世界に復讐を誓った少年

やま

45.とある家族の話(3)

「ん? 最近ダルの様子がおかしい?」


 俺たちが職業を手に入れてから3ヶ月ほどが経ったある日。いつも家の事を任せているエマが、仕事から帰って来た俺にそんな事を言って来た。


「うん。朝は早く出て行くし、夜は帰ってくるのが遅いんだよ。最近そういう日が続いているみたいで」


 うーん、最近王都が騒がしいのが関係しているのか? なんか魔物が現れたとかで……いや、俺たちの様な外れに住んでいる奴らには関係ないか。


 それなら、あいつの仕事のせいか? あいつは確か職業の『剣豪』を見込まれて雇われたって言っていたっけ。誰にまでは聞かなかったけど結構良いところって言っていたな。


 俺は出来るだけこの家から離れたく無いから、近くの商店で用心棒的な事をしている。スラムであるこの辺りは当然治安が悪いため、近くの店なども盗みなどされる事がある……俺も昔はお世話になった。


 そのため、その商店では見張り番の様な者を探していたので、現在働かせてもらっている。普通のチンピラ程度なら余裕で倒せるからな。


 ピルクは『軽業師』を使って、王都を拠点としている劇団に所属している。まだ、下っ端だけど楽しいと言っていたな。


 ティエラは家で子供たちを見ながら内職をしてくれている。職業に関してはティエラもわからなくて使えないのだとか。その事を何故か謝られたが俺は全然気にしていない。俺も自分の『黒騎士』の事についてあまりわかっていないし。


「マルス兄ちゃん?」


「ん? ああ、ダルの事は俺に任せとけ。エマは気にしなくて良いからな」


「うん、わかった」


 俺の言葉を聞いて子供たちがいる部屋に戻るエマ。夜まで待ってみるか。


 ◇◇◇


 既に日が変わった頃だけど、確かに帰ってくるのが遅いな。普段はこの時間帯は寝ているから気が付かなかったな。しばらく椅子に座って待っていると


「どうしたの?」


 と、部屋からティエラが出て来た。


「起こしちゃったか?」


「ええ、マルスがいないから心配になっちゃってね」


 そう言いクスクスと笑うティエラ。そのまま俺が座る椅子の隣まで来て、俺の手を握る。


「ダルの事?」


「ああ。気が付いていたのか?」


「ううん。少し帰ってくるのが遅い、ってぐらいだわ。でも、ここまで遅いとは思わなかったわね」


 あの野郎。ティエラにまで心配かけさせて。帰って来たら1発覚悟しろよ? それからしばらくティエラと話しながら待つと、外が少し騒がしくなって来た。


 そして、家の扉が開かれダルが入って来た。それだけなら良かったんだけど、その後ろにはニヤニヤと気持ちの悪い笑みを浮かべた男たちも一緒だ


「おう、邪魔するぜ? はっ、確かに貴族が欲しがるな」


 男がそう言ってティエラを見てくる……こいつらの目的はティエラか!?


「……おい、ダル。一体これはどういう事だ?」


「……悪いな。俺のためにみんな犠牲になってくれ」


 ダルはそう言うと腰にある剣を抜き、切りかかって来た。俺は咄嗟に体を後ろは逸らすが、肩に痛みが走る。くっ、避けきれなかったか。


「おら、テメェら、あの嬢ちゃんは貴族の野郎に。女のガキは売って、男のガキは国にくれてやる。何故かは知らねえが探していたからな」


 こいつら、何が目的で……くそっ!


「ダル、てめぇ、自分が何をしているのかわかってんのかよ!」


「わかっているさ。だが、俺はもうこんな暮らしをやめるんだよ。そのためにお前らには犠牲になって貰う!」


 ちっ、何を言っても聞かねえのかよ! 俺がダルの相手をしている間に他の男たちは次々と中へと入って来やがる。


「ティエラ! 子供たちを起こして逃げろ!」


「で、でも!」


「良いから行け!」


 俺は近くにあった椅子を持ち、ティエラに近付こうとする男たちへと投げる。家の壁が割れるがそんなのを気にしている暇はない。


 だけど、俺が男たちへと気を逸らした内にダルが近づいていて


「がっ!?」


 体を斜めに切られた。無意識に体を逸らしたおかげで深くはないが、体を赤く染める。そのままダルに蹴り飛ばされ壁に激突する。


「マルス!!」


 ティエラの叫び声と共に倒れる音が聞こえてくる。音の方を見れば、ティエラが椅子から倒れており、地面を這うように俺の方へと向かって来ていた。


「……に……げろ……ティ……エラ……」


「嫌よ! あなたを置いて……痛!」


「おうおう、見せてくれるねぇ。だけど残念。お前はこっちだ」


「は、離しなさい! 汚い手で触らないで!」


「うるせえな!」


「きゃあっ!」


 あいつ、ティエラを叩きやがったな! 俺は男を睨みながら立ち上がろうとするが


「動くな」


「がっ!」


 ダルに腹を蹴り飛ばされる。そして左肩に剣を突き刺された。痛みに叫びそうになるが、歯を食いしばってダルを睨みつける。


「……なんで、こんな事を……」


「そいつはな、俺らと同じでとある貴族様に雇われてるんだよ。そこで、ここじゃあ出来ない暮らしをしていてな。ただ、貴族様はこの嬢ちゃん目当てでダルを雇ったんだよ。それで、雇われ続けるのには嬢ちゃんを差し出せって言われてよ。面白かったぜ、あれは。今の生活がやめられないこいつは即答だったからな。こいつにとってお前らはその程度だったって事だよ。
 ああ、あと俺たちは国からの依頼だな。意味がわからねえけど、誰でもいいから1家族探しているらしくてな、スラムの奴なら良いだろうと、探すように言われたんだよ。そこで、丁度貴族様の話があったからよ、お前らを狙ったってわけだ」


 男の話を聞いている間に、奥の部屋から子供たちが次々と連れ出されて来た。エマやミントたちも泣きながら部屋から出てくる。ピルクは気丈に男たちを睨んでいるが、既に頰が腫れていた。


 俺は壁に手をつけて何とか立ち上がる。くそ、体の傷が痛え。視界もぼーとして来た。俺は立つのがやっとで、膝に手をつきながらダルを睨んでいたが


「はぁ……はぁ……ティエラをら……みんなを返しやがれ」


「悪いがそれは出来ない」


 俺の視界に最後に入ったのは右手を振りかぶるダルの姿だった。


 それからの事はあまり覚えていない。目を覚ませばジメジメとした牢屋のような場所で、近くにはボロボロになったピルクや男の子供たちが固まって座っていた。


 ティエラや女の子供たちを聞くと、あの家で別れてからは出会っていないと言う。あの日から既に3日は経ったそうだ。くそ、俺に力が無いばかりに。


 それからまた2日ほどが経った頃、俺たちは突然現れた兵士たちに連れられて牢屋から出る。どうしてここでこの国の兵士が現れるのかはわからなかったが、あの時の男の話を思い出す。


 確か国が誰でもいいから1家族を探していると言っていた……そのせいだろう。それから、少し歩くと広い場所へと連れて来られた。


 そこには、俺たちが見た事も無いような豪華な服を来た男たちが立っており、その向かいには俺やピルクに近い年の男に、物凄く綺麗な女性たちが立っていた。


 豪華な服の男たちはその向かいの男を睨んでいた。それにロープの男から感じる恐ろしい気配。何だこれ? 子供たちも震えている。


 くそ、子供たちだけでも助けられないのか? それに、ティエラたちも。悔しい。悔しいがそれ以上に力の無い俺に対して腹が立つ。


 もっと、みんなを守れるようにしていればこんな事にはならなかったかもしれない……今更後悔しても遅いのかもしれないが。


 俺が1人で後悔していると、こちらに近づいてくるローブの男。俺は何故かその男から目が離せなかった。

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