世界に復讐を誓った少年

やま

63.VS神獣

「初めまして。私がこのメルキューア王国の女王である、エリシネーゼ・メルキューア。気軽にエリーゼ、若しくはお母さんと呼んで頂戴、坊や」


 ……本気か冗談かわからないがそんな事を言ってくる亜人国の女王。僕は女王の言葉を無視して椅子に座る。


「知っていると思うが僕がハルトだ。それで、なぜ僕を知っているか教えてもらおう、メルキューア女王」


 メルダが慌てて、リーシャとマルスは僕の後ろに立つ。女王は僕の女王への呼び方に頰を膨らませていた。長命で殆ど不老のエルフである女王は、娘であるメルダとそんなに年が離れていないように見える。姉妹と言ってもわからないほどに。


「もう、つれないわね。でも良いわ。ここにいる間に私の事お母さんって呼ばせてやるんだから」


 ……本当に何を言っているんだ、この女は? 女王は呆然とする僕の方へとやって来て、そのまま僕の頭を抱きしめて撫でて来た。余りにも自然だったので僕もリーシャたちも反応出来ずに、少し遅れたから僕は勢い良く離れる。


「あら、逃げちゃった。別にここでは肩肘張らなくて、力を抜いて過ごして良いのよ? いくら力を持っていてもあなたはまだ子供。まだまだ甘えて良いんだから」


「……僕の質問に答えろ。どうして僕を知っている」


 僕は女王の言葉を無視して話を進める。力を抜け? 甘えても良い? ふざけるなよ。僕にはそんな暇はない。何より……何よりこの女王の雰囲気に少しでも流された自分に腹が立つ。何が母さんだ。僕の母さんは1人だけだ。


 僕の様子を見てはぁとため息を吐く女王。そのまま先ほどまで座っていた席に戻る。


「まだまだ時間はかかりそうね。まあ、良いわ。なぜ私があなたの事を知っているか、よね。それはメルダから聞いているかもしれないけど、私の能力にあるわ。私の力は未来視、職業も巫女という職業なの。この国にある大神木を守るね」


 やはりか。その力で僕が神獣と戦うところか、勝った後の事を見たのだろう。その時に僕の名前や能力、目的も知ったってところか。


「その様子だとあらかた予想はついていたようね。この力はあまり長い時間未来を見る事は出来ない上に、魔力量なら多種族に比べて多い方であるエルフの私ですら、あまり連続して使えないから、どうにかして神獣を倒す方法を探していたら、突然あなたが見えたのよ。神獣と戦うあなたが」


「それなら、その予知で神獣の倒し方がわかるんじゃないのか? 別に僕を呼ばなくても」


「それが、駄目なのよ。私たちが総出で相手をすれば確実に負けて国は滅ぼされる。だけど、坊やが参加してくれると、未来が分かれたのよ。あなたが参加しても負ける未来と、勝つ未来に。その未来も未だ確定じゃないけど」


 それほど神獣は強いのか。益々欲しくなって来た。それに、女神から奪うのがなお良い。


「それなら、神獣を見に行こう」


 僕は立ち上がって部屋を出る。リーシャもわくわくした様子でついて来て、マルスはまた緊張している。女王たちも当然付いてくる。


 再びワイバーンに乗って、大神木の麓まで飛んで行く。遠くからも見える程だったけど、近づくとその巨大さがよりわかる。この大神木、てっぺんが雲を突き抜けている。


 その麓にはかなりの殺気を放ってくる獣がいた。全身が白銀の毛に覆われて、頭には鋭く尖った1本の角が生えており、赤く光る瞳は殺意に輝かせていた。


 そして、僕を見た瞬間、その殺意が一気に膨れ上がる。膨れ上がる殺意と同時に頭の角から雷が迸り、神獣を閉じ込めている結界の中が光り輝く。あの結界はもうもたないな。


「女王、配下を殺したくないのなら直ぐに離れさせろ。あの結界は……」


「ええ、もうもたないわね……だけど神獣の雷よりも、あなたのそれの方が危ない気がするのだけど……」


「それも含めて離れさせろよ。あの結界が敗れた瞬間暴れるのは目に見えている。少しでも先制を加えたいからね」


 僕は空中に僕の魔力をかなり詰め込んだ円錐型の物体を作る。数は作れるだけ。何千じゃあ済まないだろう。それを全て神獣へと向ける。


 女王の命令でメルダが魔法を空に向かって撃つと、結界を張っていた亜人たちがその場から離れる。結界を張っていた亜人たちが離れた事で結界は消えるが、それに合わせて僕は空中の物体を全て神獣へと放つ。


混沌ノ雨カオスレイン


 神獣に向けて勢い良く向かう円錐型の物体。神獣はどうするのかと思ったが、「ガァァッ!」と一鳴きすると頭部の角が雷で輝き、次の瞬間には神獣を覆う程の雷のバリアが出来た。


 僕の攻撃が勢い良く雷のバリアへとぶつかるが、ぶつかった瞬間、円錐に雷が放電し焼かれて消滅した。


 全ての攻撃を防ぎきると神獣は僕たちの方を見てニヤリと笑う。あいつ、腹立つな。


「行こうか、リーシャ」


「ああ、まさか生き返ってこんな相手と戦えるとは。武者震いが止まらない!」


 リーシャはそう歓喜しながらワイバーンから飛び降りた。手には帝国の時と同じように土色の剣を握っていた。


「女王たちは援護を頼むよ。マルスは今回も見学だ」


「わ、わかりました!」


 僕もワイバーンから飛び降りる。リーシャみたいには出来ないから空中に円盤を出して足場を作る。両手には大鎌を。


「はっ!」


「ガラァッ!」


 僕が降りている間に、リーシャは神獣へと辿り着き切りかかっていた。神獣は角でリーシャの剣を弾き右足でリーシャを吹き飛ばした。リーシャは地面にぶつかるが、直ぐに立ち上がり神獣へと向かう。僕もさっさと向かおう。

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