世界に復讐を誓った少年

やま

72.VSスザク(2)

「まずは我が兵士たちを救うとしよう。聖なる羽!」


 全身が炎に覆われたスザクは同じように背中に生えた翼から炎の羽を、帝国兵と、その帝国兵を襲う僕の配下へと向けて放った。配下と言っても、今この場で作った元帝国兵の死霊たちだが。


 放たれた羽は直径が10センチにも満たない小さなもので、火も小さい。そんなのが刺さってもほんの少し焼けるだけだと思っていたけど、死霊たちへと突き刺さると


「ギャアアアアッ!!?」


 先ほどまでの小さな火が嘘のように全身を瞬く間に包んでしまった。そして、その羽は生きている帝国兵へと突き刺さると傷が癒えていった。


「くく、驚いたか? これが私が持つ帝具『朱雀』の力だ。この宝玉には大昔、この大陸を襲った四獣の1体、聖獣朱雀の力が封じ込められており、この宝玉を持つ私は聖炎魔法というのを使う事が出来る。聖なる力で味方を癒し、燃え盛る炎で敵を燃やし尽くす。まさに、私に相応しい魔法だ」


 何が相応しいのかは知らないが、聖属性を持っているのは面倒だな。僕の死霊とは相性が悪い。


「死霊を操るという事は貴様は闇魔法の使い手だろう。この聖炎魔法は闇をも燃やす。貴様では私は倒せない!」


 空高く飛んで高らかに叫ぶスザク。偉そうに好き放題言ってくれるな。闇をも燃やす? はっ、そこら辺の闇魔法の使い手と一緒にするなよ。


「なら、見せてやるよ」


「何?」


「光をも飲み込む闇の深さってやつを!」


 僕はそう言って、空を飛ぶスザクへと向かう。スザクは僕を鼻で笑いながらも羽を飛ばして来た。周りに浮遊している短剣で迫る羽を防ぎ、手には剣を持つ。


 球体をいくつも発動してそれらを円盤に変形させ足場を作り、スザクへと切りかかる。しかし、機動性は断然翼を持つスザクの方が速い。


「ふん、遅い遅い! 空を制する私に追いつけると思っているのか! 聖なる羽!」


 スザクは飛び回りながら何千という火の羽を放ってくる。だけどその程度でやられないよ!


侵食ノ太陽イクリプスソル!」


 侵食ノ太陽を発動し、迫る火の羽に反応するように高速で僕の目の前を飛び回る。次々と羽を吸収していき次第に動きが遅くなっていくが、その分吸収した魔力の量は膨大だ。


 いつもならこの魔力を糧に攻撃するのだけど、今回は実験に使わせてもらおう。


 僕は手元に侵食ノ太陽を引き寄せると両手で持つ。その間も羽は飛んでくるけど、周りに発動した武器で防ぐ。ただ、意識は手元にある膨大に膨れ上がった球体に集中しているため、武器の間をすり抜けて僕の体を傷付ける。


「どうした! もう諦めたのか!? まあ、それも仕方あるまい! この力の前では誰もがそうなるのだから!」


 僕より高い位置で飛び回りながらぎゃあぎゃあと笑い声をあげるスザク。それを無視して更に集中する。しかし、他人の魔力を制御するのは難しいな。


 僕が今やっているのは、他人の魔力で魔結晶を作れるかの実験をしている。自身の魔力で人工の魔結晶は何度も作った事があるけど、他人の魔力は初めてだ。思ったより制御が難しかった。


 だけど、これが出来るようになると、これから兵力に幅が出来る。この力で作った人工の魔結晶を死霊たちへと持たせたらどうなるか。まあ、今はそれよりもこの荒々しく暴れる炎を操らないと。


「ふん、この私を無視か。もういい、死ね! 聖炎の大風!」


 スザクは背から生える炎の翼を大きくはためかせ、炎の風を放ってくる。炎の風が僕を焼いていくが、体で受けた事により、吸収した炎の感覚がわかるようになった。このまま侵食ノ太陽を圧縮する……出来た。


 僕の手元にはメラメラと黒く燃え上がる炎を纏う魔結晶が握られていた。くくっ、これで僕も新しい力を使う事が出来る。


 手に握られる魔結晶に魔力を流し、空を飛ぶスザクと同じように体に炎を纏わせる。ただスザクの炎と違うのが、スザクの輝く炎とは反対に、禍々しく燃え上がる漆黒の炎だった。


 再び迫る炎の風を黒炎で焼き尽くす。なんだ、あいつの炎はこの程度か。僕は手に炎を集め


「黒炎鳥」


 火の鳥を放つ。スザクは突然迫る漆黒の火の鳥に驚くが、火の翼で防ぐ。だけど


「っ! 熱い! 熱い熱い!! な、何故だ!? 何故熱い!?」


 予想外の熱さに空を飛び回るスザク。何をそんな慌てる事がある? ただ、お前の炎を僕の黒炎が上回っただけなのに。


 僕は更に魔結晶に魔力を注ぎ、剣へと姿を変える。漆黒の炎を纏う闇の剣。これは良い。その剣を大きく振りかぶり、空を飛ぶスザクへと放つ。


「黒炎斬」


 放たれた黒炎の斬撃は真っ直ぐとスザクへと飛んで行く。ただ、スザクもタダではやられない。


「くっ、この私が……炎を纏う私が、他の炎に負けるかっ! 鳳凰剣!」


 光り輝く炎の剣で僕の黒炎の斬撃を受け止める。スザクの炎は次第に輝きを増して、僕の斬撃を飲み込んでいく。そして


「はぁっ! は、ははっ、はははっ! どうだ! 私の炎は最強だ! 私の持つ朱雀の力は最強……だっ!?」


 黒炎を飲み込んでいった。僕の黒炎に勝った事がそんなに嬉しいのか叫ぶスザク。だけど、僕はそんな炎の競い合いなんぞに興味は無い。斬撃を放つと同時に、スザクへと放っていた武器が、背後からスザクに突き刺さる。


 スザクは僕を睨みながら地上へと落ちていく。さて、トドメを刺して宝玉とやらを貰おうかな。そう思って近づこうとしたら、スザクの体が燃え上がる。そして、刺さっていた武器が抜けて傷が癒えていった。あれも朱雀の力とやらか。


「……はぁ……はぁ。貴様のせいで死んでしまったでは無いか。不死鳥の癒しを使わなければ死んでいたところだ。くそ、そのせいで魔力も無くなった」


 へぇ、それは面白い力だ。より欲しくなった。だけど、僕が近づく前に空から大きな鳥が飛んで来た。その鳥が足でスザクを掴むとそのまま飛んでいってしまった。あれはファイアバードだったかな。火山帯で生きる鳥だ。ちっ、逃げられたか。


 宝玉は欲しかったけど、まあいいや。まずはこの戦いを終わらせよう。そのためにも


「いた、いた」


 楔を利用させてもらう。

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