世界に復讐を誓った少年

やま

71.VSスザク

 真っ赤な髪をして剣をいくつも背負う男、スザクとやらが空から降って来た。周りの兵士たちは初めは驚いていたが、そいつが姿を現わすと歓声を上げる。それほど有名な奴なのか。まあ、剣聖とか言っていたしな。


「我が国の大切な帝国民を殺すだけではなく、死体を冒涜するその行い、貴様を断じて許す事は出来ない! 覚悟しろ!」


 勝手に盛り上がって、勝手に迫るスザク。こいつ、僕の嫌いなタイプで話を聞かない奴だ。まあ、強ちこいつの言っている事は間違いではないのだけど。それでも、一方的な言い分は腹が立つ。攻めてくるのなら


「殺される覚悟ぐらいしろ!」


 迫るスザクに向かって短剣を放つ。10本全てが向かうが、スザクは手に持つ剣で全て弾く。そして何を思ったのか手に持つ剣を投げて来たのだ。


 僕は直ぐに短剣を2本交差させて防ぐが、剣の切っ先が触れた瞬間、短剣が折れて消滅してしまった。さっき弾かれた時は折れなかったため、予想はしておらず無理矢理体を捻って避けたけど、肩を少し掠った。


 少しバランスを崩したところに、背の剣を2本抜き迫るスザクの姿が。直ぐに短剣を2本手元に戻して逆手に持ち、振り下ろされる剣を受け止める。


 そして、筋力の差で押し返そうと力を加えた瞬間、スザクは再び剣を手放した。当然力を加えようと前に踏み出した僕は、力の行き場を無くしてバランスを崩す。そこを狙ってスザクはまた新たに抜いた剣を横振りに放ってきた。


 僕は前へと転がるように避けて距離をとる。こんな戦い方する奴初めてで調子が狂うな。今まで武器を離す奴なんていなかったからな。


 そんな風に武器を手放すスザクを見ていると、どうして手放すのかがわかった。剣が勝手にスザクの元へと戻っていくのだ。


 剣自体に魔法がかけられているのか、スザクが使っているのかはわからないが、奴が武器を手放す理由がわかった。


 後は僕の魔術で作った短剣が突破された事が気になるけど、スザクの戦い方がわかったので、やりようはある。


 再び短剣を放つ。まずは10本。スザクは先ほどと同じように弾くが、そこに更に10本追加する。計20本の短剣がスザクを襲う。


 スザクはそれも弾きこちらへと向かってこようとするので、まだ余裕があるんだろう。それならまだ増やしても大丈夫だよな。


 短剣の他に槍、斧、剣を作り、全てをスザクはと撃ち込む。全部で100本はあるだろう。流石にこれ以上は僕には厳しい。だけど、全方位から迫る武器にスザクも防ぐのに必死だ。


「くっ!」


 そして苦し紛れに放ってくる剣。だけど今度は短剣で防がすに避けてすれ違いざまに柄を掴む。さっきから見ていたけど、この剣には破壊効果のある魔法が付与されている。


 魔力を流したところに触れさせると、必ず切る、貫く事が出来るようだ。だからさっき短剣で防いだ時は少しも持たずに貫かれたわけだ。


 この効果はかなり強い代わりに、結構な量の魔力を持っていかれるはずだ。だからスザクは切っ先だけにしか魔力を流してなかったのだろう。普通の剣士では使えない魔剣だ。


 ……うん、決めた。この剣は僕が貰うとしよう。どうせ殺して使う人がいなくなるんだ。別にいいだろう。早速使わせて貰うとするかな。


 剣に魔力を覆うように流す。おおっ!? 結構な量の魔力を持っていかれたぞ。確かにこの量も必要になるのなら普通の奴なら一部だけで諦めるわな。


 ネックレスに集めて魔力を上げている僕でも少しビックリしたくらいだ。普通の人間なら何百人と必要になるほど。


 だけど、その分性能はかなりのものだ。試しに近くにいた帝国兵に切りかかると、抵抗を感じる事なく切り裂いてしまった。鎧や剣など関係無く。これは良い。


 スザクはその間、僕の放った武器に手間取っていた。いくら弾いても返ってくるからね。スザクの姿が僕の放った武器で殆ど見えないくらいになっている。でも、そのままという事はまだ死んでいないのだろう。


 うおっ? そんな光景を見ていたら剣が引っ張られる感覚が手にくる。スザクの奴が呼んでいるのか。まあ、渡さないけど。


 引っ張られる感覚に合わせて僕は走り出す。武器を除けると目の前にはスザクの姿があった。全身傷だらけだけど、致命傷は負っていないから、上手い事避けたのだろう。それに、僕が来るのも予想していたのか武器を構えていた。


 そこで引っ張られる感覚に反発するように力を入れて、無理矢理僕が剣を振り下ろす。抵抗しながらなので、速度は無いが、スザクは受ける事ができないため避ける。


 だけど、残念ながら避ける事は出来ないよ。僕が握る剣は不自然な程にカクン、と曲がる。スザクの顔を目掛けて。


 流石に予想外の動きに咄嗟に剣で防ごうとするが、自身がこの剣の力について誰よりも知っているからか、苦い顔へと変わる。


 ただ、剣で防いだ事が功を奏したのか、迫る剣から避ける時間が出来てしまった。いくらなんでも切れるからと言っても摩擦なんかは無くなるわけじゃ無いようだ。


 僕はそのまま左足で回し蹴りを放つ。スザクは切られた剣を盾にして受けるけど、地面を転がる。そして僕から距離を取るスザク。


「貴様、俺の魔糸を利用したな」


 自分の隠していた技を話すなんて、馬鹿だな。まあ、利用したのは確かだ。魔糸、名前の通り魔力で作られた糸だ。


 作るのは簡単だけど、それを切れないようにするのが難しくて、あまり使う人はいない。スザクはそれを利用して放った剣を手元に戻るようにしていたのだ。


 僕はそれを利用させてもらったってわけだ。奴から伸びる糸を手繰り寄せるようにして剣を向かわせたのだ。


「……仕方ない。貴様は好敵手と判断して本気を出そう。我々のみが扱える帝具を! 翔け、朱雀!!」


 スザクはそう言った瞬間、体中から炎が噴き出した。まさか自殺か? と思ったが、本気を出すと言っていたのだ。そんな訳がない。空高く登る炎。その中から大きく広げられる炎の翼。炎の中から姿を現したのは紅蓮の炎を見に纏ったスザクだった。

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