格好に、シーシャは困惑としているようだ。


 この町娘のような服とねずみ色のローブは僕が街で買ったものだ。普通であれば何の変哲も無いただの服だけど、当然改造している。


 中の服は物理・魔法の威力をほんの少しだけど、抑える能力があって、1度だけ自分の意思で全ての攻撃を防ぐ障壁を出す事が出来る。発動時間は30秒だけだけど。


 その上に着ているローブには、認識をぼやけさせる効果がある。近づけばわかるけど、暗い中だといるのがわからなくなるだろう。シーシャは不安そうだけど、我慢して着て貰おう。


「大丈夫、似合っているよ」


「……そういう事では無いのですけど……嬉しいですけど。それよりどこから入るのですか? 皇城の周りは高い壁に覆われています。いくつか入り口はありますが、そこには兵士が立っていますし」


「ああ、それなら既に準備は出来ているよ。まずはそこに向かおう」


 この帝都に来てからの命令の1つでずっとやって来たのがあるんだよね。それを使えば良い。シーシャにはまだ話していないから怪訝な表情を浮かべながらも、僕の後に付いてくる。


 夜は人の姿が少なくなるけど、全くいないわけじゃ無い。特に城に近づくにつれて見回る兵士も増えてくる。それらに見つからないように向かわないとね。僕もシーシャが着ているのと同じローブを着る。なるべく人に近づかないように向かわないと。


 しばらく歩くと、ローブを引っ張られる感覚がある。シーシャが僕のローブを握っていたようだ。シーシャも自分の行動にビックリしている。不安だったのだろう、無意識にやったみたいだ。


「ご、ごめんなさい」


「別に構わないよ。なんなら、手を握ろうか?」


 僕がそう尋ねると、シーシャは顔を赤くして手を離す。残念。その後は無言のまま歩き続ける。歩く事30分ほど。隠れながらにしては早く着いた方だね。


 僕たちが着いたのは城壁……ではなく皇城から少し離れた小屋だ。中には掃除道具などが置かれている事から、貴族街の掃除をする者の物置といったところか。


 鍵はかかっているけど、この程度なら簡単に開けられる。容易に鍵を開けると中へと入る。シーシャは僕の後ろを恐る恐ると付いてくる。中は前に見た時と同じように掃除道具が散乱していた。まあ、僕としては隠すために好都合だったからいいけど。


 その小屋の奥に行くと、シーシャはひぃっ! と悲鳴を上げる。これは悪い事をしたなぁ。こんな薄暗いところに、オプスキラーが立っているなんて、誰でもビビるだろう。


 僕はオプスキラーを帰して、目を瞑るシーシャの背を落ち着かせるようにゆっくりと撫でる。次第に落ち着きを取り戻したシーシャは、恐る恐る目を開けてオプスキラーを探す。いない事に気が付いてホッとすると、今度は慌てて僕を見て、また慌てる。


「気にする事はないと思うよ。それに、あれは僕の配下だから怖がる必要もないよ」


「……う〜、別に怖がっていませんよ、もうっ! それよりもここには何の用で来たのですか? ただの物置部屋のようですが?」


 辺りをきょろきょろと見回して歩き回るシーシャ。オプスキラーがいないとわかったら好奇心旺盛だね。しかしその壁は……


「うーん、何もないで……きゃぁっ!?」


 シーシャが適当に壁に触れていると突然壁が崩れる。そしてシーシャは壁の向こうに倒れそうになるけど、その事を知っていた僕は彼女の手を掴んで引っ張る。


「大丈夫かい?」


「かかか、壁、壁に穴がっ!?」


 慌てるシーシャは涙目で穴が空いた壁を指差している。僕に抱きつくように。なんか、お化けを見たって怖がっていた妹を思い出すなぁ。思わず頭を撫でてしまう。


「ど、どうしてそんな落ち着いていられるのですか! ってか頭を撫でないでください! 子供じゃないのです!」


「いや、まだ、子供でしょ? それに落ち着いていられるのはその穴、僕が作ったものだから」


「えっ? ……まあ、ビビっていませんけど。ビビってないですからねぇ!!」


 うんうん、強がる姿も懐かしい。もっと撫でてしまう。


「もうっ! そ、それでこの穴は何なんですか? どうして掘ったのですか?」


「この穴は皇城の地下食料庫に繋がっているんだよ。いつでも皇城内に入れるようにコツコツと準備していたんだ。さあ、行こうか」


 後ろで「めちゃくちゃです」って言っているけど、ボスの方がめちゃくちゃだから。今頃暴れているんだろうなぁ。まあ、僕はそういうの得意じゃないからいいけど。


 暗い地下の道を歩く事1時間、目的の出口に辿り着いた。その間にそれぞれの皇子に皇女の話を聞いた。


 今から会う予定のエリーゼ皇女は、容姿端麗、文武両道な何でも出来る皇女らしい。年は17歳で婚約者が王族の近衛隊にいるのだとか。


 皇女は民のために考えてくれる方らしいのだが、皇女の出す政策案が悉く貴族に反発するものばかりで、敵が多いのだとか。


 1番は獣人国、亜人国との交易再開だろう。当然、その両国が受け入れるわけが無いけど、受け入れてもらう案として、現在帝国にいる獣人、亜人たちの奴隷の解放を唱えているとか。


 貴族からしたら自分らの奴隷という財産をタダで返せと言われているものだからたまったものではないだろう。


 第2皇子は他2人の政敵になり得ない。理由はまだ6歳の子供だからだ。まだ右も左もわからない子供に期待する貴族はいない。それなのに玄武家が後ろ盾にいるのは、噂だけど可愛い男の子が好きらしい。しかも、小さい子が。


 玄武家の現当主は女性でまだ20代の美女らしいのだけど、かなりの前科持ちらしい。言葉にするのも嫌なほど。それを差し引いてもかなりの実力者らしく放置されているらしい。変態度で言うなら、まだ、2歳の第2皇子に誓いを立てるほどだけど。


 そして、最後の第1皇子。これが凄いらしい。皇帝は存在するが、帝国の政務をほぼ担っているとか。勿論武術も一級品らしい。会いたくないところだね。


「ふぅ、やっと出られました。クロノさん。ここからはどうするのです?」


「予定通り第1皇女を探そうと思うけど……何か騒がしいね?」


 何とか地下食料庫に辿り着いたけど、上からは夜なのに走り回る足音が鳴り響く。何かあったのは確かだろう。


 まあ、今更予定を変える気は無いからこのまま行くとしよう。不安そうに天井を見上げるシーシャの手を握る。シーシャは僕を睨んでくるけど、手は離さなかった。さて、行くか。

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