世界に復讐を誓った少年

やま

38.魔国エステキア

 魔国エステキア


「……全く、聖王国には困ったものだね」


「全くです」


 私は私は目の前で手紙を渡してくれたこの城の執事であるルシュウに声をかける。ルシュウも同じ気持ちなのか私と同じように苦笑いを浮かべていた。


「彼らは私たちの何が気に食わないのだろうか? 容姿だろうか? 確かに人には無い角を持ち、赤い瞳をしている。中には人ならざる者もいるだろう。しかし、考え方は人間たちと変わらない。人族と同じように感情もある。嬉しい事があれば喜び、悲しい事があれば悲しむ。恋をする事もあるだろうし、夢が出来る事もある。
 ならば、強さだろうか? 人族以上の魔力は持っているし、力もある。特殊な能力を持っている者もいる……が、それだけが全ては無い。人族の中にも我々に勝つ者はいるし、数の差は歴然だ。いくら強いといっても、数の差には勝てないだろう」


「その事は考えても答えは出ないと思われますぞ、陛下。先代、先々代、それよりも前の魔王様たちがずっと考えて来た事です。それでも、解決出来なかった事なのですから」


「それはそうだが……分かり合えない事は無いはずだ。現に我が国には多種族が住んでいる。当然人族もだ」


「それも、聖王国からすれば目障りなのでしょう。ただでさえ、我々を悪魔などと言いふらし、人族至上主義を掲げる聖王国です。それなのに、異種族である我々が、種族問わずに受け入れている事が、聖王国としては許せないのですよ」


「……難しいものだ」


 私は深く椅子に座り込む。この座に就いてから既に10年、まだ半人前とはいえ、国を率いる王だ。なんとしても、国が無くなることだけは避けなければ。


「そう、1人で悩む事はありませんぞ、グレイス坊っちゃま。我々が相談に乗りますので」


「……突然、先生に戻らないでくれよ」


 昔私に勉強を教えていた頃の様に話しかけてくれるルシュウ。この人には敵わないな。


「それで、この国を目指している者たち……勇者たちはどうしますかな? 殲滅するようでしたら七魔将の誰かを送ります。もしくはわた……」


「いや、今は警戒だけでいい。まだ、魔の森を入った頃だ。あそこはいくら勇者だろうと簡単には抜けられない。それに彼らの中には『雷光』もいる。無理に攻める必要はないさ」


「もっとも十二聖天に近いと言われている者ですな。噂では400年前の英雄である『紫電』に近いとかで」


「ああ、十二聖天でない者に七魔将が負けるとは思わないが無理して傷を負う必要もない。いざとなれば私も出る」


 聖王国の十二聖天。黄道十二星座を元に作られた聖王国の最強の12人。彼らでもない相手に負けるようでは、我が国も厳しくなる。だが、聖王国は人数が多い分、人材に優れている。その点ではかなり厳しいものがあるだろう。


「……む?」


「……ん?」


 私とルシュウが勇者たちについて話し合っていると、廊下から走ってくる気配がする。基本は私の執務室の前の廊下は緊急時以外は走る事が許されていない。だが、今回は小さい歩幅で走ってくる気配。この気配は……


 バタンッ!


 と、大きな音と共に開けられる扉。そして、扉から入って来たのは2つの小さな影。


「お父様!」


「おとちゃま!」


 私の愛する息子と娘だった。今年7歳になるルーカスと、今年4歳になるシルーネだった。どちらも私と同じ銀髪の髪を揺らしながら私の机の前まで走ってくる。


 そして、遅れて部屋に入って来たのは2人の子守兼護衛を任せている騎士のセーラだ。白髪で頭に2本の角が生えている鬼族の女性だ。年は20を少し過ぎたぐらい。


 この子たちの母親、つまり私の妻は今は城から離れている。元々私と結婚する前は武将として名を轟かせていたからか、外で仕事がしたいらしく、城周辺の街を回る警備のような事をしている。


 それに、この子たちのために2日に1回は帰ってくるため、私も許可を出しているのだ。


「も、申し訳ございません、陛下!」


「なに、構わないよ。この子たちも理由も無く部屋には入って来ないからね」


 私は子供達の頭を優しく撫でながらセーラに微笑む。この子たちのために一生懸命に働いてくれているのだ。礼を言う事はあっても、怒る事は無い。


「それでどうしたんだ、ルーカス、シルーネ? 何かあったのかい?」


「はっ! そうだったのです! 僕たちお父様にお願いがあって来たのです!」


「ですっ!」


 私が撫でるのを気持ちよさそうにしていたルーカスが我に帰ってそう言ってくる。それに習うようにシルーネも私を見上げて……あっ、また気持ちよさそうな顔をしている。可愛い。


「私にお願い? 何かな?」


「これ、ですっ!」


 私が尋ねた瞬間、シルーネが両手を頭の上に掲げてポンッと何かを出した。両手の上に出したのは直径30センチほどの卵だった。重たいのか手に持った瞬間ふらつくシルーネだが、それを予想していたルーカスが支えてあげる。微笑ましい光景だがそれよりも


「……シルーネ、今魔法を」


 シルーネは何も無いところに卵を移動させて来た。これは、卵を別のところから召喚した召喚魔法なのか、それとも別の空間から移動させる空間魔法なのかはわからないが……。


 私がセーラを見るがセーラは首を横に振る。彼女が教えたわけではなさそうだ。


「……天才というやつですな。さすがは陛下のお子様です」


 ……ルシュウ、孫を見るお爺ちゃんみたいに泣くなよ。子供たちもポカーンと見ているじゃ無いか。


 私はこほんっと咳払いをして笑顔でシルーネを見る。この卵から何が言いたいのかはわかるのだが、一応確認しておこう。


「その卵は何かな?」


「森で拾いました! 飼いたいです!」


 うむ、元気があってよろしい。よろしいのだが……これは何の卵なのだろうか? 悪い気は感じないから危ないものでは無いと思うのだが。


 ルシュウやセーラを見ても難しい顔をしているため、多分知らないのだろう。


「飼って良い?」


 キラキラした目で私を見上げてくるシルーネ。むむ、どうしたものか。私が考えていると


「良いのでは無いでしょうか?」


「ルシュウ?」


「王子様と王女様、生き物を育てるというのは責任が伴います。ちゃんと最後まで育てられますか?」


「ルシュウ、僕頑張るよ!」


「ルシュー、私も頑張る!」


「そうですか。では、私もお手伝い致しましょう。ベルーチェにも手伝ってもらいますから大丈夫ですよ、陛下」


 ……魔物使いのベルーチェがいるなら大丈夫か。それにルシュウもいる。万が一は無いだろう。


「2人とも、途中でやめたら許さないからな?」


「「はいっ!」」


 私が許可を出すと、卵掲げながらその場を周り変な歌を歌う2人。可愛い2人、私もルシュウもセーラも、自然と頰が緩む。


 このひと時が続いて欲しいものだ。

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