世界に復讐を誓った少年

やま

75.少女趣味は無いけど……

「んだよ、てめえは? どこから湧いて出た?」


「いや、初めからいたし。それより退いてくれない? 邪魔なんだけど」


 僕の言葉に青筋を浮かべる男たち。女の子はどうしようか迷っているみたいだけど、無意識の内にか僕の服を握っていた。


「小僧、どうやら痛い目に合いたいようだな?」


 指を鳴らして威嚇しながら近づいて来る男。僕が鼻で笑うと、沸点の低い男は殴りかかって来た。勢いよく振り下された拳は僕の頰を殴る……事が出来ずにすり抜けていく。


 レイスである僕に物理攻撃は効かない。自分が意識していれば物とかは人とかは触れるけど、基本はこの通りになる。女の子が触れたのは、怪しまれないように僕が実体化しているからだ。


 男は予想外な事に体勢を崩した。僕はそれを見逃さずに男の頭を掴む。そして


「ドレイン」


 男の生命力、魔力を吸い込む。男は一瞬にして干からびてミイラになった。突然の事に動きを止める男の仲間たち。女の子も驚いて動けないようだ。


「……お、お前……な、何しやがったんだ?」


 さっきまで強気だった男たちも突然干からびた仲間を見て、恐怖に顔色が変わっている。


「何って吸っただけだよ、ほら」


 僕は震える男たちに手のひらを見せる。手のひらには干からびた男から吸い取った生命力と魔力で作られた魔結晶だ。人1人使って作った魔結晶でも、ボスが作った魔結晶には勝てない。どれほど魔力込めているんだろう、あの人は。


 僕は作った魔結晶に魔力を込めて即席の魔道具を作る。魔力を込めた魔結晶を男たちへと投げる。男たちは突然投げられたものから距離を取ろうとするが、魔結晶は地面にぶつかり、そして


 パァン!


 と、破裂した。ほんの少しの衝撃だけど音は大きいため、男たちは恐慌状態に陥る。その間に僕は少女の手を握って男たちの間を通り抜ける。


 通り過ぎる際に2つの魔結晶を撒き、周りからは見えないように風の魔法で風景を変える。魔結晶からは、ボスから預かっているオプスキラーが2体現れた事だろう。後で回収しに行かないとね。


 それからしばらく裏道を走っていると、後ろから追っ手が来ない事に気付いたのか少女が立ち止まる……いや、単に限界が来ただけか。


「はぁ……はぁ……あ、ありが……と……う、ござい……ます」


 ずっと走ったせいか息も切れ切れって感じだね。僕はポケットから青い魔結晶を取り出す。少し魔力を込めて少女の口に入れる。


 少女は突然口に異物を入れられた事で吐こうとするけど、直ぐに出たものに驚いて口を閉ざす。魔結晶から出たのは水だ。僕が水魔法を魔結晶に封じ込めて作ったさっきのと同じような即席の魔道具だ。


 少女は驚きながらも、乾いた喉わを潤す為にゴクゴクと喉を鳴らす。しばらく飲むと効果が無くなったのか、少女が口元から魔結晶を取り出す。ただ、手元に取り出した魔結晶を見て恥ずかしそうにしているけど。


 まあ、言いたい事はわかるよ。自分の口から出したものを返し辛いのだろう。女の子だしね。僕は手に水の球を作って少女に向ける。少女も意図がわかったのか、申し訳無さそうに水の球の中に魔結晶を入れた。


 自分の唾液が付いている石をそのまま触られたくは無かったのだろう。まあ、そう思うのは女の子として当然だ。僕は何も言わない。


「……助けて頂きありがとうございます」


 礼儀正しく頭を下げて来る女の子。格好は薄汚れているけど、動きの1つ1つに気品が見え隠れしている。元は良いところの育ちだったのかな?


「偶々居合わせただけだから気にしなくて良いよ。それでさっきのは?」


「……さっきのはこの帝都を裏で牛耳る奴らの下っ端たちです」


 へぇ〜、そんな奴らがいるんだ。そういえば聖王国にもいたかな? どこにでもいるんだね、そういうの。


「……あいつらのせいで、お母様もお父様も」


 さっきの奴らとの話を聞く限りでは、そいつらのせいでこの子の両親は死んだって感じだね……裏の組織か。この国との戦争の際に使えるかな? 僕が1人で考え込んでいると、目の前の女の子は


「助けて頂き本当にありがとうございました。何かお礼をしたいところなのですが、ご覧の通りこのような身です。返せるものがなくて申し訳ないございません」


 と、頭を下げて来る。別に気にしなくて良いのにね。そのまま辺りを見回して立ち去る少女。女の子の後をつけるのは趣味じゃないけど、もう少しさっきの奴らについて話を聞きたいな。奴らを利用した方が、楽そうだ。


 ◇◇◇


「おい、龍の涙はまだ来ねえのかよ?」


「すいやせん。例の貴族の地下に隠されていたのは見つけたんですが、生き残った娘にとられまして」


「ちっ、早く見つけやがれ! あれがねえと新しい青龍様が暴れちまう! 面倒な事はごめんだぞ!」


「だ、大丈夫です、お頭。娘の場所はわかっています。あと少しで捕らえるでしょう」

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